第11話 野盗襲撃

 俺はいつものように木を切っていた。俺の木こりも板についてきたようで、マークとほぼ変わらない速度で木を切り倒せるようになっていた。木こりのスキルを持っているマーク並に木を切り倒せるなんて、俺もしかして木こりの才能があるんじゃないのか。


 俺が自惚れていると、目の前に緑色のフードを被った集団がやってきた。数は、50人くらいいるだろうか。集団は腰に曲刀をぶら下げていて穏やかではなさそうな雰囲気だ。


「へっへ。よお兄ちゃん。金目の物を出しな」


 フードの集団はどうやらこの辺りを根城にしている野盗のようだ。俺は斧を持ち構えた。これより先は開拓地村がある。こいつらをそこに行かせるわけにはいかない。


「マーク! 一緒に戦ってくれ!」


 マークは木こりのスキル持ちではあるが、筋肉と体力が相当なものがある。彼が一緒に戦ってくれたらかなり心強い。


「悪いなリック」


 背後から聞こえた声と共に俺の背中に激痛が走る。なんだこれ……背中が剥がれ落ちると思うくらい痛い。背後を確認するとそこには血がべっとりとついた斧を持っていたマークの姿があった。


 俺がマークに斬られたのだと理解するのに十数秒かかった。マークがそんなことをするはずがない。そういう思いが俺の思考を鈍らせていた。


「マーク……どうして……」


「へへ、流石マークの兄貴! 非常で冷徹な裏切りっぷりっすね!」


 野盗が手を揉みながらマークをおだてている。この口ぶりから察するに野盗とマークは繋がっていたのであろう。


「リック。お前が悪いんだ。お前の仕事があまりにも早く上達するものだから、ワシのスキルが木こりじゃないってバレてしまう所だったじゃないか……スキル持ちがスキルなしと同等の仕事しか出来ないわけがないだろう」


 なんてことだ……マークは自身を木こりのスキル持ちだと偽っていたのか。確かにスキルが何かを知っているのは本人しかいない。俺だって暗黒騎士の力を隠している。


「ワシの本当のスキルはバーサーカー。狂戦士だ。斧の扱いに長けていて、バーサクモードになれば理性が吹き飛ぶ代わりに力がかなり増す。こいつぁかなり強力なスキルだぜ」


 そんな……仲間だと思っていた奴に裏切られるなんて思いもしなかった。俺はこれから開拓地村に骨を埋める覚悟で頑張ってきたのに。


「マーク……こんなことして、マスターもラッドもエドガーも黙ってないぞ……」


 この村に住む3人の戦闘要員。竜騎士のマスター。聖騎士のラッド。魔術師のエドガー。この村にはちゃんとした戦闘要員がいるのだ。


「おめえバカだな。そいつらもわしの仲間に決まっておろう」


 嘘だろ……あの酒場で語り明かしたマスターが……? 学者のスキルがないのに必死で努力していたラッドが……? エドガーは……単なる学歴詐称野郎だし、どうでもいいか。


 俺は裏切られた気持ちになった。故郷の村を追い出された時と同じ辛さを今感じている。一緒にいた期間は短いけれど、マークも、マスターも、ラッドも尊敬できる人であった。それなのに、どうしてこんなことに……


「兄貴。こいつの始末は俺らに任せてくだせえ」


「ああ。わかった。野郎ども行くぞ!」


「へい!」


 5人の野盗を残してマークは去っていった。俺は5人の野盗に取り囲まれている。このまま、俺はここで殺されてしまうのか……


 するとデブの野盗が俺に近づいてきて舌なめずりをした。何だこの野盗。気持ち悪いな。


「ぶひひ。あたすのスキルを教えてやるんだな。あたすのスキルは美食家グルメなんだな。食した相手のスキルを奪う能力を持っているんだな。最強のスキルなんだな」


 俺のスキルを奪うって? 冗談じゃない。こんな暗黒騎士のスキルを野盗なんかに渡してたまるか。このスキルを悪しき心の持ち主が使えばロクなことにならない。それだけは阻止しなければならない。


