新しい武器が欲しい
「スグル殿、やっぱりタロウはタロウ専用の剣が欲しいです。」
翌日、武器屋で一時的にタロウの剣を買い、クエストを受けて挑戦するも失敗して街に帰り着くと、タロウが折れた剣を眺めながら言った。
結局、昨日の報酬の分配は俺の提案によって3等分にされることとなり、余りは寄付することになった。
その後はタロウのスキルを教えてもらったのだが……これまた厄介なスキルをお持ちであった。
まず1つは【剣聖】というスキルだ。正直このスキルは素晴らしいスキルである。エクストラスキルである【剣聖】は、習得している者の剣や戦闘等に関するステータス及び技術をとんでもなく増大させるらしい。
そしてもう1つ、【死亡時霊化】と言うスキル。これまた役立つスキルで、たとえ死んでも魂と体に別れてしまうだけで、魂と体があれば何度でも蘇生が可能という神スキルだ。
これだけ見ると、タロウはむちゃくちゃ最強である。が、他のスキルがこの2つの神スキルを台無しにしている。
その問題のスキルが「必要経験値量増大」。そして「武具破損量増大」というスキルだ。
この2つのスキルがヤバい。特に「必要経験値量増大」というスキルは、習得している者のレベルアップまでに必要な経験値量が、普通の人と比べて10倍も必要らしい。ちなみに俺はあのスライム達を倒しまくったおかげでレベルが11まで上がった。たかがスライムを倒しただけなのだが、あのスライム1個師団は厄災認定されているらしく、普通のスライムよりも獲得経験値量が多いらしい。
それに比べて、最前線で戦っていたというタロウのレベルは29。ちなみに今1番レベルが高い攻略組の人は58レベルらしく、このスキルの恐ろしさが分かる。
そのため、必然的に使える武具のレベルが下がってしまうのだが、そのぶん耐久値も低くなってしまう。
ここで追い討ちのように来るのが、スキル【武具破損量増大】だ。このスキルは名前通りの効果で、使用している武器や装備の耐久値の減少量が増えるらしい。だからといってタロウの戦闘スタイルは、素早い攻撃で敵を倒すのをメインにしているし、今更変更は難しい。
つまり、タロウの実力にあった剣を選ぼうとすると装備に必要なレベルに達していないため装備はできず、加えてレベルも上がりずらく、必然的にレベルの低い装備を選んでもスキルのせいですぐ壊れてしまう。でも耐久値の大きい高レベル装備は装備できない……ということだ。
「って言ってもな〜……」
ちなみに折れた剣は、この街にある剣の中でタロウのレベルでも装備が可能で、かつ高耐久値の剣だった。
だからこの街にタロウに合う剣がないとすれば、それこそモンスタードロップとか、別の街に行くとか、宝箱を探すとか……しかないがどれもタロウに合った剣があるとは限らない。
「あ、私心当たりあるよ〜!」
不意にルリエが言い、俺とタロウは「ま、マジで!?」「る、ルリっちほんとに!?」と言う。するとルリエは「ふふ〜ん」と鼻を鳴らし、西の方にある岩山を指さす。
「タロっち、あの山にある洞窟ダンジョンの奥にある開かずの扉があるでしょ? その扉の先にタロウの愛剣に相応しい剣があるはずよ!」
「あ、あの扉の先に……!。……って言っても、あの扉に書かれている文字は未だに誰も分からないはずだけど……」
俺はそれを聞きながら「あ、フーン……」と心の中で呟く。俺の推測が正しければ、ザ・異世界あるあるの、あのパターンだろう。まぁそれはそれならありがたいけれど。
「大丈夫! その文字、お兄ちゃんが読めるはずだから!」
━━あ、うん……日本語やなこのパターン。
そうして俺達は洞窟に行くことになった。
━━━━━━━西の山洞窟にて━━━━━━━━
「……意外と明るいし整備されてるんだな、ココ」
「そりゃもちろん、いろんな冒険者がこの奥の扉の暗号を解こうとしてきたんだもん。」
「なる」
そう、俺は洞窟と聞いてもっと暗くてジメジメしている物だと思っていたのだが、いざ入ってみると洞窟の中はランタンで明るくともされ、足場も綺麗に整備されてる。加えてモンスターも出会うこともないとなると……こりゃ余裕だな━━と思うほど順調で静かな探検になった。
しかし、俺は扉の前で絶望することになる。
「も、文字って……英語じゃねぇかよ!!」
「と、殿! この文字が読めるんですか!?」
「読めるけど……」
そう、何を隠そう俺は英語が大の苦手だ。一応必殺技的な……魔法の詠唱の英単語なんかは覚えているが……これは長期戦になるぞ━━。
「…………じゃ……やりますか……」
結局、この英文を訳するのに10分以上を要した。それも大雑把、かつ適当、かつ直訳でだが。
そして、それをちゃんとした言語にするのにさらに3分を要し、なんとか答えを導き出せた。
「━━━━ふー」
「な、なんと書かれていたんですか?」
「ん?あ、あぁそりゃ知りたいわな。えっと……【雷神ライラが宿りし剣ここに。】……簡単に訳すとこんなかんじ……」
