いざ、異世界へ参る

あの後、放心状態で俺は家まで帰った。


家に帰っても自転車で事故った事等は一切言わず、いつも通りに過ごした。


そしてあと5分で10:20になる時に、あの時の不思議な女が現れた。


「どう? ……準備は……?」

「……はい。一応は……」


そう言うと「そう……」と言って


「━━そういえば! ずっと思ってたんだけど、敬語とか止めてくれない? 私、一応妹なんだし」

「い、妹って……明らかに俺よりも歳上じゃないですか……」

「天界はこことはちょっと成長スピードが違うのよ。ちなみに私は13歳。この世界だと中学校2年生かな?だから私は年下なの!」

「だ、だけど……」


そう俺は抗議しようとした時、「ヒュン!」と風を斬る音がした。


「…………ぇ?」


気がつくと、俺の首筋に白銀の刃が触れていた。あと数センチで触れるところだ。


そして、彼女を見るとその手には短剣が握られている。どこから出したのかは分からないが、見にも止まらぬ速さで振られ、さらにこの正確さ、凄まじい腕だ。


「ねぇ、死んだ後ににもう一度死んだらどうなると思う?」

「っ……」


恐怖のあまり体がこわばって動けない俺に言う。そしてフッと笑うと、たちまち短剣が消えて付け加えて言う。


「そういう事。じゃ、敬語使わないの約束してね?」

「…………わかったよ。」

「約束だよ?」

「あぁ勿論。……約束は守る。」

「よしっ!」


その時、2階から「カチャ」とドアが開く音がした。


家のリビングは2階と吹き抜けとなっており、そのため誰が出てきたのかは分かるのだが、俺は、弟が最近よくトイレに行くため、部屋から出てきたのは弟なんだろうと予想した。


「隠れた方が……」


そう言おうと彼女の方を見た俺は言葉が詰まった。


彼女は小さく口を開けて、2階を見ていた。その目線の先にいるのは……。


「カイト……」


そう彼女が呟いた。そして彼女の目には浮かぶものがあった。これがいかなる感情によるものかは分からないが、2人にとっては……一方的なものではあるけれど、喜ばしい出会いであるだろう。


目の悪い弟は目をぐ〜と細めてただ一言、

「幽霊……」とだけ言ってドタドタと部屋に戻った。


━━なんか他に言うことないのかよ……! 。と一瞬思ったが、もし自分が海翔の立場となれば腰抜かすだろう。


すると彼女はハッと我に返ったように首を振って。


「ごめん! ちょっと、ボーッとしてた……」


と、あからさまに嘘をつく。


「…………瑠璃笑、なんだな……」

「ぇ……?」

「……俺は嘘つけないし、演技も下手だし、すぐ泣くし、弟はもそうだから妹も同じだって思うやろ?」


そう、俺は嘘ついたらどうしても変になるし、演技も全然できないし、弟も全く同じだ。だからきっとこの子も、何一つ嘘偽りはない……はずだ。


「━━━━ん…………分かってくれたらいいの。」


と、瑠璃笑は目を擦りながら言った。


よくよく考えてみたら、毎日毎日飽きる程見たりアホ話ばっかりしてた海翔と会うのはこれで最後になるわけだ。というか目線的に俺の方を見てたから、俺に対して「幽霊」って言った……なんか、いろいろ悲しいな。


「さっ、これからエスパーダ……え〜といわゆる異世界に行くんだけど、その説明するね?」


そんなことを考えていたら、瑠璃笑が不意に言った


「……え?」


てっきりこのまま天に召されるんだと思っていた俺は、いきなり異世界に行くと言われて、とんでもなくビックリした。


アニメオタク……特に異世界系を最近よく見てきた俺にとって、いざ異世界へ行くと言われても現実味が無い。


「い、異世界って? ど、とういう……」

「だからそれを説明するって言ってるじゃない! ……っともう逝くみたいだから、行った後に説明するね」

「━━あっ……!!」


時計を見るともう10:20になってしまっている。そのためか、俺の体がパラパラと光を散らしている。


最期の足掻きに、俺はペンを取って【バイバイ】と書き記した。



意識が回復する。といっても意識はまだ朦朧としている。まるで寝起きのような感じだ。


まず俺は仰向けで寝そべっていることがわかった。そして風が吹き、草か何かが揺れている音がする。


そして目を開ける。最初に見えたのは……なんだこれ、何かがすごいキラキラ輝いている。あと丸い瑠璃色の真珠のような……何かが……目!? まさかこれ目!? ━━━━つまり、このキラキラした……いや黄色に輝き、風にたなびいているものは髪で……。すなわち、これはルリエの顔では??!!


「うわぁべ??!!」


飛び上がって数メートル離れる。


先刻、なぜ目覚めた瞬間にルリエの顔が見えたのか、理由は単純だ。そう


「どう? 驚いたでしょ? 【異世界転生して目覚めた途端、超美人に膝枕されてる】ってシチュエーション。あんたみたいなオタクにゃ最高だわよねぇ?」

「び、美女かどうかはいいとして、とんだ迷惑だよ……」


俺は「な、何だどぉ!」と言ってくるルリエをなだめつつ、改めて周りを見渡す。ここは草原で、森やらスライムやら動物やら、そして川に囲まれた街がある。おそらくこの街が最初の拠点となるんだろう。


するとルリエは「まいいや」と前置きして!


