第13話 究極の選択

 エドガーの催眠魔法にかけられてしまったリーサ。エドガーはそんな彼女をお姫様だっこする。


「う……寝ている人は流石に重いな」


「ならワシが変わろうか?」


 エドガーは魔術師故に力がそんなにない。だからバーサーカーの自分が代わりに担ぐ。マークは親切心からそう言った。しかし、その一言がエドガーの逆鱗に触れた。


「なんだと! 僕のリーサに触ろうとするな! 変態! スケベ! いやらしい人!」


「おいおい。ワシはそんなつもりじゃ……」


 エドガーの余りの物言いにマークは怒ろうとしたが、ここで仲間割れをしても意味がない。ここはマークは大人としての対応を見せる。


「リーサたん。待っててね。もうすぐキミをお嫁さんにしてあげるから」


 マークは内心「こいつやべえな」と思いながら、エドガーを見ていた。


 リーサを抱っこしているエドガーとマークは酒場へと入っていった。


「よお。マークにエドガー。調子はどうだ? その分だと派手にやったようじゃねえか」


 マスターは眠らされているリーサを見てそう言った。


「マスター。奥の部屋借りるよ。リーサを安全な場所で寝かしつけたい」


「ああ。自由に使ってくれ」


 エドガーは酒場の奥の部屋へと入っていった。そして、リーサを仮眠用のベッドの上に寝かせた。リーサの体は完全に無防備な状態だ。エドガーはその体を舐めるように見回した。


「うーん……悩むな」


 エドガーは悩んでいた。リーサの体の部位で一番素晴らしい箇所は何処かを。まず第一候補にして本命は何と言ってもその豊満な胸であろう。ただデカいだけではない。形も大変整っていて綺麗だ。エドガーは童貞故にまだこの箇所を触る勇気はない。だが、そのエドガーでも本能が理解している。これは触り心地も抜群のハリと弾力がある胸だと。


 第二候補は引き締まったウェスト。胸の豊満さの割にはこの箇所は一般的な女性と比べてやや細い。バストが豊満な女性はウェストも豊満になりがちな傾向があるが、リーサはその様子はない。確かに細い部類に入るのだが、病的なほど細くないのもポイントだ。程よい肉付きをキープしつつしっかりと引き締まっている正に理想的なウェストだ。


 第三候補は尻であろう。一般的な女性と比べて少し大きめではある。だが、これはだらしないデカさではない。きちんと筋肉と脂肪の配合比が絶妙にバランスが取れているデカだ。尻には小さい尻が好きか大きい尻が好きかで派閥が分かれるであろう。しかし、リーサは胸がデカくて身長もそれなりにある。だから、尻はデカい方が全体としてのバランスは取れるのである。この完璧な体型を見れば、小さい尻派も改宗せざるを得ないであろう。


 そして最後は一定数の支持者がいる脚である。むっちりとした太腿と脹脛ふくらはぎは健康的なエロすを醸し出している。リーサは盗賊故に速力が高い。故に足の筋肉の発達は異常である。しかし、彼女もやはり女性。全体的に丸みを帯びている体であるが故に、筋肉がついていても必要以上にごつくならない。むにむにとした感触の奥にある発達した筋肉の感触のギャップが大変素晴らしいものであると言えるだろう。


 結論を言えば全てが素晴らしい。そうエドガーは確信している。だが、どれか1つに答えを絞らなければならない時が来たらどうしよう。もしだ……もし、リーサに「私のどこが好き?」と訊かれた時のことを無駄に考えてみる。全部と答えたら明らかに適当に何も考えないように思われてしまうであろう。そんな時はやっぱりどれか1つに絞った方がいいと言える。


「豊満なバストか……引き締まったウェストか……いい肉付きの尻か……健康的な脚か……悩める」


 しかし、エドガーはある考えが及ばなかった。「どこが好き?」と訊かれて体の部位を答える。つまり、それは外見のことしか見てないと言っているようなものである。


 実際、エドガーはリーサの外見に惚れたから仕方のないことではあるが、女としてはやはり中身を見て欲しいもの。性格や仕草の好きな所を言えない時点で男として彼氏として終わっていることに気づいていなかった。


「よ、よし……どこが一番かさ、触って確かめるぞ」


 最低すぎる。男として人として最低すぎる。寝ている婦女の体に触るなど最低な行為である。しかし、エドガーは止まらない。暴走した童貞は止まらない。


 エドガーの手がゆっくりと伸びていく。リーサの胸にどんどんと近づいていく。心臓の高鳴る音が聞こえる。女の胸に触る。これって実質童貞卒業なのでは? と訳の分からない理屈を頭の中で捏ねながら、手が伸びて、後少しでリーサの胸に触れると思った瞬間。後ろで扉が開く音が聞こえた。


「ただいま戻りました」


 植物学者にして聖騎士のラッドが戻って来た。エドガーは慌てて手を引っ込めた。この光景を見られたら間違いなく変態のレッテルを貼られる。それだけは避けたかった。


「エドガー君。貴方何してるんですか……」


 ラッドは呆れたような目でエドガーを見ていた。見られていたのか? そう絶望的になった。


「あ、いや。その……」


「何できちんと止めを刺さなかったのですか! 女だからって容赦したんですか? 貴方は!」


 どうやら、リーサに止めを刺さなかったことを咎めているようだ。このラッドとかいう男は人畜無害そうな顔をして、実は4人の中で一番残忍な性格である。人を殺すのに全く躊躇をしない。しかし、聖騎士のスキルは悪行を積めば積むほど弱体化してしまう。それ故にラッドは自身の手を汚せなくなる聖騎士のスキルを忌み嫌っていた。


「あ、いや……その。リーサは僕達の仲間にするつもりなんだ。だから生かしているのさ」


「そうか……そういうことでしたか。それならいいんです。貴方が情にほだされて、その女を生かしているのかと思いました」


 ラッドはハッキリ言って悪人だ。だが、彼は聖騎士のスキルが全く弱体化していない。それは自身が直接手を汚していないからだ。例え悪人と共謀としたとしても実行犯ではない限りは聖騎士の弱体化は発動しない。その抜け道を付いて上手いこと悪行を重ねているのだ。


「そうだ。エドガー君。ここら辺の毒草は全て調べ終わりましたよ」


 毒草……それはラッドの得意武器である。毒を直接人間に注入すれば悪行とみなされる。だが、食事に毒を混ぜる等をして、対象が自ら毒を取り入れた場合は悪行とみなされないのだ。ラッドはそのことを利用して、今まで邪魔者を全員毒殺してきた。彼が植物を研究しているのは毒を効率よく手に入れるためであった。


「いい毒が手に入りました……これで邪魔者は全て消し去れる……くくく」


 開拓地村に仇なす最悪の4人が揃ってしまった。このまま彼らの思うがままになってしまうのであろうか……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る