第21話 道後温泉を満喫だ
旅館に到着したのは二時過ぎだったというのに、道後温泉の観光へと出かけたのは三時半になってからだった。
「ごめんね、がっくん。あの感じの悪い坊主と長い時間二人きりにして」
「う、ううん。すぐに八木先生が来たし」
「あ、そうなんだ。そう言えば迎えに行った時も八木先生いたもんね。やっぱ旅館に一人じゃ時間を持て余すのかな」
「どうだろう。久々に喋りたいことがあるからって言ってたよ。僕たちが出て行ってから、大学時代の話をゆっくりするって言ってたし」
「ふうん」
そんな会話をしながら望月旅館から道後温泉本館へと坂道を下っていく。これがなかなかの急坂で、浴衣に下駄で歩いていると時間が掛かる。でも、これも乙な時間だ。泊りがけで来ないと味わえない。
「お風呂は部屋の露天風呂でいいとして、やっぱり道後ハイカラ通りを満喫よね」
「そうね。普段は地元民だし、そんなにきゃっきゃと見るのはって思うけど、この格好ならば遠慮はいらないわ。みきゃんグッズもバリィさんグッズも買うわよ」
がっくんのことがあるからとは言わなかった琴実に、千鶴はさらに被せるように観光客になるわよと意気込んで見せる。それにがっくんは微苦笑。
でも、完璧乙女ながっくんは、そんな顔すら可愛いから反則だ。普段から中性的な顔立ちだから、浴衣もばっちり似合っている。
しかし、思えばがっくんが女子だとばれたきっかけも道後温泉だ。そのことについて二人はどう考えているんだろうと千鶴は複雑な気分になる。
「がっくん。今日は堂々とちりめん細工の小物も買えるわよ」
「もう。そこを弄る?」
が、すぐに琴実が突っ込むように言っていて、千鶴はこけそうになった。がっくんも苦笑しつつツッコミを入れている。まあ、問題なしと判断していいか。
「じゃあ、いっぱい可愛いもの買わないとね」
「本当だ。気合い入れて掛かるわよ」
「おー」
こうして無事に道後温泉本館まで坂を下りて来ると、さすがは愛媛一の観光地。ゴールデンウイークが終わっても賑わっていた。
やはり本館のお風呂に入るのは止めて正解という感じ。中には土産物を扱っていたり展示室があったり、さらにあの夏目漱石の『坊ちゃん』に因んだ記念室と見どころたっぷりだが、やはり人が集中していてゆっくりできない。
「いつか入りたいね。でも、その場合は三階の霊の湯個室がいいわ。でもそうなると、高校生の財布には優しくないから、やっぱり大人になってからだわ」
千鶴はしみじみと賑わう道後温泉本館を見て呟く。
「ああ、解る。この観光客の多さじゃねえ」
「ねえ」
そんな話しをしつつ、歴史ある外観はしっかりスマホで写真に収めた。やっぱりここの写真がないと道後温泉に来たという感じはしない。
ちなみに千鶴たちが先ほど話題にしたように、道後温泉本館はチケットが入館する際のチケットが様々ある。最も高いのが霊の湯三階個室というもので、そこから霊の湯二階席、神の湯二階席、神の湯階下と安くなっていく。階下はほぼ温泉に入るだけというもので、観光客でこのチケットを選ぶ人はいないだろうと思う。因みにそれより上のランクのチケットはお茶のお接待がくっ付いているのだ。
「さあ、気合を入れて道後ハイカラ通りを進むわよ」
「そうね。でも、あんまり買い食いしないようにしておかないと。望月旅館の美味しい晩御飯が入らなくなっちゃう」
「あっ、そうだ。食べるのはセーブしつつね」
こうして女子三人は楽しい買い物タイムに突入したのだった。
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