第2話 見た目は美少女
「もー! なんで昨日先帰っちゃったのー? 今日も一人で行っちゃうし」
可愛い声で可愛い顔で怒る飛鳥。
ぷんぷんという効果音が付きそうなほど。
「ごめん、びっくりしちゃって」
昨日は帰宅してから飛鳥のことしか考えていなかった。
考えても考えても、どうして自分がこんなにもやもやしているのかわからず、とりあえず飛鳥の趣味は幼馴染として受け止めようと決めたのだった。
普通にしていれば、ただの美少女だし目の保養だ。
「今日は一緒に帰ろうね」
笑った顔もアイドルみたいに可愛いな。
こうして幼馴染の女装姿を愛でる毎日が始まったのだ。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「陽菜! かえろー」
放課後になり満面の笑みで駆け寄ってくる飛鳥。
「陽菜が好きそうな抹茶の店見つけたの! 寄っていこ」
「駅前の? 行きたかったとこ」
女装をする前から飛鳥はこうして私が好きそうな店を見つけてきてくれて、一緒に寄って帰るのが私たちの放課後の過ごし方だった。
いつも飛鳥は私の好みに合わせてくれている。
格好が変わっても中身まで変わってなくて安心するが、私も飛鳥の好みなどは把握しているつもりだった。
でも、女装をしたいなんて今まで一度も言ってくれなかったし、知らなかった。
飛鳥の知らない一面を知って、少し寂しく感じた。
「明日は体力測定だねー。陽菜は楽しみなんじゃない?」
駅に向かう道を歩きながら、少し先に進む飛鳥がこちらを振り返る。
「そうなの! みんなのスペックがわかるし、運動神経が比例する百合カップルって多いから明日は観察で忙しいの」
「私も手伝えればいいんだけどねー」
そう言いながら、歩幅を合わせ隣を歩き始める飛鳥。
「一緒に観察できないの?」
「男女別で男子は先に体育館で身体測定だからね」
「あー、男子のほうなんだ」
女子の格好をしているから、てっきり一緒かと思ってた。
「さすがにねー」
苦笑いをする飛鳥に、返す言葉が見つからず沈黙してしまう。
しばらく沈黙したまま隣を歩いていたが、突然飛鳥ぎ歩調を速める。
「え?」
「ほら! 見えた、お店到着だよ」
走る飛鳥を追いかけ、息を切らしながら店の前へ到着する。
新しく出来たお店なのに外装は昔ながらの喫茶店のようだった。外から見える出窓からは店内に吊るされるドライフラワーが見える。
「入ろっ!」
飛鳥が扉を開けるとベルの音が店内に響いた。
「いらっしゃいませ」
可愛らしいメイド服のような制服を纏った店員さんが席に案内してくれる。
眼福。これだけでここに来た意味があった。
後ろに結ぶ大きなリボンの結び方でその子の性格が少し覗けるし、後ろリボンは苦手な子も多いから、先輩メイドに結んでもらってたりして!
百合の匂いを感じる!
「陽菜なににする?」
向かいに座る飛鳥がメニュー表をこちらに向けてきた。
「じゃぁ、抹茶ラテと抹茶ティラミス」
「はーい」
テーブルに置いてあるハンドベルを躊躇わずに鳴らし、スムーズに注文してくれる飛鳥。
かしこまりましたとふわふわのスカートを翻して厨房に戻っていくメイドさんを見えなくなるまで目で追ってしまう。
「そういえば、この格好で陽菜と出歩くの初めてだよね」
「うん、昨日初めて見たからね」
「どうかな?」
きらきらした綺麗な瞳で見つめられ、たじろぎながら可愛いよと答える。
メイク変えた彼女に意見求められる彼女の気分だ。
「ありがと、でも、違くて……」
俯きがちになってしまう飛鳥。
答え間違ったかな。
「綺麗だよ」
「違くて……」
俯いたままの姿勢で視線だけこちらに向けられ、上目遣いになっている。
頬が熱くなるのを感じる。早く抹茶ラテ来ないかな。
「お待たせしました。ご注文の品です」
願いが届きいいタイミングで注文がテーブルに並ぶ。
アイス抹茶ラテをストーローで啜り、体の熱を冷ましていく。
それで、何が違ったんだろ。
「可愛いよ」
もう一度思ったことを伝えると、伏せていた顔をこちらに向けストーローを摘んでいた私の手を両手で包み頬を赤く染め
「百合デートっぽいかな?」
と女の子よりも女の子な表情で私に問うのだった。
たしかに可愛さにときめいたりしたけど、でも
「手が男っ!!」
咄嗟に掴まれた手を離してしまった。
驚く飛鳥とこれ以上、顔を合わせるのに罪悪感を感じ店を飛び出てしまった。
もう少し抹茶ラテ飲んでおけば良かった。
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