第2話 お坊さんに相談!?
「ええっと、つまり琴実のセンスには合わないものをよく見てるってことか」
「そうなのよ。でも、そういう物を欲しがる女子が見つからないの。千鶴が好きそうって思ったけど、千鶴は嘘を吐くのが苦手でしょ。もしがっくんと付き合ってるんだったら、すでに私が見抜いているわ」
そこでキランと琴実の目が光る。恐ろしい。
「私、がっくんはタイプじゃないもん」
「そうよね。千鶴はしっかり男子って感じの子が好きだもんね。ジャニーズもあんまり好きじゃないし」
「そうそう。それで年上がいいわよね。でも、細マッチョがいいの。ガチムチ系は嫌」
「へえ」
意外と拘りがあるわねと琴実は苦笑する。
しかし、そういう琴実も可愛い系男子がいいという拘りがあるではないか。まさしくがっくんが可愛い系男子だ。要するに、ジャニーズ事務所に所属していそうなアイドル顔をしている。
「ともかく、何でがっくんが可愛いものを見ているのかが気になると。で、ケンカになるってことは、すでに問い詰めたわけ?」
「うん。どうしてそんなものばっかり見るのって、ついデート中にね。だって何度も何度もあるんだもん。いい加減にしてよって思うでしょ。でも、いつも別にとか、見てないしとか、そういう誤魔化す態度しかしないわけ。ムカつくでしょ。だからついつい、見てたじゃないの、誤魔化さないでってね。言っちゃうわけ」
はあっと、本日何度目になるか解らない溜め息を琴実は吐き出す。
恋するって大変だ。
それにしてもがっくん、どうしてそんな琴実とは違うタイプの子が好きそうなものばかり見てるんだろう。確かに気になる。
「問い詰めても無駄なんだろうなあ」
「無駄よ。すでに何度バトったと思ってんの」
「だよね。ううん。でも、私も恋愛に詳しいわけじゃないし。男子の心が解るわけじゃないし」
「だよねえ。千鶴、理想が高いから彼氏いないし」
「う、煩いな」
せっかく相談に乗ってるのに、なぜ痛いところを突くんだ。千鶴はむすっと顔を膨らませた。
「気軽に相談できる人がいればいいんだけどなあ」
琴実はやれやれと、千鶴では解決できないかと酷いことを言うのだった。
「これ、どう思う?」
翌日。
千鶴が教室に入って来るなり、琴実は意気込んでスマホの画面を見せてきた。一体何なんだと思うと、お悩み相談室と書かれている。
「怪しいサイトじゃないの? 琴実、いくら彼氏の行動に悩んでいるからって迷走し過ぎよ」
そんなもの、朝から意気込んで見せられても困るからと千鶴はあしらった。しかし、琴実はよく見てよと後ろをついて来る。
「よく見てって」
「これ、お坊さんがやってるサイトなの」
「はあ?」
何でお坊さんと思うと同時に、あの舌打ちしたくそ坊主の顔がちらついた。
いやいや、ないない。だってくそ坊主だもん。女子高生の顔を見るなり舌打ちするような男だもん。坊主じゃなくても人間として最低。
「千鶴、どうしたの? 顔が怖いよ」
「別に。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いってことわざを思い出しただけ」
「何それ? 誰を恨んでいるわけ?」
「いいでしょ。でもさ、わざわざ彼氏のことをお坊さんに相談するの? それって変じゃない?」
自分の席に着きつつ、それってわざわざお坊さんに相談するようなことなわけと首を傾げた。こう、お坊さんに相談する内容って、人生の岐路に立たされているような、煩悩に関わるような、そういう大きな悩みのような気がする。
「それがさ。色んな相談が書き込まれているのよね。他にも似たようなサイトがあって、そっちも様々。BL好きな女子ですがどうしたらいいですか? とか、ソシャゲにハマって課金が止められないのですがどうすればいいですか? とか」
「何それ」
そんなのお坊さんに解決できるわけないじゃんと思ってみせてもらうと、意外と真面目に答えていてびっくりさせられる。BLなんて平安時代から、いや、それより前からあるって言い切っちゃったり、私も『艦〇れ』にハマってヤバかったですなんて書いてある。
「お坊さんも意外と普通の人なのね」
思わずくすりと笑ってしまった。それに面白いでしょと琴実も満足そう。確かにこれは気楽に相談出来て、お坊さんも楽しんで答えているような感じがする。
「このサイトはいろんなお寺のお坊さんが参加しているみたいなの。で、もう一個のこれ。こっちが気になるのよ。なんと、松山にあるお寺さんがやってるの。直接の御相談も承りますって書いてあるから、こうやってネットでみんなが見れる状態じゃなくても相談出来ていいかなって」
「へえ」
松山にあるお寺というだけでは、あのくそ坊主の寺とは限らない。
何と言ってもここは四国。お遍路として有名な四国八十八か所霊場を始めとして、お寺は沢山あるのだ。他の地域よりも、あの京都に負けないくらいお寺はお馴染みの場所である。
「どこ?」
気になって千鶴は訊ねた。すると琴実はそうこなくっちゃと笑顔になる。
「
「え?」
「だから、が・ん・こ・う・じ、よ」
「ええっ」
千鶴は教室の中だというのに悲鳴を上げてしまった。それはまさしく、あのくそ坊主が新しくやって来たお寺。近所中の近所にあるお寺だ。
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