第60話 芳樹の告白(2)(直人)
何と声を掛ければ良いか分からず、俺は「大丈夫か?」と芳樹に問い掛ける。芳樹は無言で頷いて、俺と浜田の間を通って階段に向かって歩き出した。俺と浜田は心配になって、芳樹の後ろを付いて行く。
芳樹は俺達の方に振り返ること無く外に出て、自動販売機まで黙って歩いた。芳樹は自動販売機の前に立つと、頼んでもいないのに俺達の分までジュースを買ってくれた。
俺達はいつものようにベンチに座ってジュースを飲み始める。
「先生に告白出来たのか?」
誰も何も言わないので、俺は痺れが切れて芳樹に問い掛けた。
「……うん、先生に何の用か聞かれたので『先生が好きなんです。付き合って下さい』って告白したんだ」
「それで先生は何て返事をしてくれたの?」
座っている俺と芳樹の前に立つ浜田が質問する。
「しばらく驚いて何も言えなかったみたいで……その後突然泣き出したんだ」
俺と浜田は顔を見合わせた。思った通り、先生は告白されて泣き出したんだ。
「先生はそんなに嫌だったのか?」
「そうじゃないんだよ。俺も最初はそう思ったけど、先生は『ごめんね、芳樹君が嫌いで泣いてるんじゃないの。先生も芳樹君みたいに告白する勇気が有ればって悲しくなったから。驚かせてごめんね』って言ったんだ」
俺の質問に芳樹はそう答えた。先生はまだ、菊池先輩に気持ちを告白出来なくて悩んでいるんだ。
「それって、どういう意味なんだろう? 先生には好きな人が居るけど、告白は出来ていないってことかな?」
「そうみたいだ。先生は続けて『芳樹君の気持ちは嬉しいけど、先生は応えてあげられない。私には好きな人が居るの。本当にごめんなさい』って言ったんだ」
「それでお前はどう答えたんだ?」
「俺は『ありがとうございます』って言ったんだ」
「ありがとうございます? え、だって振られたんだろ?」
芳樹の返答は、意外だった。
「だって、先生はちゃんと受け止めてくれたから。わざわざ好きな人が居るって言わなくても、歳の差だとか、先生と生徒だからとか、適当な理由を付けて断ることも出来たのに。それが嬉しかったんだ」
なんだか急に芳樹が大人になったような気がした。
「この後はどうするの? 断られても諦めないって言ってたけど」
「うん、好きな気持ちは変わらないけど、先生を応援したいって気持ちになった」
「へえ、芳樹君カッコイイね」
「でも応援しようにも、先生が誰を好きなのか分からないしな……」
「あっ……」
二人の会話を聞いていた俺は、思わず声を漏らしてしまった。どうする? ここで菊池先輩のことを言うべきか?
「どうしたんだよ」
「直人君何か知ってるの?」
勘の鋭い浜田が、直球を突っ込んでくる。
「あの……俺、先生の好きな人を知ってるんだ」
「ええっ、どうしてお前が知ってるんだよ!」
芳樹が俺に迫って来る。
「いや、ホント偶然だったんだよ……」
俺は委員長達とたこ焼き屋の前で先生を見掛け、喫茶店でいろいろ話を聞いたことを二人に打ち明けた。
「黙っていたのは悪かったけど、話せなかったんだよ。信じて欲しいのは、芳樹にも菊池先輩にも肩入れはしていない。ずっと様子を窺っていただけなんだよ」
俺は必死に弁解した。本当に難しい立場だったのを分かって欲しかった。
「よし!」
芳樹が急に立ち上がる。
「よしって、何をするつもりなの?」
「菊池先輩のところに行って、先生と付き合ってもらうように頼んで来る」
「ええっ、芳樹君、それは駄目だよ。だって先生はまだ告白していないんだし、先に先輩に付き合ってくれって頼むのは筋違いだ」
浜田が驚いて芳樹を止める。
「じゃあ、どうすれば良いんだよ」
「まあ、落ち着いて座って」
浜田は立ち上がった芳樹をもう一度座らせる。
「順序としては、まず先生が菊池先輩に告白する。で、先輩がオッケーすれば、それでめでたしめでたし、芳樹君の出番は無し。
芳樹君に出番が回って来るのは、先生が振られた場合。そうなれば、先輩のところに行って先生と付き合うように頼むのも良いし、逆にもう一度告白するのも良いんじゃない」
「そうか、じゃあ先生に告白させれば良いんだ」
「させれば良いって、どうやって告白させるんだよ」
告白させれば良いって言うけど、俺はどうやるのか見当もつかなかった。
「よし、芳樹君がその気なら、僕達で先生が告白する手助けしてみますか!」
何か良案が閃いたのか、浜田が意味深に笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます