第5話
すみれはあの後、少したどたどになりつつも、一生懸命に、なぜ今日休んでしまうことになったのかの理由を説明してくれた。
すみれの話を要約すると、だいたいこのような感じである。
深夜1時、ようやく寝ようと布団に入ったところ、すみれのスマホから着信音が鳴り出した。
スマホの電話相手の表示は、非通知となっていたが、寝ぼけていたすみれは、気づかずにそのままとってしまったそう。
すると、電話口から女性の声で大量の、すみれを罵倒する悪口が聞こえてきたそうだ。
そこで、すみれはちょうど寝る前だった意識を覚醒させ、すぐに電話を切ったらしい。
しかし、いくら切ってもその非通知からの電話はいつまで経っても止まない。
怖くなって布団に包まっているうちに、いつの間にか朝になっていて、そこでようやく両親に話したそうだ。
それから、両親の計らいで今日は学校を休み、少し休養を取ることにしたのだとか。
「ごめんな。そんなことになっているなんて分からなくて。それに、思い出したくないことだったろうに。ごめんな」
俺は、昨日の深夜のことを思い出したからだろう、少し震えているすみれの頭を撫でながら、声をかけた。
すると、すみれはそのまま眠ってしまった。寝顔を満喫していた俺はふと、時計を見るともう7時を回っていることに気づいた。
俺はそっとすみれの家を出ると、自分の家へと帰って行った。
翌日、すみれは元気いっぱいに登校してきた。昨日の様子からは想像もできないほど元に戻っていた。本当によかった。
「おはよう、すみれ」
「あ、おはよう大地君!」
俺はすみれと挨拶を交わすと、もっと喋りたい欲を我慢して席についた。
大丈夫。放課後は好きなだけ喋れる。
……………………………………………………
「大地君、あの深夜の電話の件、警察でも誰が犯人かわからないって。一応私の家の付近にある公衆電話が使われているということは分かったみたいだけど」
すみれの親は、万が一のことを考えて警察に被害届を出していたらしい。
早速今日に調査結果が届いていたので、読んでみると分かったことは公衆電話が使われていることだけらしい。
「公衆電話、か。なぁ、その深夜にかかってくる電話って先週から1日も欠かさずきているんだよな?」
「う、うん。そうらしいよ。今はスマホは私じゃなくてお母さんが持っているからわかんないけど」
なるほど。じゃあ、親友に頼み込んで今夜は頑張りますか。
……………………………………………………
「ということで頼む!どうか俺のために親友の力を貸してくれ!」
俺が全身で力を貸して欲しい、手伝って、を表現すると、親友は、はぁ、とため息を一つついて「今日一日だけだからな」といってくれた。
やったぜ!強力な味方ゲット!
「なぁ、この見張りいつまで続けるんだ?もうそろそろ眠くなってきたんだけど」
そう愚痴をこぼし始める親友に俺はこう答える。
「もちろん、犯人が来るまでか朝が来るまで続けるぞ」
そう、俺たちは…。
「マジ…?」
すみれの家の近くにある公衆電話で見張りを行なっているのだった。
……………………………………………………………
「いやまぁそれをすれば確かに犯人見つかるかもしれないけどさ。負担がでかいよ。夜通し公衆電話を見張るのは」
その日の昼休み、俺は親友である洸に作戦内容を伝えて、協力を仰いでいた。
「だが、すみれの家の近くにある公衆電話は一個だけ。それ以外となると1キロメートル以上離れることになる」
「それに相手は先週から1日も欠かさずに電話を入れている。今日も来るという可能性は大なわけだ」
俺が熱弁していると、その続きを洸がわかりやすいように説明してくれた。
「はぁ、仕方ない。今日だけだぞ。今日だけなら手伝ってやる」
「うおぉ、ありがとう。親友よ」
という経緯で親友と今公衆電話を見張っているのだが、誰も来ない。おかしいなぁ。何でだろう?
結局あれから公衆電話には人っ子1人近寄ってこなかった。つまり、俺たちはただ寝不足になって終わってしまったのだ。
「あれ?2人ともどうしたの?すごい眠そうな顔しているけど…」
俺たちが学校で眠気と戦っていると、今登校してきたであろうすみれの声が聞こえてきた。
「ああ、それはこいつが…。むぐっ、ぐっぐぐぐ」
俺は真実を述べようとした親友の口をマッハで封じると「ちょっとオンラインでゲームしてたら夜更かししちゃって」といった。
すみれに余計な心配はかけたくないからである。
「そ、そんなことより昨日は変な深夜の連絡なかっただろ、良かったじゃないか」
俺は、話を逸らすつもりでその話題を口に出した。すると、すみれは少し顔を俯かせこう答えた。
「ううん、昨日もまだきてたよ。いつになったらやめてくれるんだろう」
…え?俺はすみれから聞かされた答えに本気で唖然とした。
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「おかしいおかしいおかしいおかしい。だって昨日は公衆電話張ってたけど誰もかなかったじゃないか。いったいどういうことだ?」
俺はその日の昼休み、親友に小声で話しかける。
「偶然か。それとも俺たちが張っていることを知って変えたか」
親友も同じく小声で話しながら、見解を述べてくる。
……………………………………………………
「じゃあ、今日も張りに行くか」
あれから色々話し合った結果、今日は交代交代で張り込むこととなった。
さて、これで犯人が捕まってくれたら嬉しいのだけれど…。
俺は、そう呟きながら授業の用意を始めるのだった。
「あ、そういえばすみれさんの作品ダメにした犯人が分かったぞ」
翌日、またもや犯人が見つからなかった焦燥感と疲労でダウンしている俺に、親友はそう告げてきた。
「今日は部活を休んで俺に家に来い」
作品をダメにした犯人がわかったらしい親友はそう言い残すと1時間目の準備をしに自分の机へと戻った。
…。それにしても眠いな。明日じゃダメなのかな。というか俺と親友の労働量は同じくらいなのに何であんな元気なんだ?
……………………………………………………
「これが証拠だ」
放課後、部活を休んで親友宅へ行った俺は一本の動画を見せられた。
それは、学校についている防犯カメラの映像。それも、美術室に向かうためには絶対に通らなければならない一本道を映している映像だ。
「その映像を見るに、お前ら2人が美術室に入る前に美術室に入った人物はただ1人…」
その人物は、やはりというかあのお嬢様口調の美術部部長であった。
「早く先生に知らせに…」
そういきりたつ俺に親友は少し落ち着かせるような言い方で「先生や校長にも、そしてあの部長の親にも内容の書いた手紙付きで送った」と言った。
結果的にその映像が元となって、もう美術部部長は転校の手続きを進めているようだ。
親の方から転校を申し込んだらしい。流石に自分の娘が可愛いのだろう。
何故だかあまり釈然としないまま俺は、家へと帰っていった。
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