 暗黒騎士の力よ。また俺に力を貸してくれ。



「ぐへへ。俺のスキルは肉屋だ。解体はお手の物だぜ? 今からこいつを食いやすい大きさにカットしてやるぜ」


 野盗の一人が肉切り包丁を持って、リックに斬りかかった。しかし、リックは振り下ろされる肉切り包丁を右手で掴み受け止めた。


「な! 何だと!」


 そのままの勢い。握力だけでリックは肉切り包丁をへし折る。その圧倒的な力に野盗は開いた口が塞がらないようだ。


 リックはおもむろに立ち上がった。そして、彼の体が漆黒の瘴気に覆われ、瘴気は鎧へと変化していく。


「お、おいおい。なんだあの恰好は……騎士系のスキルのようだけど、こんな黒い鎧の奴見たことない」


「ぶひひ。随分とレアなスキルなんだな。あたすの力に相応しいんだな。スキルガチャ! 何が出るかな。何が出るかな」


 グルメのスキルは、食した相手のスキルを奪うことが出来る代わりに自由にそのスキルを使うことが出来ない。食したスキルはストックされて、使うためにはランダムで発現するスキルガチャを使用しなければならない。強力な反面、運の要素があるので扱いにくいスキルと言えるだろう。


「ぶひぃ! 出た! 格闘家のスキル。ほわちょー!」


 グルメな野盗は暗黒騎士リックに向かって、蹴りを放つ。その攻撃が成功して見事破壊されてしまった……野盗の骨の方が。


「あぎゃあ! な、何だこの堅さは……い、痛いよぉ!」


 野盗は情けなく泣き喚いた。攻撃をした側が逆にダメージを負ってしまうという事態に陥ってしまったのだ。


「クソ! 奴に格闘攻撃は通用しないぞ。ちゃんと武器で相手にダメージを与えるぞ」


 4人の野党は陣形を組んだ。リックを取り囲むような配置になり、じっくりと獲物を追いつめるように近づいてく。


「食らえ! アーマーブレイク!」


 野盗の一人が曲刀でリックの鎧を切り裂こうとする。アーマーブレイクはブレイカーのスキルで、鎧を破壊するのに特化した技だ。普通の鎧ならばこれで粉々になってしまうであろう……普通の鎧なら。


 攻撃をしかけたはずの曲刀が真っ二つに折れてしまった。鎧のあまりの堅さに曲刀が耐えきれなかったのだ。


「バ、バカな! うぐ……」


 攻撃をしかけたブレイカーの野盗の喉元をリックが掴んだ。そして、そこに力を込めて野盗の首に最大限の握力を送り込む。


「だずげ……」


 骨が砕け散る音が静寂な森に響き渡った。その嫌な音と共に野盗はぐったりと倒れて口からは血がだらりと垂れる。リックは動かなくなったそれを森の奥へと放り投げた。


「ひ、ひい! な、なんだこいつ。やべえよ! 勝てねえ!」


 恐れ戦いた野盗達は逃げようとした。しかし、殺人衝動に駆られているリックが彼らを逃がすはずがなかった。リックは深紅の魔剣ブラッド・ブリンガーを野盗に向かって投げた。ブラッド・ブリンガーはまるで自身に意思があるかのように曲がりくねり、野盗達を次々に串刺し、貫通していく。


 そして、ブーメランのようにリックの手元にブラッド・ブリンガーが戻って来た。


 決着がついたその瞬間、リックは暗黒の力が解除されて元の姿に戻った。



 俺は意識を取り戻した。どうやら勝ったようだ。背中に受けた傷も暗黒騎士の再生力によって治癒したようでもう痛くない。ただ、流した血は元には戻らないので、少し貧血気味だ。皆の所に急ぎたいけど、この体じゃあんまり無理は出来ないかも。


 許さないぞ。マーク、マスター、ラッド、エドガー。俺の平穏な日々をぶち壊しやがって。俺の平穏のためにあいつらを絶対に殺してやる!

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