第55話 彼女の為に出来ること(5)(直人)

「悔しいけど、俺が好きな香取さんはお前のことが好きなんだ。俺は香取さんを応援したい。あの娘の笑顔が見たいんだ。

 斉藤は香取さんと付き合う気は無いのか?」


 斉藤はすぐに答えない。


「俺は増田のことが好きなんだ。それは出来ないよ」


 俺が腹を割って話した所為か、斉藤も少し考えた後にはっきり自分の気持ちを認めた。


「じゃあ、香取さんに絡んでくるなって言ったことは本心なのか? 香取さんのことを鬱陶しいと思ってるのか?」

「いや、あれは本心じゃない。俺の悪い癖なんだ。つい感情的になって酷いことを言ってしまう。それでいつも友達を失くしてきたよ。でも香取はそんな俺をよくフォローしてくれてたな……」


 こうして話してみると、案外悪い奴じゃないよな。


「そう思ってるのなら、香取さんに会って謝ってみたらどうかな。もちろん俺も香取さんが斉藤のことを好きだって言ったのは彼女に謝るし」

「香取は会ってくれるのかな」

「そうだよな……」


 どうすれば良いんだろう。


「委員長に相談してみるよ。俺達が会って謝りたいって言えば、協力してくれるんじゃないかな」

「じゃあ、増田への連絡は任せるよ」

「了解。あと片桐先生が心配しているみたいだから、美術部には出てあげなよ」

「ああ、そうだな。明日からは出るようにするよ」


 話が終わり、俺は斉藤とライン登録して、お屋敷から引き上げた。



 家に帰ろうとバス停に向かって歩いていると、片桐先生にバッタリ出会った。


「若宮君、来てたの?」


 先生は俺を見て驚いた。


「はい、さっきまで斉藤と話をしてました」

「ええっ、斉藤君会ってくれたの?」

「明日からは美術部にも出るって言ってましたよ」

「そうなんだ、良かった。若宮君本当にありがとうね」


 片桐先生は心底ホッとしたように礼を言う。


「いや、元はと言えば、俺が余計なこと言った所為ですから。あっ、香取さんの様子はどうですか?」


 片桐先生も香取さんの家に行っていると委員長から聞いていた。


「うん、まだ、ちょっと気持ちが落ち着いてないね……。増田さんと話して、しばらく家に行くのはやめようって決めたの。毎日行ってると香取さんにもプレッシャーになるからね」


 確かに毎日家に来られるのは、責められているようで辛いだろうな。


「後はラインで連絡を取り合うつもりなの」

「俺があんなこと言ってしまったばっかりに、本当にすみません」


 俺はみんなに迷惑掛けて居たたまれない気持ちになった。


「まあ、誰でも失敗はあるものよ。でもこうして、自分で後始末着けようとしているだけ、立派だと先生は思うわ。だから、あなたまで落ち込まないでね」

「はい、ありがとうございます」


 先生は斉藤の家に行くのを途中でやめて、俺と一緒に帰った。



 その夜、俺は委員長に電話した。


「今日斉藤と会って話が出来たよ」

(ええっ、そうなんだ! 斉藤君どうだった?)

「あいつ、香取さんに言った酷い言葉は本心じゃ無かったって。つい、勢いで言ってしまたみたいなんだ。だから謝りたいって言ってたよ。あと、ついでって訳じゃないけど、俺も一緒に香取さんに謝りたいんだ」


 俺は斉藤が委員長のことを好きだと言った話は伏せておいた。


(そうか、それは良かった……)

「ただ、どうやって香取さんに会うかが問題なんだよな」

(そうね……)


 委員長もすぐにアイデアが浮かばないのか、会話が途切れた。


(マナを花火大会に連れ出そうかな)

「えっ、花火大会?」

(そう、説得して私とマナの二人で行くの。で、あなた達も二人で行って、向こうで偶然会ったことにすればどうかな)

「でも、騙す感じになるな……」

(じゃあ、どうすれば良いのよ。なにかアイデアあるの? 私だってマナを騙すのは嫌よ。でもこのままマナが立ち直れなくて引きこもりになったらと思うと心配で堪らないの)


 委員長は怒ってまくし立てる。


「ごめん、違うんだ。委員長を責めるつもりじゃ無いんだよ。全て悪いのは俺だから、このアイデアも俺が言い出したことにしてくれないか。もし香取さんにバレた時に、委員長と香取さんの仲が悪くなったら責任感じちゃうよ」

(……)


 委員長は俺の言葉を聞いても、すぐに返事を返してくれない。


(分かった。どちらかじゃなく、二人で決めたことにしよう。私も若宮君だけに責任を負わせたくないから)

「ありがとう。そうさせて貰うよ」

(じゃあ、なんとかマナを説得するわ。でも、斉藤君よく話をしてくれたね。昨日の様子じゃ無理っぽかったのに。警備員まで呼ばれたんでしょ?)

「まあ……そこは男同士の友情ってやつよ」


 俺は委員長を出汁にしたとは言えず、誤魔化した。


(じゃあ、またマナの返事を確認して連絡するわ)


 話が終わり、電話を切った。あとは香取さんの気持ち次第になった。

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