長である兄

バブみ道日丿宮組

お題:殺された宗教 制限時間:15分

長である兄

 兄がいなくなったってからというものの本家の敷地は毎日のように慌ただしかった。

 まぁ一族の長たる1人がいなくなったというのだから仕方のないことかもしれない。

 妹である私にも同じ血が流れてるはずなのだけど、本家、分家に関わらず興味がなし。

 むしろ、女だからと言う理由でそっぽを向かれるぐらいだから……ね。

 そんな慌ただしい人たちを見ながら、私はスマホをいじる。

「……問題なしと」

 SNSで兄と連絡を取り合ってることをもちろん誰も知らない。

 私に優しくしてくれるのは兄だけ。

 いなくなってもこうやって連絡をとってくれるぐらい私は愛されてる。

 まぁどうせなら私も連れてってほしかった。

 そのことをSNSでメッセージを送ると、

「今はそのときじゃない、か」

 いったいいつならいいのだろうか。

 もっと我慢をしなきゃいけないのだろうか。

 ううん、兄に面倒をかけてはいけない。

 長としてかなりの時間を奪われ、個性を殺されてきた。

 今こうしてやっと自由が手に入ったんだ。なら、私は多少なりとも我慢して兄に時間をあげたい。

「……」

 とはいえ、姿を晒せばすぐに追ってが兄を囲うだろう。

 なら、私は私ができることをしよう。

 どんなことをしても最底辺から落ちることのない私はある意味兄より自由だ。

 流行らない宗教なんて滅んでしまえ。

 小さい頃から思った。

 兄がいないだけで滅びそうになってるのはいいことだ。

 これでまともな家族が誕生……するかもしれない。

 私はどうしよう。

「……」

 そうだ。兄が使ってたパソコンのデータを消去しよう。

 それで少しは兄へたどり着く手段がなくなるだろう。

 長の部屋に入ることはシキタリで禁じられてるという古い考えからして、兄のパソコンは手つかずだろう。

 いずれ強行手段として入ることもあるかもしれない。

 そう考えた私は足早に屋敷内を移動する。

 兄の部屋にたどり着くまでに何人かとすれ違ったけど、やっぱり私を見てない。

 部屋に入るのも咎められることはなかった。

「兄の匂い」

 すごく安心できるいい香り。

「……ふぅ」

 いけないいけない……良からぬ考えが頭を過ぎった。

 そういういけないことは兄とはかなりしてきたから、つい考えてしまう。

 ほんと、私も連れてってほしいーー童話の中のお姫様みたいに。

「さぁて」

 考えるのはほどほどして、実行しよう。

 ファイルを削除して……と、ハードディスクを破壊するのはやめておこう。

 まさかデータを消してるとは誰も思わないだろうし。

 よし、これで兄が自由な時間を過ごせる。


 その後、兄の使ってるベッドで静かに私は眠った。

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長である兄 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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