第10話 あの子との出会い

初めてあの子に会った時、衝撃的だった。

当時好きだった戦う魔法少女のアニメの優しい主人公にそっくりだったから。



あの頃は欲しいものは、じゃんけんで決めるのが当たり前だった。

可愛いお人形もブランコの順番も。



あの子に出会ったのは幼稚園の年中の時。

幼かったから記憶は曖昧で、なぜ連れて行かれたかは覚えていないが父に連れていかれたお城のような家にその子はいた。



お城のような豪邸に行けたのは数回だけだった。

毎週日曜日はお城に行けると楽しみにしていたのでこれで最後と言われた時は父に腹を立ててしまった。



初めてその子に会った時、ジュースとどら焼きを一個私たちの前に置かれていた。


お菓子が足りなかったため他のを用意する間、とりあえずとひとつどら焼きを出されていたのだ。



餡子と生クリームが挟まれていて美味しそうだった。


じゃんけんをする気まんまんであの子の出方を伺っていたら


「どら焼きは好き?」


と問いかけられた。


「好き」


「そしたらえっとみこちゃんが食べていいよ」


天使の笑みでその子が言ったのだ。


「どら焼き嫌いなの?」


嫌いだから譲ってくれたのかと思った。


「ううん、でもみこちゃん欲しそうだから」



じゃんけんもしないで相手が欲しそうだからという理由だけで、無償で手放してしまうその子に衝撃を受けた。


父や母はそういうことをしてくれたが、それは私の父と母だから。


赤の他人に、それに今日初めて会ったやつにこんなに優しくできるんだと。



でも私は知っていた。

この子と同じように人に優しくできる存在を。


私がハマっていた魔法少女のりんちゃん。

アニメの中の子だから特別なのだと思っていた。


だからこそ現実にりんちゃんのような子がいることに驚きを隠せなかった。



この子はアニメの中の子じゃない。

天使でもない。ふつうの子だ。

私はこの子と何が違うんだろう。


途端にじゃんけんで欲しいものを他の子から取り上げる自分が恥ずかしくなった。


それと同時に出会ったその日からその子を心から尊敬し、私の浅はかな考えを変えてくれた大切な存在となった。



たった数日間だけど、その子の優しさが本物なことはよくわかった。


最後と言われた日、私はその子と約束をした。




「また会ったら、また友達になろうね」


お揃いの指輪を渡し約束を交わした。



あの日から花凛は私の特別な存在。



ようやく会える。

私は真新しい高校の制服に袖を通し、花凛との思い出を振り返る。




「また友達になろうね花凛」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

百合女と女装男子 結麻 @yuma_390

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