初めての戦闘

とりあえず俺は、背中にある鞘をわざわざ正面に持ってきて「よいしょ」と剣を収める元攻略組のタロウ・スジーリカに問いかける。


「あのー……あなたがパーティーメンバー募集してる元攻略組で間違えない、んですよね……?」


「カチャン」と鞘に収めながら「ン?」と顔を上げる。


「まさしく、拙者が募集したのでござる」


と言う。


このタロウ・スジーリカという元攻略組の少女の身長は、目算140cm程だ。それに対して俺の身長は確か180cm程。中学校では友達から「180cm! 」と愛称がつくぐらいの高身長だ。それを活かして人混みの中では目印となることもしばしば、自転車に乗っている時に木の枝にもぶつかることもある。


そんなこんなで、身長差40cmもあると俺は首を下に向けないといけないし、タロウ……スジーリカさんは首を上げないといけない。


━━別に高身長は嫌じゃないけど、もう少し抑えられんかな……。など考えていると、スジーリカさんは鞘を背中に戻し提案する。


「ウム、とりあえずこれからこの3人は共に冒険をする仲でござるから、小手調べとしてスライム一個師団倒を討伐しようではないか」


とりあえず一個師団のスライムを討伐すると言われて、俺達は「ぇ?」と力なく答えるしか出来なかった。



俺とルリエは、軽い足取りで先導するスジーリカ元攻略組殿の後に付いて歩いている。


確かに、元攻略組ならば初期地であるこの街近郊に出没するモンスターなんぞ簡単に倒せるのだろう。が、数が数だ。一個師団といえば、現実世界では10,000人以上の規模だ。もちろんこの知識が異世界で通じるとは限らないのだが、一応聞いておかなくてはならない。


「あの、スジーリカさ━━」

「苗字で呼ばないでほしいでござる! 」


「ギロッ」と睨みつけられる。


「あっ……スイマセン……」


俺は、「なんでスジーリカはだめでタロウはいいんだ!」と思ったが、パーティー組まないと言われるのは嫌だからここは従っておく。


「……タロウさん。一個師団のスライムって何匹ぐらいなんですか?」

「う〜む……大体1000匹程でござる」


と少し間を開けて答える。


「1000匹」という答えを聞いて俺はホッとした。といっても1,000匹も十分多いいが10,000よりはマシたし、そもそもスライムである。普通に攻撃を当てるだけで倒せるだろうし、例え囲まれたとしても魔法か何かで簡単に殲滅できる。


と、ここで俺は疑問に思った。「この異世界には魔法はあるのか?」と。


しかし、勿論俺が考えても分かるはずがないので、隣にいるルリエに聞いてみる。


「ねえルリエ。この世界って魔法あんの?」


すかさず答えが帰ってくる。


「ん? あ、魔法ね。魔法ならあるわよ。でもお兄ちゃんって剣士になるんじゃ?」

「やね、別に魔法使いになりたいわけじゃないんだけどさ、これから大量のスライムとの戦闘じゃん? だから魔法とか使えれれば安全に討伐できるんじゃないかなっと思ってね。」

「あ〜たしかに。ならステータス見ればいいじゃん。」

「す、ステータス!? って……どうやって見るんすか?」


ルリエは懐中時計を取り出して見せる。たしかこの懐中時計は、初期装備を貰った時に貰ったものだ。ルリエは懐中時計を手に持つと、もう片方の手で時計の部分を押した。


すると、懐中時計の上に「パッ」と半透明な液晶盤のような物が現れた。


「お、おぉ……!」


すかさず俺も自分の懐中時計を取り出して、ルリエと同じ事をしてみる。すると、同じように半透明な液晶盤のような物が現れた。


「これね、いわゆるメニュー画面で、自分のレベルとか所持アイテムの詳細とか取得してるスキルとか。あと個人特有の能力とかが分かるんだよ。」

「なるほどなるほど……」


俺はメニューの中から、自然と個人特有の能力を、いやユニークスキルを探す。


探していくとそれらしき箇所があった。そこには【MP増加 超 】【魔法創作】【取得経験値増加 超】と、なんと3つもある。しかしどう考えても、すべて魔法関係ばかりだ……。


「どーぉ?お兄ちゃん?」とルリエがメニューを覗く。すると「どんなかんじでござるか?」と、いつの間にか近寄って来たタロウも覗いてくる。俺は、2人が見えるように懐中時計の高さを調節するためにしゃがむ。