「ねぇねぇお兄ちゃん。何か気づくことない?」


と言う。


「あ、あぁ。あの街が最初の拠点になって、あそこで冒険者登録やらクエストやらなんやらをできるんやろ?」


そう答えると「もっと他にあるでしょ!」と怒られる。俺はそれに対して「さぁ……?」肩をすくめるとルリエは「はぁ〜……」とため息をついて、草原の先を指差して言う。


「ほら、あれ見えるでしょ?」


という。


そよ指さす方向へ目を凝らしてみると、何やらうっすらと壁が見える。


「……壁があるけど…………もしかして、あれ越えるの?」


恐る恐る聞くと「イェ〜ス!」返事が帰ってくる。


「……つまりあれが何重もある、と」

「そそ」

「壁全部越えたらボス的なのがいる、と」

「正しくは魔族を従える魔王がいるんだけどね〜」


俺は、まさしく典型的なアニメ世界の異世界ではないか━━と思いつつ「……ありがちやな〜」と呟く。


「あ、ちなみに倒したら現世に復活できるよ!」

「なぬっ……」


一筋の希望が見えた。このことが正しいのなら俺にとっては最高のモチベーションになる。それにともなって憧れの異世界が出来るなんで幸せすぎるではないか!


「━━━━マジ?」


たっぷり時間を開けてルリエの目を見て聞く。


それに対してルリエは「ふふ〜ん」と鼻を鳴らして、


「マジマジ」


と言った。


そして、その答えを聞いて俺は心の底から魔王を倒してやろうと決心した。



とりあえず、俺達一行は街の中心部に向かって初期装備を手に入れた。


「やっぱり、お兄ちゃん剣を使うんだね」

「当たり前やろ! 誰だって剣士になりたいで

しょ!」


そんな話をしつつ、クエストボードに向かう。


先程、初期装備を貰った時、受付の人がクエストを受けた方がいいと言っていたからだ。それに実際冒険者の稼ぎ口はクエストぐらいだとも言っていたから、いまのところ無一文な俺達にはうってつけ、というか生命線だ。


ということでクエストボードにきたのだが……気になる張り紙があった。


「……スー、これ【元攻略組がパーティーメンバー探してます。南橋付近で待ってます。現在員1名】だって……」

「ほぉ〜いいじゃん!」


この募集は実に魅力的だ。現象、安全に進むにはどうしても戦力が少ないと思うし、元攻略組であるならいてくれるだけで実に頼りになりそうだ。まぁ元攻略組っていう響きがカッコイイのと、単に興味があるっていうのもあるけど。


「ということで、行ってみん?」


そう聞くと「オフコース」と返事が帰ってくる。


ということで、俺達は生命線であるクエストを放ったらかして、新しい仲間を探しに南に向かっていった。



俺達は街の中心部にある冒険者本部から南に向かう。しかし南に向かうにつれて、多くの建物が崩れていたり崩壊していり、さらには焼け落ちている建物なんかもあった。


「……なんか、戦いの後みたいだな……」

「うん……たしかに。」


そんな話をしながら進んでいると、何かの足跡の様なものがあった。だが、明らかに人間のものでは無い。


「ねえルリエ、この足跡何か分かる?」


足跡を指さしながら聞く。


「あぁこれ? これはねモブリンっていうモンスターの足跡だね。……なるほどぉ、つまりこの戦場跡は人間とモブリンの争った後ってわけだ!」


━━モブリンとはなんぞや! 。という疑問を、ストレートに聞くと「ゴブリン的な奴」とだけ答えて進み始める。俺もその後について行って、南橋の方向へ向かった。


「……誰もいないな」

「……うん、時間の無駄だったね」


俺達2人は、一応南橋に到着した。しかし、到着したものの、そこには人の気配はなく、とりあえず待ってみることに。


そして、橋に座って待つこと30分。結局誰も現れなかった。


「やっぱりあんなウマい話はないよな……。開始早々元攻略組なんかとパーティー組めるなんて……」

「だよねぇ〜……帰ろぉか」


お互い諦めて、素直に簡単なクエストを受けて行くことにする。


ルリエが腰をあげたその時、背後の川から「覚悟ぉ!」と声が聞こえた。


不意打ち━━!?。俺は反射的に剣を抜き、頭上に構える。途端に「ギシャァン!!」と金属音が鳴り響き、鍔迫り合いになる。


「拙者の不意打ちを防ぐとは、貴様もなかなかの腕前でござるな……!」

「な、なにものだ━━って……。スー…………すいません、もしかしてあんたがパーティーメンバー募集してた元攻略組の方?」


俺は困惑して言った。なにせ、突然襲ってきた人が女……というより少女だったからだ。


しかし……剣の品質が明らかに違う。その証拠として、もう俺の剣が刃こぼれしてしまっているし、とんでもない圧力に耐えている事が分かる。そのため、これ以上鍔迫り合いを続けたら俺の剣が壊れてしまうのではないか、と心配する。


だが幸いにも、謎の少女は先に剣を引いた。


「ウム、まさしく! その募集を出したのはこの私、攻略ギルド【幻妖師団】に所属していた、タロウ・スジーリカでござる!」


と、タロウ・スジーリカという元攻略組の 少女 は堂々と、自信満々に宣言された。


いや、確かに実力はあるようだし、元々いたギルドは強そうだし、剣も強そうなのだが、それよりどうしても名前に興味が引っ張られる。そう、すなわち


「タロウってなんやねん!!」「なぜにタロウ?!」


そう俺とルリエは2人揃って叫んだ。


次回【初めての戦闘】

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