第16話 意外な展開

「びっくりな展開でしたね」

「ええ。子どもというのは親が見ていないところで成長しているものです。お祖父様やお父様の驚きは私にも解りますねえ」

 帰りの車の中、もちろん百萌はそのまま家に残ったので三人で松山に戻る途中で、千鶴が思わず呟いた言葉に恭敬は大きく頷いていた。運転する亮翔も思わぬ百萌の気の強さに面食らったと苦笑している。

「でも、これで望月旅館は安泰ですね」

「ええ」

「しかも、まさか宿泊券を貰えるなんて、私は付いて来ただけなのにいいんでしょうか?」

 帰りに今回のお礼として亮翔たちにはもちろんのこと、なんと千鶴にまで四名様分の宿泊券をくれたのだ。それに千鶴はいいのかなと戸惑ってしまう。

「百萌さんの気持ちだ。有り難く貰っておけ。俺の分もやる」

 そんな千鶴に、亮翔は素っ気なくそんなことを言った。えっ、亮翔の分もくれるだって。いやいや、そんなに貰っても。

「そうだ。この間のお嬢さん二人も誘ってお上げなさい。じゃあ、私の分を千鶴さんに差し上げましょう。亮翔、お嬢さんたちが泊まる際に付き添ってあげなさい」

「なっ」

 予想外の展開に、亮翔が目を剥いて助手席の恭敬を見る。

「よそ見をするな。いいじゃないか。たまには休みも必要ですよ。一人はお嬢さんとはいえ中身は男の子。男の人がいた方がお風呂や部屋割りで安心でしょうし」

 そんな亮翔に注意をしつつ、恭敬は楽しそうに笑う。それに、全くもうと亮翔は溜め息だ。だが

「予定を決めておけ。合わせる。だが、七月から秋のお彼岸までは忙しい。出来れば五月六月のどちらかにしてくれ」

 意外にも乗り気な言葉が来た。千鶴はなんでこの腹黒坊主と一緒にと思ったが、面白そうかもと思い直す。なんせ裏表の激しい人物だ。一泊すればその化けの皮がもっと剥がれるかもしれない。しかもがっくんとしても亮翔が一緒なのは嬉しいだろう。全部を知っているし、理解のある人だ。もっと聞きたいことも、それこそ二人きりの場で聞いておきたいこともあるかもしれない。

「じゃあ、今月中にしましょう。来月は中間テストがあるんで」

「そうか。連休は避けろよ」

「解ってますよ。じゃあ、真ん中かな。がっくんと琴実に連絡して訊いておきます」

「ああ」

 そんな千鶴と亮翔のやり取りを、恭敬はにこにこと見守っていた。



「へえ。それで望月旅館に泊まれることになったんだ。しかも千鶴は二回行けるんだね。ラッキーじゃん」

「まあね。なぜかあの亮翔さんもいるけど、確かにラッキーよね。しかも一度目は友達と行けて、二回目は家族旅行なんて」

 望月旅館での一件があった翌日。千鶴は琴実と一緒に大街道商店街にある、フルーツがたっぷり載ったワッフルが有名なお店に来ていた。そこで美味しいワッフルを堪能しつつ、急に行くことになった望月旅館への旅行について話していた。

 あの時に貰った宿泊券は千鶴が家族旅行にと四枚、亮翔と恭敬にはそれぞれ二枚ずつ渡されていた。そこで住職の恭敬が友達でゆっくりしてきなさいと発案し、二枚譲ってくれることになったのだ。そして亮翔の一枚をがっくんにあげるという話で纏まってしまった。

「住職さんは行く時間がないからああ言ったんだろうけど、亮翔さんにも休んでもらいたいって感じだったわね」

 千鶴はワッフルの上に載っていたみかんを口に運びながら説明する。やはり愛媛と言えばみかん。美味しい。

「へえ。じゃあ私たちのお目付け役なんてさせずにゆっくりさせてあげればいいのに」

 琴実もせっせとワッフルを切りつつ、それって休みになるのかなと首を傾げる。

「まあ、道後温泉を回る時は一緒じゃないだろうし、亮翔さんも口実があった方が休みやすいんじゃない?」

 恭敬は休みも必要だと亮翔に説いていたから、あの舌打ち事件のあった頃から今まで休みなしだったのではないか。そもそも、お寺は休日関係なく開いている場所だ。一体いつ休んでいるのだろうと疑問になる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る