第8話 開拓地村
結局俺達はテントで一晩過ごすことになった。翌朝、雨もすっかり止んで、太陽の光が照り付けている。絶好の旅日和だ。草原の草花にはまだ雫がついていて雨の痕跡を感じられる。
「ラッド。テントを貸してくれてありがとう。お陰で濡れずに済んだ」
俺はラッドにお礼を言った。ラッドは照れ臭そうに頭を掻いている。
「いえいえ。困った時はお互い様です。では後程、開拓地村で会いましょう」
「ラッドありがとー。これからもよろしくね」
俺とリーサはそのまま北へとひたすら進んだ。そして、目の前に木造の家が大量に立っている場所があった。これはもしかして村という奴ですか? 開拓地村についた感じですか?
「リーサ! 開拓地村が見えたぞ」
「本当だ!」
俺はテンションが上がった。リーサもそれに釣られてぴょんぴょんと飛び跳ねている。飛び跳ねているリーサの胸が揺れる。思わずそれを目で追ってしまう。これは決していやらしい目線とかそういうのではない。ただ動いているものを目で追ってしまう本能的なやつだ。俺は健全な男子だ。決して変態ではない。と心の中でいい訳をしてみる。
まずは領主に挨拶をしにいかなければならない。俺は開拓地村に入るなり、辺りを見回して人がいないかを確認した。すると、近隣の家から髪の毛がもじゃもじゃのおばさんが出てきた。第一村人発見!
「すみません。俺達、この村に移住を希望している者なんですけど、領主様の家ってどこにあるかわかりますか?」
「おお! アンタ達この村の開拓に協力してくれるのかい? 嬉しいねえ。領主様の家はこの村の中心地にあるよ。このまま真北に行けば赤いレンガ造りの大きな家がある。そこが領主様のお屋敷だよ」
歓迎されている雰囲気で良かった。ここの村人はいい人そうだ。決して裏切るような真似はしたくないな。
「それにしても、アンタ。美人な嫁さん連れてるじゃないの。いいね。若いね。青春だね」
「ち、違う! リーサは嫁でもなんでもない! ただの同行者です!」
「そんなひどいよ……リック……私達テントで一晩過ごした仲じゃない。あの熱い夜を忘れたの?」
リーサの発言に、おばさんはこちらを睨みつけてきた。え? 何? 俺が悪者の流れになるの? これ。
「アンタ! 男ならちゃんと責任取らなきゃダメじゃない! こんな可愛い子を捨てるなんてバチが当たるよ!」
「こ、これは誤解ですって。もうリーサ。ふざけるのはやめてくれよ!」
リーサは悪戯っぽい笑顔でこちらに向いて舌を出す。こいつ。可愛いけど憎たらしい。
結局、誤解を解くのに小一時間かかった。これからこの村に住むのだから、厄介事はごめんだ。全く、とんでもない女だな。リーサは。
俺達はそのまま、領主様の屋敷を目指した。北に真っすぐ進むと確かに目立つ建物があった。周りが木造住宅の中、一つだけレンガ造りの家で嫌でも目立つ。俺は扉をノックした。するとしばらく待った後に扉が開く。中からメイド服を来た黒髪ロングの美人なお姉さんが出迎えてくれた。
「本日は何のご用件でしょうか?」
「えっと……俺達はこの村に移住を希望するものですけど、領主様にご挨拶をしにやってきました」
「そうですか……では、こちらにどうぞ」
俺達はメイドに案内されるがまま中に入った。中はとても綺麗で整理整頓されている。まあ、メイドを雇っているなら当たり前か。応接室には黒いテーブルとソファーが設置されていて、俺達はソファーに座るように誘導された。
何か壁には高名な画家が描いたと思われる絵が飾ってあって、とても落ち着かない。こういう高級な雰囲気はダメなんだよなあ。
「あの絵……売ったらいくらになるんだろう」
リーサは麦わら帽子を被った白いワンピースの少女が草原に佇んでいる絵を見つめている。実に盗賊らしい思考。
「リーサ。この村では絶対に盗みは働くなよ」
「わかってるって。リックの顔に泥を塗るような真似はしないよ」
