第12話 盗賊リーサ
リックが暗黒騎士としての力を解放して野盗を殺しまわっている頃、野盗を率いるマークが開拓地村に辿り着いていた。
「お! マークじゃねえか。どうした? 何だそいつらは?」
開拓地村の村人はマークが訳の分からない集団を引き連れてきたことを疑問に思った。開拓地村に来た新しい住人だろうか。それにしては刃物を持っていて物騒だ。
「やれ」
マークがそう指示をすると、野盗の1人が村人の腹部を思いきり斬った。
「が……な、なんで……マーク……」
女性の悲鳴が上がった。一部始終を見ていた村人はざわめいた。そして、状況をすぐに理解したのか慌てて逃げ始めた。
「ワシらがこの村を破壊する。悪く思うな。へっへっへ」
マークは斧を振りかざして地面を抉り取った。この道は村人が一生懸命整備した土である。それを無慈悲にもぼこぼこにしていく。
「ひゃっはー! 村の破壊はやはり楽しいぜ!」
野盗達が家の壁をハンマーで破壊していく。このままでは村が壊滅するのは時間の問題であろう。
「ちょっと何よ……うるさいねえ!」
ウェイトレス姿のリーサが酒場から出てきた。この騒ぎで外の様子を見に来たのだろう。その時に見た光景にリーサは口をあんぐりと開けて驚いた。
「え……何で……?」
「ひゃっはー! 金髪の姉ちゃんだ! 上玉だぜこれは!」
「俺は右乳貰うぜ!」
「じゃあ俺は左だな!」
「何なんだよう。こいつら……戦うしかないようだけど……」
リーサが身構えた瞬間、彼女の背後から火球が飛んできて野盗を焼いた。リーサに色目を使った野盗がやられたようだ。
「え? 一体何なの?」
「僕のリーサに手を出すな! 殺すぞ!」
リーサに惚れているエドガーが、彼女を凌辱しようとする野盗を懲らしめたのだ。
「エドガー! てめえ裏切るのか!」
仲間を攻撃された野盗は憤慨した。エドガーは勿論、野盗側の人間なのだがそれ以上にリーサのことが大好きだ。彼女に危害を加える人間は例え仲間であっても容赦はしない。
「え? 裏切る? どういうことエドガー? あいつらの仲間なの? でも、私を助けてくれたし」
「大丈夫。僕が必ず貴女を守りますよ。リーサさん。さあ、僕らの仲間になりましょう」
「嫌!」
そう叫んで、リーサはエドガーの腹部を思いきり蹴飛ばした。盗賊稼業で鍛え上げた足から繰り出される蹴り。下手な物理系のスキルを持つ者より、威力の高いそれはエドガーを一撃で倒すのには十分すぎた。
「がは……リーサさん……どうして……」
「あんたら野盗の仲間になんかなりたくないね! 私は自分の身は自分で守る!」
リーサは構えた。彼女の得意とする戦い方はスピードと脚力を活かしたものだ。また盗賊スキルの技として敵の武装を解除したり、物を盗んだりすることも出来る。肉弾戦は格闘家並に強くて、盗賊特有のトリッキーな動きも出来るのがリーサの戦闘スタイルだ。
「まあいいや。エドガーがやられた今、この女を自由にし放題になった。それは
野盗達は曲刀を構えてリーサに襲い掛かった。リーサもナイフを取り出して応戦をする。野盗が連携攻撃をしてリーサへと詰め寄る。第1撃が来る。リーサは華麗な動きで躱した。2撃目が間髪入れずに来る。リーサは上に跳躍して躱した。そして、落下エネルギーを使い、飛び蹴りで野盗の一人を倒した。
「て、てめえ!」
「一人ずつかかるのはダメだ! 全員で取り囲んで一斉にかかるぞ!」
「
リーサの盗賊スキルの技で、野盗達の武装が解除された。先程まで持っていた曲刀が地面にポロリと落ちて、素手の状態になってしまう。
「な!」
武器を失った盗賊達は次々にリーサに倒されていく。所詮、曲刀頼りの野盗。肉弾戦も強いリーサの敵ではない。
「何だよ……リーサつええじゃねえか。てめえ、可愛いがスキルとか言っていたのは嘘だったな?」
「へへ。今頃気づいたの? 私の本当のスキルは盗賊。戦闘向きのスキルなのさ!」
「嘘のスキルを言って騙したのか。とんだ女狐だな」
マークはリーサの強さを見て笑い始めた。一体何がおかしいのだろうか。
「面白い女だな。俺達の仲間にしてえくらいだ。だが、仲間になる気はないんだろ?」
「当然。私はもう盗賊稼業から足を洗うことにしたんだ。野盗なんて真っ平ごめんさ」
「惜しいな。盗賊スキルを持ちながらその強さを持っている女。中々貴重だぜ。お前みたいないい女。世界中探したっていねえだろうよ」
「あらそう。よく言われる」
マークはリーサに近づき斧を振り上げた。その動作を見たリーサはその場から瞬時に移動した。そして、移動した刹那リーサのいた場所の地面が割れるくらいに抉れた。後ほんの一瞬反応が遅かったら、リーサは真っ二つになっていたであろう。
「アンタはさっきまでの有象無象の野盗とは違うってわけね」
「何てったって、ワシはこいつらのリーダーだからな。格が違うんだよ!」
「
リーサは
リーサが片手で持ち上げられないものを、このマークという男は楽々片手で持ち上げている。なんという恐ろしい男であろうか。
「あんた……木こりのスキルじゃないね。ただの木こりがそんなパワーを持っているはずがないもの」
「気づいたか。ワシの本当のスキルは
「人のことを女狐とか言ってた割には、アンタもとんだ嘘つきね。でも、嘘つきな男は嫌いじゃないよ」
リーサはマークに足払いをしかけた。まともに戦ってはパワーに勝るマークに勝てないと判断したからだ。スピードやテニクニックで翻弄するしか勝ち目はないだろう。
しかし、リーサの足払いをマークは耐える。やはり重量級のバーサーカー。足腰の鍛え方も尋常ではない。生半可な足払いでは到底倒すことは出来ないだろう。
リーサは考えた。一体どうすればいいんだ。この巨体を崩すにはどうすれば……どうすれ……ば……何で……眠く……
そこでリーサの意識は途絶えた。
「よお、エドガーやっと起きたのか?」
「ああ……リーサに眠りの魔術をかけた。ふふふ。寝顔も可愛いなリーサたんは……このままキスしたいけど、王子様のキスじゃ目が覚めちゃうかな?」
「うわあ……」
エドガーの気持ち悪い発言にマークはドン引きした。
「とにかく、リーサには危害を加えないでくれよ! 売り飛ばすのはなしだ! リーサたんはぼ、僕の……お、お嫁さんにするんだから」
「ああ。好きにしろ。その女を売り飛ばせば結構な金になるだろうが、お前にくれてやる。魔術師のお前とやりあうつもりはねえからな」
「流石マーク。話がわかるー!」
この開拓地村で戦力になるリーサまでもが敵の手に落ちてしまった。これから一体どうなってしまうのだろうか……
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