第53話 彼女の為に出来ること(3)(直人)
夜になり、俺は委員長に電話を掛けた。香取さんの様子を聞きたかったのだ。
「委員長? 俺、若宮です」
(こんばんは。電話ありがとう。今日は斉藤君の家に行ってくれたんだよね? 私も気になってたの)
「うん、行ったけど、居留守を使われたよ。その上警備員を呼ばれて追い払われたんだ」
(警備員に? それは大変だったね)
警備員と聞いて委員長も驚いたようだ。
「あいつの家、豪邸だったよ。お金持ちなんだな」
(ええっ、そうなの? 全然知らなかった)
「委員長も知らなかったんだ」
(斉藤君とはプライベートの話をしたこと無いからね。みんなも知らないんじゃないかな)
「ああ、木崎もそう言ってたな。案外浮いてたみたいだな」
(うん、でもマナが一生懸命フォローしてたから、なんとかなってたけどね)
なんだか、少し斉藤が可哀想になってきた。あの頑なな感じも、案外孤独を感じてたからなのかも知れないな。
「香取さんの方はどうだった?」
(うん……まだショックを引きずっているね。いろいろ楽しい話題も振ってみたけど、表情は暗いままだったよ)
「そうか……」
香取さんの泣き出しそうな表情を思い出し、心が重くなった。
(どうして、マナが斉藤君のこと好きだと分かったの?)
「うん……香取さんはいつも斉藤を見ていたからね」
(そうか……もしかして、若宮君はマナのこと好きなの?)
急に核心的なことを突いて来られた。どうする? 正直に話すべきか?
「あ……うん。香取さんのことを好きだと思ってるよ。入学して初めて会った時からずっとね」
俺はまるで本人に告白するかのように、心臓を昂らせながら打ち明けた。
(そっか……ならあの暴言も少しは許せるかな)
「ありがとう。そう言って貰えると少しは気が楽になるよ」
(言っとくけど少しだけよ。本当に怒っているんだから)
「うん、ごめん。本当に反省してる」
俺は委員長に怒られても仕方ないので、素直に謝った。
(斉藤君の家に行ったりして、なんとかしようとしているのは分かるから、もうこれ以上は責めないよ。……あと、あなたがマナのことを好きだと、本人に伝えても良い?)
「えっ……」
俺は突然の申し出に言葉が詰まる。
(マナも若宮君が何故あんなこと言ったのか分かれば、少しは気が楽になるかも知れないじゃない)
確かにそうかも知れないな。
「委員長がそう判断したなら、伝えて貰っても構わないよ。ただ、俺は香取さんが斉藤を好きなことは尊重する。香取さんが斉藤と上手くいけるように応援するって、一緒に伝えて欲しんだ」
(ええっ、良いの? マナのこと好きなんでしょ?)
「うん、好きだからこそ、香取さんには笑顔で居て欲しいんだ。俺があんなこと言ったばっかりに、悲しい思いをさせて本当に後悔してる。香取さんがまた笑顔になれるなら、斉藤とのことも応援したいんだ」
俺がそう言うと、委員長は何も返答せずに少し考えているようだ。
(分かった。そう伝えるよ。私達は同じ目的に向かう同志だね。マナの笑顔の為に頑張ろう)
委員長は明るく、そう言ってくれた。
「ああ、頑張ろうな」
俺は前向きな気持ちで、委員長との電話を終えた。
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