魔法と剣の交奏曲【Magic And Sword Ensemble】

清河ダイト

俺、ボーっとしてたら死んだらしいです。

高校が終わり、自転車にまたがって約1時間の帰路につく。


「━━━━う〜ん……」


俺は坂を駆け下りながら唸る。


結局、もう家の近くまで帰ってきてしまったが何も思いつかない。


最近俺は小説を描き始めて、主に異世界物の小説を書こうとしている。だがまったく良い案が浮かばない。どうしても他の有名作品の影響が大きく出てしまうのだ。


「……結局、なんも思いつかねぇ……」


もう数分で家についてしまう所まで来てしまっ

たが、やはり何も思い浮かばない。


そもそも、なぜこの時間に考えるのかというと、家に帰ると気を紛らわせる物が多すぎて集中できないためである。だからこそ、この時間に案を出したいのだが、今日も何も思い浮かばなかった。


次の瞬間、俺はトラックが直進中の交差点に侵入してしまった。小説の事に集中しすぎて、信号が赤になった事に気づけなかったのだ。


「あっ……!!」


次の瞬間、強い衝撃を感じ、視界がブラックアウトして俺の意識が遠のいていて━━━━━━。




「っは……!!??」


気づいた時、俺は自転車のハンドルを握って坂道を駆け下りている。その先には……先刻、俺が死んだ交差点がある。


「っ……!!」


そう気づいた瞬間、俺は反射的にブレーキを握った。「キキキキー!!!」と音をたてて、使い古した自転車が減速、停止した。


完全に止まった事を確認して、自転車を降りる。俺はなにが起きたか分からず、呆然と立ちつくす。


俺はボーッとしていたら交差点に侵入してしまい、トラックと衝突してしまった所までは覚えている。それなのに、どれだけ確認しても俺の体には傷一つついていない。


「ど、どうなってんだよ……」


俺は、頭をかきながら言う。


「そりゃ…………死んじゃったからね。 お兄ちゃん。」

「えっ!?? お兄ちゃんって……し、死んだ!?」


突然、なんの前触れもなく後ろから女性に話しかけられたことも驚いたが、その言葉の内容はさらに驚愕する事だ。


「しっ、死んだって……! ど、どういう……」


俺はそう言いながら声がする方に振り向く。そして、俺は今更ながらに、話しかけてきた女性が赤の他人ということに気がついた。それどころか目の色は青で、髪の色は輝く黄色……。その容姿は完全に日本人離れしている。


つまり俺は知らない人、女性、それも外人に話しかけられているのだ。人付き合いが苦手な俺にとってかなりキツいシチュエーションだ。


「ん〜とね〜……伝えずらいけど、お兄ちゃん、トラックにはねられて死んじゃったのよね〜……」


女性は、視線を泳がせながら言った。


「あっ、いやあの……。それはそうなんですけど

……ん、んん〜?」

もう俺の頭の中は大混乱だ。


「まあ普通そぉなるよね〜。簡潔に説明するとね、死んだらそのまま天界に召されるわけじゃなくて、通称【別れ時間】とか【誤差時間】とか言われてる時間があるの。今お兄ちゃんはその時間にいるの」

「━━━━」


次から次へと情報が入ってくる。


つまり俺はトラックにはねられて死んでしまって、今俺がいるのは【別れ時間】。しかし、なぜかこの女性は俺の事を「お兄ちゃん」と呼んでいる。


「……その……俺は、死んだんですか……?」


俺は俯いたまま、謎の女性に問う。


正直、これ以外にも沢山聞きたい事があるが、よく分からない人と話すことはどうも気が引ける。


「……うんそう。死んだよ、トラックでね。

…………あと、お兄ちゃんがこの世界に留まれるのは……6時間しかないの……」

「6……」


俺は俯きながら聞く。


余命6時間と宣告された俺はすぐさま時計を見る。現在時刻は4時20分。この女性の言う事が正しいのなら、俺は今夜の10:20分までしか生きれないという事になる。だが俺は死んだと思わないし信じたくない。というか、そもそもこの女は何を言っているんだ?という疑問が湧き出てくる。


しかし、ここで俺は少し違和感を感じた。


最初話しかけてきた時、この女性は比較的明るく話していた。しかし、今は最初よりも言葉が詰まる回数、時間が長くなっている。チラッと顔を見ると、女性は俺と同じように俯いている。まるで何かを堪えるように……。


しかし、俺はまだ聞きたい事や疑問が沢山あるが、人付き合いが苦手、女性ならなおさら苦手だ。そのため不本意だが早くこの場から離れるために少々強引に切り上げることにした。


「すいません。もうそろそろ帰らないといけないんで。なので━━」

「5月2日」

「……えっ?」


俺は坂道を降り始めていた足を止めて振り返った。


「5月2日。それが私の……ハマサキ ルリエの誕生日……」

「っ……!!」


その言葉に俺は絶句する。


「5月2日」。それはたしかに、浜崎 瑠璃笑という人物の誕生日だ。しかし、それと同時に死亡日でもある。


今現在、俺は2人兄弟の兄で弟は10歳である。しかし俺が生まれた後、弟が生まれるまでの5年間の間に実は長女が生まれてくるはずだった。その子は母のお腹の中でスクスクと順調に育っていった。しかし出産した後、なんの前触れも無く静かに息を引き取ってしまった。その子の名前は「瑠璃笑」。先刻、この人が名乗った名前と同じだ。


「……い、いやそんなわけ……。だって瑠璃笑は死んで……」

「うん。私、死んだよ。でもお兄ちゃんも死んだ。だから見えてるんだよ」

「で、でも……」


そう答えると「おりゃっ!」と言って回し蹴りをしてきた。


「っ……!?」


俺は足を回避をしようとしたが、いきなりの事であったから反応が遅れ横腹に直撃……せずに、足は俺の体のど真ん中をすり抜けていく。それはまるで、自分が幽霊になっているかのようだ。


「━━まさか……!!!」と、俺は改めて体の状態を確認する。


最初に思いっきり手をつねってみるが全く痛みがない。というより何も感じない。そして同時に、自分に体温がないことが分かった。


つまり、これは俺が死んでいる事の証明であった。


「……悲しいけど……これが現実よ。」


俯き、呆然と立ち尽くす俺に言う。


「っ━━━━また、来るね…………時間になったら……」


そう言うと、彼女はパラパラと光の粉のような物を出しながら消えていく。


ふと顔を上げると、彼女の目には水滴が浮かんでいた。


次回【いざ、異世界へ参る】

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