本当かな。口でなら何とでも言える。盗賊のスキルは、過去に何度か盗みを働いていると発現しやすいという。このリーサも根っからの盗人である可能性が高い。
でもまあ、このリーサの無邪気な笑顔を見ていると不思議と信じたくなってしまう。残念なことに男は可愛い生き物に弱いんだ。
しばらく待っていると、上質な素材のスーツを来たちょび髭の中年男性がやってきた。男性は歳を取っているもののかなり端正な顔立ちで若い頃は相当な美形だったであろうことが伺える。彼がこの村の領主様だろうか。
「やあ、初めまして。私はこの村の領主のボーンだ。よろしく頼む」
「俺の名前はリックです。よろしくお願いします」
「リーサでーす。よろしくお願いしまーす」
「キミ達はこの村に移住を希望しているのだね。うむ。では早速スキルを教えてもらおうか」
「俺はスキルを持っていない所謂出来損ないです」
「ふむ……スキルなしか。まあいいだろう。ここの開拓は常に人手が足りていない。スキルがなくてもきっちり働いてくれれば文句はない。スキルがある者のサポートをよろしく頼む」
やはり開拓地村はスキルがなくても爪はじきに合わないというのは本当だった。それだけ人手不足が深刻な状況なのだろう。仕事があるのはいいことだ。俺は今まで実質スキルなしのせいで中々定職につけなかったからな。
「私のスキルは可愛いことです」
「なるほど……そういうスキルもあるのかね。随分と世の中広いな」
おいおい。こいつ平然と嘘をつきやがったぞ。いや、まあ俺も暗黒騎士の力を隠しているから人のこと言えないんだけど。こいつ盗賊だぞ。
「この年まで生きていて新しいスキル持ちに会うのは初めてだ。中々貴重な体験をさせてもらったよ」
当人同士が納得しているならそれはそれでいいか。
「では、早速キミ達に住まいを提供しよう。この家を出て左の方に進むとアパートがある。キミ達はそのアパートに住むといい」
やった。ずっと家無し甲斐性無しの俺だったけど、ついに念願の定住地を手に入れることが出来た。この三年間ずっと居場所がなくて辛かった。
「では、これがアパートの鍵だ。まずは自室に戻ってゆっくりと休むといい。ここまでくるのに長旅で疲れただろう」
領主様はカギを二つテーブルの上に置いた。カギのプレートには「203」と「204」とそれぞれ書かれていた。リーサは盗賊らしい素早い動きで「203」のプレートがついたカギを取った。
「私、こっちがいい。4って数字は何か不吉だから嫌なの」
「俺はそういうの気にしないからこっちでいいよ」
というより、リーサが数字が隣接しているってことはリーサが隣の部屋か。何か無駄に意識をしてしまう。
「では、リック君とリーサ君。キミ達の活躍に期待しているよ」
「はい。ご期待に添えるようにがんばります。それでは失礼いたします」
「失礼しまーす」
俺達はボーンの屋敷を出て、そのまま向かって左にあるアパートを目指した。アパートの外観は真新しくて最近出来たばかりの新築のようだ。この開拓地村自体新しい村であるから、当然と言えば当然か。
アパートの二階部分に上がり、俺は「204」と書かれた部屋の鍵を開けて中に入った。中は思ったより広くて、ベッドも付いていて快適に寝泊まり出来そうだ。
「やっほー! リックー! 遊びに来ちゃった」
リーサが俺の部屋にずかずかと入って来た。一体何の用だろう。
「ねえ、リック。今晩はカギを開けたままにしておいて……その私、気分的にしたくなってきちゃって……逆夜這いかけちゃうかも」
「嘘つけ。絶対俺の持ち物盗む気だろう」
「チッ、バレたか」
全く油断も隙もあったもんじゃない。スケベ心丸出しの男ならこれで騙されていただろうな。
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