するとすかさず「うわぁ……こりゃぁ圧倒的魔法使い向きだねぇ……」とか「ま、魔法創作!? これ無茶苦茶レアスキルでござるよ!? 今すぐ魔法使いに転向すべきでござるよ!」とか言ってくる。俺は「い、いや俺剣士になりたいんだけど!!?」と言うが俺自身も「魔法使いに向いてるんだなぁ」と思わずにはいられなかった。



そんな出来事がありつつ、ついにスライムの大群と接敵した。


「とりあえず拙者が最前線で暴れ回るから━━そういえばまだ名前を聞いていなかったでござるな。

っとそれはいいとして、とりあえず2人は逃げていくスライムを倒してほしいでござる。」

「おけです」

「了解」


タロウさんは1歩前に出て、背中にある剣の柄を握り「シュワァァン」と、気持ちよく剣を抜き━━

━━


「━━くっ……!!」


━━きれなかった。


右手が限界まで伸ばされ、あれよこれよと試してみるが剣を抜ききれない。


背伸びをする。前屈みになる。刀身を摘んでみる。休憩する。体を揺さぶってみる。剣を戻し、天を仰ぐ。ギュッと両手を握り、俺の方を振り向く。


「…………誠にかたじけないのでござるが……拙者の剣を代わりに取って……くださぁい……」


俺の方向を見るだけで、目を合わせようとしないタロウに言われ、俺は「あ、ハイッ」と言って、軽々剣を引き抜いて渡す。


「誠に感謝致す……! この御恩! 我が才をもって返すのでござる!」


といって、タロウはスライムの群れに突撃して行った。


「……なんか、可愛いね」


とのルリエに囁き対し「同意」と答える。実際、何歳なのかは知らないが、ルリエよりも下……いや同年代の13か14くらいなのではとないかと推測できる。ルリエの容姿は17才辺りだが。


━━ルリエも生まれてきたらこんなんだったんかなぁ……。


そんな思考を巡らしている最中、タロウとスライムがついに衝突した。俺は一瞬駆けつけようと心配したが、次の瞬間には、そんな心配は無用だと分かった。


「おぉ……」

「強いわね……」


スライムがタロウの一振で何体も葬られる。しかもその斬撃は、正確にして継続的に何連撃もの攻撃をずっと繰り返している。


「おぉ……!! これなら1人でもいけそうじゃん!!」

「う〜ん ……どうだろう」


ルリエはタロウの剣を指さす。


「剣の耐久が……」


と、さらに続けようとした時、「ピキッ……!」と剣に亀裂が入った音が鳴った。タロウは剣を振るう体を止め、剣を眺める。その後、たっぷり何秒か静止し、剣をおろすと「バッ!」っと振り返って「タタタター」こっちに走ってきた。