「……それだけですか?」
「いや……他にもあるんだろうけど…………」
「つまりそれしか訳せなかったわけね!」
図星だ。全くその通りである。
俺は「ソノトオリ」と答えつつ、ドアノブの中心にあるボタンを押す。すると、液晶版が浮かび上がりマイクのマークがあり【call】と書かれている。恐らく、この液晶版に向けて答えを言うことで扉のロックが会場されるという仕組みなんだろう。
━━って言われても答えなんて分からんて。だって英語分からんもん。
俺はそう思いつつも、この扉を開けタロウの愛剣となれるという剣を手に入れることはできない。
「━━━━━━これしかない……か……」
しばらく考えた末一応答えは出てきたものの、適当かつ安直な答えだし、扉の英語を全て訳せていないから正直違う気がする。しかし、やってみる価値はあると思い、液晶版を向く。
「━━━━ライラ……!」
俺がそう言った瞬間、液晶版の【call】が【Release】と変わった。どうやら「ライラ」がパスワードだったらしい。
「よし、開いた!」
「おぉ! さっすがね!」
「じゃ、じゃあ開けれるってことですか?」
「もちのろん!」
俺は2人と喜びと分かち合いつつ、扉の向こうはホコリ溜まってそうだなとワクワクを膨らませる。
「じゃ、じゃあ開けます!」
タロウはドアノブを捻り、勢いよく開けた。
「「…………?」」
俺とタロウはポカーンと口を開いて唖然とした。
扉の先は小部屋になっており、部屋の中にはクッションが散乱している。そして、この部屋の中心には一際目立つ大きなベット━━━━周りはカーテンに囲まれているベットが置いてある。
「……ルリっち、これはいったい……」
「まあまあ」
「剣無いじゃん……」
「とりま中入ってみてって」
「「……?」」
ルリエに促され、とりあえず部屋の中に入ってみる。
━━ほんとなんだこれ……と思った瞬間、ベットのカーテンが勢いよく開かれた。
「はっじめましてなのダー!」
突然、元気よく挨拶をして金髪の少女が現れた。
俺は━━なんだこいつ……と思いながら黙っているともう一度、
「はっじめましてなのダー!」
「は、はじめまして……」
一応返事はしたものの、この金髪の少女はどう考えても変だ。この部屋の状態や周りの地形からして、おそらくこの金髪の少女は長い間この空間にいたのだろうが、この空間には飲食物らしき物はないし、それどころか通気口のようなものさえ見当たらない。
━━この子人間じゃないのか……? とりあえず慎重に対応━━
「貴様、人間ではないでござるね。正体を表すのでござる!」
━━オイッ!
タロウは慎重に対応するのまったく逆の対応をした。もし、この金髪の少女の正体がドラゴンなり龍なり魔物なりなんなり……ともかく、今の戦力ではとても相手にできる奴じゃない、つまり殺されると、俺の直感が言っている。
そんな心配を他所に、タロウはづんづんと近づいていき、正面に立つ。
2人の身長は、ベットの段差も含めて同じ高さでお互いちょうど目の高さが同じだ。
「なんとか言ったらどうでござるか?」
タロウはすこし顎を上げて言った。
━━頼むからこれ以上刺激しないでくれ……。
しかしこの心配は無用だったようで、金髪の少女は首を「クイッ」と捻ると、
「━━もしかして剣聖なのだ?」
「えっ……!?」
今度はタロウが黙る方だった。
【剣聖】それはたしかにタロウのスキルだ。だが、スキルの中でも最上位スキルで、数百年に1人というくらいの希少かつ最強のスキルらしく、そもそも知ってる人も少ないそうだ。
「…………だとしたらどうするでござる……?」
そうタロウが言うと金髪の少女は「ニッ」と無邪気な笑みを浮かべると、
「じゃあ今からワチの使い手となる為の儀式を行うのダー!」
「つ、使い手って……?」
俺は反射的に答える。タロウは「まさかっ……!」と後ずさる。チラッとルリエを見ると「ニチャァ」と満足そうな笑みを浮かべている。
俺はルリエに近づいて話しかける。
「まさかとは思うけど……アレ?」
「そう。アレ……いやこの子こそが伝説の━━」
「「龍雷剣の精霊、ライラ」」
ルリエとタロウの声が重なり、金髪の少女━━いや精霊ライラは、
「そのとおりなのだ! ワチこそが伝説の剣聖、アリス・ディザスト・ハルゼーの愛剣である龍雷剣―ライラの精霊、ライラなのダー!」
と遅れて名乗った。
次回【試練】
魔法と剣の交奏曲【Magic And Sword Ensemble】 清河ダイト @A-Mochi117
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★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 1話
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