第3話
「よし、やっと部活が終わった!」
俺は急いで帰る準備を済ませると校門へと向かって走っていった。
今日は彼女、黒澤すみれと一緒に帰る約束をしてある。
だから、走って校門へと向かっているのだが、いざ校門に着いてみるとすみれの姿はなかった。
「まあ、すみれにも部活があるし、来るまで気長に待つとしますか」
……………………………………………………
「すみれ、先に帰ったのかな?」
あれから待つこと30分。すみれはとうとう校門には来ず、日も若干暮れてきている。
すみれが入っている美術部の生徒がワイワイガヤガヤと談笑しながら帰っていったのを見ると、美術部はもう終わっているのだろう。
「念のため、すみれの靴があるかどうかは見にいっておくか」
俺は、少し駆け足で下駄箱へと向かう。すみれの靴があればすみれが校舎内にいることが、すみれの靴がなければすみれが帰ったことがわかるからだ。
そして、俺が下駄箱へ着くと、すみれは下駄箱にいた。
一生懸命に水で濡れた外履をハンカチで拭きながら。
「すみれ…?」
俺がすみれに声をかけると、すみれはびくりと肩を震わせたあと、ゆっくりとこちらを向いた。
「一体、何があったんだ?」
「な、なんでもないよ。なんでも。ちょっと水筒を靴にかけちゃっただけで…」
問いかけると、嘘がバレバレな言い訳をしてくる。そんなすみれに俺は、もう一度問いかける。
「なぁ、すみれ。もしかしてこれ、誰かにやられたのか?まさか、いじめか?」
俺は、靴を指さしながらそう問う。
「ち、違…」
「だってそうだろ?いくら水筒をこぼしたって言ったってこれだけの量はおかしい」
俺は、なおも言い訳をしようとするすみれにたたみかける。
「それに、今日水筒を忘れたってすみれ自身が言っていたじゃないか」
「………」
すみれはだんまりを決め込んだ。
「だんまり、か。すみれはそんなに俺のことが頼りないか?」
「ち、違う!」
「じゃあ!言ってくれよ!相談してくれよ!何があったのか!俺はすみれの力になりたいんだよ」
俺は、叫びながらすみれに本心を告げると、すみれはそれでも若干迷いながら、俺に話し始めた。
「大地くんの予想通り、私最近いじめられているの。最初は、ちょっとしたことだったかな。消しゴムやシャーペンが無くなってたり。その頃はまだ私もいじめられているなんて思ってもいなかった」
「だけどね、日を経つにつれ配布物はクシャクシャに折られていたり、引き出しに大地くんと別れなければもっと酷いことをするっていうメモ書きもあって…」
「そして今日、靴が濡らされていた、と?」
俺が内心の怒りを隠しながらすみれに聞くと、すみれはそのまま話を続けた。
「うん、そう。まだ、些細なことだから大丈夫だけど、私、怖くって…。でも、大地くんに迷惑かけるわけにはいかないって思って…」
「それで、黙っていたと?」
「うん、ごめんなさい」
はぁ、と俺はわざとらしくため息をつくとすみれの頭をポンと撫でた。それから、
「とりあえず先生を呼んでくるからちょっと待ってな。ただし、次から何でもいいから困ったことがあったらしっかりと俺に頼れよ」
と告げ、職員室に向かい先生を呼んできた。先生は、
「今日は、学校の外履を貸し出す。明日はなんでもいいから別の靴を履いて登校してこい」
そして、靴を返しに来い、と言い残し職員室に靴を取りに行った。
俺たちはその厚意に甘えてすみれのサイズにあった靴を借りると、俺は家へとすみれを送った。
……………………………………………………
翌日、俺は念のためすみれの家へとすみれを迎えに行き、一緒に登校した。
学校についてすぐ、さあ、上履きを履くぞ、となったときにまたもや事件は起こった。
すみれの上履きに画鋲が入っていたのである。
すみれが履く前に気づけたので怪我はなかったのだが、一歩間違えたらすみれが怪我をしていたところだった。
その日のホームルームでは、先生によっていじめの事実があることを話してもらった。
誰がいじめられているのかは名前を伏せてもらったが、これで少しでも抑制になればいいのだが。
とりあえずその日は、先生の忠告が効いたのかすみれに何か起こることはなかった。
「ということで、何かすみれをいじめている犯人を見つける方法はないか?洸」
俺はその翌日、親友の洸にすみれがいじめられていることを伝えて犯人発見の協力を仰いだ。
「まさかすみれさんにそんなことが起こっていたなんて…。わかった。とりあえず僕の方でもできることをやっておくよ」
親友はそういうと、しっかりと深く頷き協力を約束してくれた。
「さすが、俺のベストフレンド。頼りになるな!」
「大地のためだからな。なんとか頑張ってみせるよ。ただ、期待はしないでおいてくれると助かるかな」
親友は少し思案しているような顔をして、そう言った。
……………………………………………………
「犯人捕まえたぞ〜」
そんな親友の少しのんびりした声が聞こえてきたのは、今日の昼休みのことであった。
親友がドナドナしてきた子は、同じクラスの女子である
なんでも俺とすみれが給食を片付けに行った際にこっそりと引き出しに脅迫のメモを入れていたらしいのだ。
そのうえ、親友情報によると彼女は俺に恋慕の感情を抱いており、俺とすみれが付き合ったことから嫉妬心によりこのような行動に出たとか。
「ごめんなさい!もう2度としません」
「と、まあこんな感じに色々としっかり反省させておいたから今回は許してやってくれないか?」
まあ、たしかに。見た限りでは彼女はかなり反省していると言えるだろう。
だが、許すかどうかを決めるのは俺ではない。実際の被害者であるすみれだ。
俺が、そんな気持ちを込めた視線をすみれに送ると、すみれはすぐに察して自分の気持ちを話してくれた。
「私は、大丈夫です。この方もしっかりと反省しているようですし、これから何もしないというなら」
すみれが言い終わったことを確認してから俺は言葉を紡ぐ。
「正直言って俺はまだ許せないが、すみれがそういうなら仕方ない。今回ばかりは許してやろう」
そこで、俺は言葉を一旦区切り顔を近づけて少し凄めるようにしていう。
「次、また何かやってみろ。今度こそは、すみれが許したとしても俺が許さないからな」
「は、はい!もちろんです!」
俺は、彼女が声を裏返しながらもしっかりと返事したことを確認して、昼休みに戻った。
そしてそれ以降、俺の言葉が効いたのか、すみれへのいじめはなくなった。
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