第39話 面白い師匠
亮翔は真っすぐに茶室へと向かった。そこで案内する師匠が待っているらしい。三人はどんな人だろうと緊張してきた。
「ああ、いらっしゃいましたね。どうぞ、拙僧が亮翔の師の高倉春成です」
しかし、にこにこと笑顔の春成を前にしてみると、その緊張はすぐに解けていた。いかにも優しいお坊さんという感じで、亮翔とは対照的だ。横に同じくにこにこした恭敬もいて、わざわざすみませんと頭を下げていた。
「いえいえ。うちのお祖父ちゃんが引き受けたことですし。それですぐに出ますか」
慌てて千鶴は頭を下げ、琴実とがっくんもぺこりとお辞儀した。
「ええ。それでは行ってきますね。亮翔、間違っても尾行するなよ」
しかし、にこにこ顔で亮翔を牽制するところを見てしまうと、師弟だなと納得してしまった。この人も実は腹黒いのかもしれない。一方、亮翔は明確に舌打ち。うん、この人も相変わらずだ。
そんな二人にくすくすと笑ってしまったが
「じゃあ、行きましょうか。まずは松山城ですね」
ともかく最初の目的地、松山城に行こうと持ち掛ける。このままだと延々と師弟で口ゲンカしていそうだ。
「そうですな。では、お願いします」
「いってらっしゃい」
こうして不機嫌な顔の亮翔と、苦笑している恭敬に見送られ、春成を加えた四人はまず松山城へと向かうことになった。
「大街道商店街を抜けていきましょう」
「お願いします。いつも行くのは寺ばかり、しかも移動は車ですからな。こうやって歩いて松山を見て回ること自体が始めてなんです」
にこにこと春成は女子三人に囲まれて嬉しそうだ。その様子にほっとしつつも、松山城以外はどうしようと悩んでしまう。
「あの、お城に向かいながら、他にどこか見たいところがあるか聞きたいんですけれど」
「どこでもいいんだが、地元の人はそう言われると逆に困るか」
「ええ」
そう。あれこれ考えたものの、千鶴はここがいいという妙案が浮かばなかった。それは琴実にしてもがっくんにしても同じだ。
「観光する場所って、僕たちは学校の社会見学とか遠足で行った場所になりますから」
がっくんがそう説明すると、なるほどと春成は顎を擦る。
「ううん。そうなると面白いかどうかが解らないかあ。自主的に行くのと学校の行事で行くのは、やはり気持ちが違うだろうし。あっ、君たち、観覧車は乗ったことはあるかい?」
春成はそうだと指を鳴らす。
それはお坊さんの格好と不釣り合いで三人は笑ってしまった。
「もちろん。シースルーゴンドラが楽しいんですよ」
「それ。それに乗ろう」
「え? いいですけど」
まさか祖父と同い年くらいの人がシースルーゴンドラに興味津々とは思っていなかったので、検討対象にも入れていなかった。千鶴はびっくりしたものの、それも楽しくていいかと頷く。
「でも、そうなるとお城と逆方向ね」
だが、琴実は移動が面倒になりますけどと、春成に一応の確認をする。そうだ。観覧車があるのは松山市駅。お城とは逆方向になる。
「いいよ。丁度あの路面電車にも乗りたいし」
「ああ。運が良ければ坊ちゃん列車に乗れるかもしれないですし、ぐるっと松山を見るには最適です」
それならば大丈夫と琴実は頷いた。こうして一応の観光ルートが決定した。ちなみに坊ちゃん列車は路面電車の一つなのだが、観光用に蒸気機関車を復元したもので、約一時間に一本走っている。
「坊ちゃん列車はいいなあ。毎回見るだけで乗れていないし」
春成も乗りたいなあと呟き、できる限り坊ちゃん列車に乗るようにしようと決まる。そんな一行は、まだ早い時間とあって開店準備をしている商店街を足早に抜けた。そこから少し坂道になり、ここはロープウェイ街と呼ばれている。
「千鶴さんのお祖父さん、雅彦さんのお店はこの辺だったな」
「はい。ちょうどあの角のところですね。あっ、でも夕食の会席は銀天街の方のお店ですよ」
「そうなのか。じゃあ、向こうに向かうのは丁度いいんだな」
「はい」
また戻ってくることになるのかと懸念していたようだが、それは大丈夫。それにこちら側は観光客が多くて落ち着けないだろうと、雅彦は銀天街にある店でおもてなしすることにしていた。銀天街のお店は地元の人も立ち寄るお店であり、こちら側にあるお店よりも広いというのも理由だ。
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