第4話
「はい、あ〜ん」
「う〜ん、美味しい〜。いつもの給食がすみれに食べさせてもらうことによってより美味しく感じるよ」
俺は、すみれから差し出された箸に挟まれたきんぴらを口に含みながらそういう。
「そう?ありがとう。そうだ!今度は大地くんが私に食べさせてよ〜」
「お、それはいいなぁ〜」
俺はすっかり上機嫌なすみれに、同じく卵焼きを箸に挟んであ〜んをすると、すみれはそれに猫のように可愛らしくパクリと食べた。
「すみれ、今日はなんかいつもよりテンション高いけどどうしたんだ?」
「あ、わかる?実はね、次の美術のコンクールで私の作品が出されることになったの」
「おぉ〜、すごいなすみれ」
確か、美術部の部員は合計で70人そこらいたはずだ。その中からコンクールの座を取るのは容易ではないだろう。
「大地君さえよければ、今日の放課後、美術室にコンクールに出す私の作品見にくる?」
「お!いいのか?見に行ってもいいなら行きたいぜ!」
すみれのコンクールに出す作品!一体どんなんだろうなぁ。
「あ、そういえば大地君も部活あるよね?どうするの?」
「10分、20分なら遅れても大丈夫だよ」
そんな感じで、俺は放課後に美術室に行くことになった。
まさか、そこでもまた悲劇が起こることを知らずに…。
「ここが美術室だよぉ〜」
「いや、うん。そのくらいは知ってる。それよりも、すみれの作品はどこだ?」
俺は、楽しみから少しすみれを急かすように聞くと、すみれは若干顔を赤くしながら、ドアを開け、どこに絵があるのか説明を始めようとした。
「私の絵は、そこの棚を右に曲がったところに…」
しかし、その説明は途中で止まってしまった。
なぜなら、美術室に設置してある水道に投げ捨てられてびしょ濡れになっていたからである。
……………………………………………………
「ひぐっ、ひぐっ、私の作品。どうして…」
「大丈夫。大丈夫だ、すみれ。コンクールまでは時間がまだある。俺も手伝うからさ、もう一枚、描こうぜ」
「うん…」
俺は、美術室に入る前のすみれとは打って変わって意気消沈してしまったすみれを励ましていると、突如、後ろから声が聞こえた。
「あら?すみれさん?すみれさんご自慢の作品はどこですの?私、見させてもらいたいわ」
「部長…」
俺が後ろを向くと、そこにはすみれや他の部員に部長と呼ばれた人物が立っていた。
「あらまぁあらまぁ、まさかですが水浸しになってゴミ同然になっているあの絵がすみれさんご自慢の絵ですの?私、びっくりだわ。しっかりと絵は管理されているといますので、誰かがわざと移動したんでしょうね。一体誰がどんな目的でやったんでしょうね」
…。まさか、こいつか?この人の神経を逆撫でる言い方。それに、周囲の部員もひそひそとそのようなことを言っている。
「部長、今回のコンクール、すみれさんに出品枠取られちゃったしね」
「案外、部長がやったんじゃね?」
「そうとしか考えられないよ」
………。そうか。
「ちょっと、ダメだよ!人を殴ろうとしちゃ!」
「殴ろうとなんてしてない。ちょっとこの件について聞こうとしただけだ」
「うそっ!絶対殴ろうとしてる!」
俺が怒りに身を任せて部長と呼ばれた人物に殴りかかろうとすると、すみれに止められた。
すると、当然。すみれが俺を後ろから抱きしめるような形になるので…。
「あらあら、仲のよろしいことで」
と、部長と呼ばれ以下略にくるりと背を向けながらからかわれてしまった。
「証拠見つけてやるから、首洗って待ってろよな」
そのまま立ち去ろうとしたので、俺は、部長と呼ばれ以下略に言葉を投げ捨てると、部長と呼ばれ以下略は言葉を返してきた。
「おっほっほっほっ。見つけられるものなら見つけてみなさいな」
あぁ、お望み通り証拠を見つけて吠え面かかせてやるよ。
…。それにしても、何でお嬢様口調なんだ?
「完成だ〜」
あれから二週間。美術のコンクールに出すはずの作品をダメにされたすみれは、先生に掛け合って「2週間以内に納得できる作品をもう一度作ってきたらコンクールに出すことを許可しよう」という言質をいただいた。
すみれは、言質をとるとすぐに作業に取り掛かった。
一からもう一枚描き始め、構成、色具合、など色々考えながら描いていった。
最終的には、俺とすみれだけでは足りずに我が親友である洸にも頼み込んで手伝ってもらった。
それが今、やっと完成したところである。あとはこれを先生に見せに行き、OKを貰いに行くだけである。
休み時間、放課後、部活、家、休日などの時間をかなり費やして作ったこの作品、これだけ費やしたんだからOKは貰えるだろう。
さあ、先生のところへレッツゴー。
……………………………………………………
「おぉ、二週間でここまで仕上げてきたのか。なかなかやるじゃないか」
絵を見た時の先生の第一声である。これは、いい線掴めたのではないのだろうか。
「それで、先生。コンクールに出してもいいでしょうか?」
急かすようにスミレが先生に問う。
「あぁ、コンクールに出す作品はこれとしよう」
あまりにもさらりというもんだから少し理解に時間がかかったが、その言葉の意味を理解すると
「やったぁぁぁぁあああ!」
「今までの時間無駄じゃなかったぁぁぁああああ!」
俺たちは喜びを言葉と態度で表した。
少なくとも、その日は絶好調であった。それなのに、その翌日、すみれは学校を休んだ。
「大地、お前確か黒澤の家知っていたよな。プリント届けに行くの、頼まれてくれるか?」
「はい、分かりました!」
今日はすみれが一日中休みだったため、もともと訪れに行く予定だったから大丈夫である。
それにしてもすみれ、コンクールの作品を二週間で仕上げたんだもんなぁ。体調の一つや二つ、悪くなるよな。
……………………………………………………
ーピンポーンー
「すみれ〜?いるか?」
俺は、すみれの家に着いて玄関チャイムを鳴らすと外から声をかけた。
「あ、大地君。来てくれたんだ。ありがとう」
しばらくしてガチャッと玄関を開ける音がして、すみれが出てきた。
しかし、すみれの様子がおかしい。顔は少しやつれていて、目の下にはクマがあり、足取りも少しおぼつかないようだ。
俺は、すぐにすみれの負担が減るように肩を貸して、許可を貰ってからプリントを持ってすみれの家へと入っていった。
……………………………………………………
「あのね、聞いて欲しいことがあるの」
俺なあの後、すみれをベッドまで付き添いプリントを届けた後、すみれと2人で他愛のない話をしているとすみれが話を切り出してきた。
「実は昨日の深夜、知らない女の人から沢山の電話がかかってきたの」
すみれは少し震えて顔を俯かせながら話す。俺はすぐにすみれを楽な体勢にしてやると、話の続きを聞くことにした。
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