第22話 モテた?
「いやあ、高校生は学校の外でも賑やかだねえ。特に女子はきゃぴきゃぴしているというか、男子とは違う闊達さがあるよね」
「まったくだ。理系クラスではなかなか味わえなかった喧騒だな」
その頃、十六夜の間にて八木がしみじみ呟くのに対し、亮翔は疲れたと涅槃像のように寝転がっている。その姿は話を聞く気なんてないと表しているのだが、八木は意に介さなかった。
「高校生の頃の望月はどういう感じだった?」
「普通」
「やっぱりモテたのかい?」
「男にな。俺、男子校だったから」
「……それは、ご愁傷様」
「ふん」
と、不毛な会話が展開されていた。しかし、八木は諦めず、こうなったら前振りをするのを止めようと決意した。これでも高校教師。捻くれ者の相手は慣れている。
「で、未練がましく坊主になったのは、やっぱり美希さん以外に君を好きになってくれる女性が現れなかったからかい? 男にばかりモテて」
「てめえ」
さっきの言葉を拾って嫌味を言ってくる八木に、さすがに涅槃像ではいられなく亮翔だ。思わずがばっと身体を起こしてしまう。
もしここに住職がいたら修行が足りないと苦笑していたことだろう。が、室内には二人だけ。にやにや笑いの八木に対し、亮翔はふんと鼻を鳴らして、今度はごろ寝モードに入る。
「なあ。本当はあの願孝寺に入る必要はなかったんだろ?」
しかし、こんな機会はなかなかないと八木は諦めない。自らもごろんと転がって、おおいと呼び掛ける。
「てめえ、ウザイ親戚の子どもか」
「ははっ。確かに親戚の子って何か知らないけど纏わりついて来るよね。この間、二番目の姉の子と会ったんだけど、相手するのが大変だったなあ。幼稚園児だからさ、ちゃんと見てなきゃいけないし」
「いや、その話題を発展させなくてもいんだよ」
「じゃあ、質問に答えてくれよ」
「嫌だ」
しっしと、亮翔は虫を払うように手を振った。だが、八木は全く諦めない。
「美希さんはもう戻って来ないんだよ。それでも君は、あの寺で一生過ごすのかい?」
「坊主だからな」
「ううん。お坊さんになってさらに捻くれるって、修行の仕方、間違ったんじゃないの?」
「文句は師匠に言ってくれ」
「師匠って、住職?」
「いいや。高野山にいる」
さらっと高野山と言われ、それは文句を言い難いなあと八木は苦笑するしかない。何はともあれ、亮翔はしっかりと修行を積んだということか。でも、未だに一人の女性に囚われたまま。何とも言えない気分になる。
そんな複雑な顔をしている八木を見て、亮翔は明確に舌打ちした。それに八木はおいおいという顔をする。坊主が舌打ちって凄くインパクトがあるんですけどと、これは千鶴と似たような感想だった。
「美希のことは関係ない。俺には坊主が合っていると思ったからなった。それだけだ」
「ふうん」
これ以上突っ込んで聞くな。
そんな態度の亮翔に、次は酒を飲ませてからにするかと、この場では引き下がることにした八木だった。
夕食は八木も含めて食事処で取ることになった。食事処はいくつかのテーブルが並んだ板張りの広間だったが、やはり夕食は部屋食を希望する人が多いようで、今日の利用は千鶴たちだけだった。全員が一度露天風呂を堪能して館内用の浴衣に着替え、貸し切り状態の広間へとやって来た。
そんな広間もとてもお洒落で、奥側と左手側は大きなガラス窓があってゆったりと庭が眺められるようになっている。庭にある灯籠には明かりが灯されており、それがいい雰囲気を作り出しているし、広間の中も暖色系の照明で、落ち着いた雰囲気だ。
「凄い」
「豪華」
「綺麗」
「さすが老舗旅館」
部屋の雰囲気と会席として並んだ料理の数々に、亮翔以外は感嘆の声を上げた。それに膳を運んでくれた女将の薫子がありがとうございますと笑顔で答える。
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