殿と呼ばしてください!!

「と、とりあえず……動ける?」

「……首から下の感覚がないでござる……。あぁ

……このまま動けないままになっていくのでござる……」

「あ、あのものすごい不吉なこと言わんといや」

「と、とりあえず街に戻ろ?」

「あ、はい」

「了解でござる……拙者、身動き取れないので担いでもらえないだろうか……」

「じゃ、私がおんぶしてあげる〜」


こうして俺達一行は村に戻ることになった。


「……ところでタロウさん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」


ルリエにおんぶされたタロウが「ン……?」と返事をする。


「━━それより、先に名前を知りたいでござるよ。」

「オッケー! じゃっ私から━━」


とルリエが言おうとしたが、すかさず「ルリエはいいです、聞きました。」と言った。たぶん俺達の会話から聞いたのだろう。


「置いてくわよ」

「置いていくがいいでござる」

「なっなにぃ!! じゃ、じゃあどうやって街まで戻るつもりなのよ!!」

「……そんなことより早く名前をしりたいでござる! ルリエからでいいでござるから!」

「でいいって何よ! でいいって!」


そう言いつつ、ルリエはしかめっ面浮かべながら口を開いた。


「ルリエ・ハマサキよ。……一応年は13よ。」

「じゅっ13でござるか?! こ、これが!?」

「これって何よこれって!!」


タロウが驚くのも無理はない。なぜならルリエの容姿は少なくとも高校生以上。どう見ても13歳ではない。


一応、生まれてきてから13年経っているから13歳なんだろうが、ルリエが暮らしていた天界では現実世界などと違って時間の進み方が違うらしい。


「じゃあ次お兄ちゃんね。」

「あ、ハイ。」


俺は「コホン」と咳払いをして口を開く。


「━━俺はスグル・ハマサキ。15歳。よろしく」


俺は手を差し出した。


「……手、動かせないから握手なんて出来ないでござる……。」

「あ、そだった……」


慌てて手を戻す。


彼女の状態からして、首にスライムが攻撃してきて神経が切断されてしまったのだろうか、そうするとほんとに一生動かなくなるのかもしれない。


「その事だけど、お兄ちゃんの魔法でどうにかなるかもよ。」

「……マジ?」


いったいどうしたものかと首を捻っているうと、俺の思考を読んだのかルリエが言った。


━━とりあえず考えてみるか。


俺達一行は足を止めて、その場で腰を降ろし、タロウの治療をすることになった。


目を瞑り、とりああえず首の神経系が再生していくようなイメージ、そしてタロウが走り回るようなイメージもしてみる。


「……不可能でござるよ。拙者は首折りスライムに攻撃されたでござる。そして首折りスライムに首を折られた者は、必ず首から下が動かなくなる。いかなる治療方も存在しない。やるだけ無駄でござるよ。」


タロウは安全に諦めモードのようだが、俺はこの世界にも奇跡はあるのだと信じ、タロウの首に手を添えて唱える。


「━━ヒール……!!」


タロウの首に光が宿る。しばらく発光し、しばらくすると徐々にその光は弱まっていき、消えた。


━━治れ!!。


と心の中で叫ぶ。


「……どう? 動ける?」


とルリエが聞くとタロウは「いやいや」と手を振って、


「だから動くはずがないって……」

「た、タロウちゃん……!! 手……!」

「ヨッシャ……!」


タロウの手が動いた。


おまけに、タロウは立ち上がって肩を回したり、足を動かしてみたり、自分の体を見渡したりする。


「……ど、どう? 違和感とかある?」

「━━━━」

「……タロウ?」

「━━━━」


声をかけたがタロウは顔を伏せている。


「大丈夫?」

「━━った……」


ルリエが心配して声をかけた時、タロウの口から掠れた声が出て、涙が落ちる。


「た、タロウ!? 大丈夫!?」

「ど、どこか痛いの!?」


俺達が駆け寄る。


「ど、どうしたん?!」

「どこか具合悪いの?」


など声をかけるが、タロウは首を横に振る。


「別に体に異常があるわけじゃないです……ただ……」

「た、ただ?」


聞くと、もう一度「ただ……」と呟いて続ける。


「ただ……不治のデバフにかかって……でもまた、自由に動く事ができるんだって……そう思ったら嬉しくて嬉しくて……」

「タロウちゃん……」

「……」


━━あれ、不治の病的なデバフだったんや!?