「━━━━よしっ。これで拙者の役目は終わったでござる。残りは……御2人で」


━━そりゃないよ……と思いつつも、俺は目を背けながら言うタロウに聞いてみる。


「…………ちにみに、残りはどれくらい?」


と聞くと、タロウは今も迫ってくるスライムの群れを眺めて「ざっと500匹ぐらいでござる。」と返答がくる。


「……ルリエ、半分いける?」


隣で俺と同じようにスライムの群れを眺めるルリエに問いかける。


「う〜ん……この世界に慣れてないからちょっと難しいかも……」

「難しいっていう返答してくるだけですごい頼もしいよ……」


こうなれば意を決して戦うか━━と、腰にある剣の柄を握る。


とその時、ジワジワと近づいてきたスライムの群れの一角が、タロウ目掛けて突撃してきた。


「笑止!!」


タロウはすぐさまそれを感じとり、右手の直剣を振るった。その斬撃によって、突撃してきたスライムを全て倒した。しかし━━


「ピキピキピキピキン!!」


「っ……!!」

「あ……」

「あちゃぁ〜……」


ついにタロウの剣が耐久力を全損し、刀身がバラバラと壊れてしまう。これはタロウが戦闘不能であることを意味し、俺たちは絶体絶命である。


しかし、もちろんスライムは待ってくれない。この間にもジワジワと間合いを詰めてくる。


これは、もう撤退するしかないと言おうと、口を開く。


「……全速力で逃━━」

「━━ほうだ……!!」


と、タロウが呟いた。目をタロウに移してると、タロウは「ハッ」と何か閃いたのか、目を見開いている。


「そうでござるよ! 魔法! 魔法があるでごさるよ!」

「……それ、もしかして僕に言ってます?」


俺は、目をキラキラと希望に輝かせて提案してくるタロウに苦笑しつつ答えると「一発ぶちかますのでござる!!」と、今は刀身無き剣をスライムに向けて言う。


「お兄ちゃんが言ったとおりになったじゃん! ここは一発、どでかいのお願い! あのスライムの群れを一掃するレベルの!」

「る、ルリエまでぇ〜……?」


とは言いつつ、この状況ではこれが最善だろうから、俺は2人より1歩前に進んだ。しかし、魔法を使うの方法なんか知らない。


「け、けど魔法1つも知らな━━……いや、そもそもどうやって魔法使うか知らないだけど……!」


と、振り返りながら聞くと「なんとなくでいけるよ」と返答がくる。俺は「えぇ…」と言って、スライムの群れを見据える。


━━とりあえずやってみるか。


俺は目を瞑り、「火の矢」をイメージしてみる。


そしてしっかり創造ができ、俺は瞑っていた目を開き、右手を天に掲げて唱える


「━━ファイアー・アロー!!!」


すぐさま、俺の右手上空に魔法陣が現れ、大きな火矢が召喚される。俺は高く掲げた右手をスライムの方に向けて振り下ろした。それにより、火矢はスライムの群れの中央に一直線に飛んでいった。そして、それに触れたスライムは跡形もなく消し飛び、結果的に1発の火矢で20匹近くを倒した。


「できた!」


俺は、魔法が使えたことの感動や喜びのあまり「できた!!」と言って振り返った。


「お、お兄ちゃん後ろ! スライム来てる!」

「え?おわっ……!?」


我に返り、再びスライムの群れを見据える。魔法が使えたからといって、まだまだスライムは残っている。


俺は、これだけの量のスライムを倒しきるためには一発づつでは効率が悪いと判断し、今度は大量の「火の矢」をイメージ、創造が終わって「ファイアー・アロー!!!」と唱える。今度は30本の火矢を用意した。しかし、流石にこれを一気に使うのは勿体ないと思い、バラバラと打つ。その矢が放たれる度に大量のスライムが消し炭…いや、倒されていく。


「……すっ……ごぉ……!」

「……まさに、神の御業のような攻撃でござる……!!」


俺は、そんな褒め言葉を噛み締めながら……ニヤけが止まらないが、とにかく火矢を打ち続ける。


しばらく打ち続け、こちらの火矢が尽きると当時にスライムも殲滅し終わり、荒野になってしまった野原を見渡す。


━━これはまずいことをした……。


元通りにしないといけなさそうだな、と思って「ハー」と溜息をつく。


「これなら……!! これなら魔王なんぞ余裕で━━」


と突然、タロウの魔法の威力に興奮した声が途切れた。


「た、タロウ!? ど、どした!?」


と、振り返ったと同時に「バタ……」とタロウが仰向けで倒れた。そしてその上には1匹のスライム

……いや、他の殲滅していたスライムとは違う色をしたスライムがいた。


「おりゃぁ!」


すかさずルリエが投げナイフ……いやダガーを投げ、色違いスライムに直撃、すぐさま消滅する。しかし、タロウは動く気配がない。


「だ、大丈夫か!?」


タロウの元に駆け寄って、体を揺さぶったりしても反応がない。


━━いったいどうしたら……と俺が焦っていると、ルリエが「お、お兄ちゃん!? う、上に!?」と叫んだ。すかさず俺は上を見上げる。


「ふにゃぁ〜……」


見上げた先には、ものすごく心地よさそうな顔をして鼻風船を膨らましたタロウが現在形で天に召されているではないか。


「たたたたたタロウ!!??」

「お、お兄ちゃん!! ひ、引っ張って引き戻して!!」

「りょ、りょ了解っ……!!」


俺は身長を活かして、天に召されゆくタロウの足

……いや足というかシッポを掴んで引き戻す。「それをタロウちゃん体に!」とすかさずルリエに言われて、体に押し込むようにタロウ(幽霊)を入れる。


「ほ、ほんとにこれでいいんだよね……?!」

「う、うん……! 大丈夫! ……なはず……」

「だ、大丈夫なはずって……。タロウッ!! 起きてや!!」


必死にタロウの体を揺さぶる。しかし魂が抜けてしまったように反応が一切ない。


━━このまま死んでしまうのだろうか……。そんな考えが浮かび、俺は戦慄を感じた。


「…………そんなに揺さぶらなくても、生きてるでござるよ……」

「え……?!」


俺はその返事を聞いて心の底から安心した。しかし同時に、やはりここは異世界だなと確信した。


タロウは頬を赤くし、ちょっと目を逸らししているのだ。


━━やっぱ……異世界、やな……。


次回【殿と呼ばせてください!!】

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