魔法で割と簡単に治療できたことに驚いたが、すこし疑問に思った。先程の魔法は、そもそもかなり曖昧な創造だったし詠唱も適当だったから、今思うととても不治のデバフなんてものが治療出来たのは、どうも納得がいかない。


━━あるいは別の力が加わっているから……か。


そんな思考を巡らしいていると、タロウが俺を向いた。


「……本当に、本当にありがとうございました……!! この御恩は絶対に忘れません……!!」

「う、うん。治ってくれたならいいよ。」

「さっすがお兄ちゃん!! お兄ちゃんは最強の魔法使いだね!!」


と誇らしげに語るルリエに「い、いや俺剣士目指したいんですけど!?」と、すぐさまルリエの意見を跳ね除けつつ、疲れたし街に戻ろうと2人に声をかける。


「じゃまぁ色々あったし、とりま街に戻りま━━」

「あ、あのっ……!!」

「な、なんでしょうか……?」


これまた、今度はタロウに口を挟まれた。まだ何かあるのだろうか。


「あの……その……と、「殿」と、お呼びしても……良いですか……?」

「と、殿って……お、俺?」


恐る恐る聞くと、「そ、そうです……!」と帰ってくる。


気づけばタロウの顔は赤くなっている。


━━俺マジでこういうの無理なんだけどな……。好きとかどうとかアニメキャラで充分やのに……。


「と、殿じゃなくてもっと他に…………な、名前とかあだ名とか他にも……」

「…………」


反応がない。ただ下を向いている。


━━いったいどうしたものか……と、ルリエに目配せすると「ハー……わかったわよ。」と言ってくれた。


「ねぇタロウ。あなたは何がしたいの? どうして欲しいの? これからどうしたいの?」

「━━━━」


長い静寂が訪れる。風や、風に揺られる木々の音すらも聞こえてくるほどの静寂が何分か続いた。


「━━タロ……いえ拙者はこのパーティーで、ずっと沢山色んな冒険がしたい……でござる……」


と芯の通った声で宣言した。


タロウがいてくれたらとても心強いし、妹みたいで……一応ルリエは居るけど容姿が容姿だからなんともいえないから、いてくれたら嬉しいため俺からも願ったり叶ったりなのだが、どうも他の意図がありそうだ。


「それがタロウのしたいことなのね。……もちろん私達のパーティーに居るのはかまわないわ。けどね、私達の仲間にいるなら私と話す時だけ「ござる」とか「拙者」とか使ったりするのに、お兄ちゃんの時だけ標準語使って…………別にイチャイチャするのはいいけどせめて、私と話す時も「ござる」とかなしにしてよ!!」

「…………し、しかし━━」

「あんた━━殺されたいの?」


その声と共に、殺気の籠った明るい? 笑みを浮かべる。その笑顔に押されてタロウが後ずさった。


「……………………わかった。……ルリっち」


ボソボソッとタロウが言う。


━━ルリッチとは……なんと安直な。そう思ったのも束の間、「る、ルリっちってなによ!!」とルリエが反応する。


タロウは鼻を「フンッ!」と鳴らした。


「これでも、一月後は15歳ですよ〜だ。」


━━じゅ、15!? 。15か〜……。スゥゥー……話しづらっ! 。


まあ容姿はアレだし、1つ学年下だからまだマシか━━と、無理やり丸め込む。


「……腑に落ちないけど……わかったわよ。タロっち」


その後、俺達3人は街に戻ってクエスト報酬━━タロウが事前に受けていたらしいクエストの報酬を分け合うこととなったのだが……、


「活躍した順に報酬の金額を分けるべきよ!」

「い〜やっ! ここは平等にした方がいいわ! だから3等分がいい!」


……というように言い争いになってしまった。


最初は皆で3等分しようと考えていたのだが、報酬の額が16万エリー……? で、綺麗に3等分することができない。そのため、誰が1エリー多く貰うのかを相談していたところ、そもそもルリエは何かしたのか? という話題に変わっていき、さらに金銭問題も絡まっていき、この言い争いにまで発展した。


━━まったく……この先が思いやられるな……。


「スグル殿! スグル殿はどっちがいいと思いますか! 活躍した順か! 3等分か! もちろん活躍した順に決まってますよね!」

「お兄ちゃん。こいつの言葉に惑わされないで! こいつ、きっと金が欲しいだけのクズだわ!」

「……うん。1つ言っていい?」


「はい、もちろんです!」「どーんと言ったれ!」と帰ってくる。


「━━あのな、俺から見たら2人ともただ金欲しいだけだろ?」


俺は1呼吸置き、2人に向けてキッパリと言った。これから始まるであろう冒険に不安を心に抱きつつも、ほのかに好奇心と希望を抱いて。


次回【新しい武器が欲しい】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る