第51話 彼女の為に出来ること(1)(直人)
火曜日の正午。俺達柔道部の三人組は部活が終わり、校内の自動販売機の前にあるベンチに座って、ジュースを飲みながら話をしていた。
「斉藤君に連絡取るって言ってたけど、具体的にどうするか考えてるの?」
俺の横に座る浜田が、缶コーラを一口飲んで聞いてくる。
「ラインも登録してないし、直接会って話すしかないだろうな……」
「会って何を話すつもりなんだ?」
ベンチに座る俺と浜田の前で、芳樹は柔道着の入ったバッグを椅子代わりにして座っている。
「そうだな……何を話せばいいんだろう」
香取さんを傷付けてしまったことを何とかして償いたいが、俺が直接彼女に出来ることがない。今は委員長に任せるしかないんだ。それでも役に立ちたいと、斉藤への連絡を買って出たが、具体的には何も考えて無かった。
「香取さんと付き合うように頼むつもりなの?」
「ええっ……」
浜田が突拍子もないことを言い出して驚いた。
「じゃあどうするつもりなんだ。斉藤と付き合えることになったら、香取さんも喜ぶだろ。それが一番良いと俺も思うぞ」
芳樹までそんなこと言うってことは、本当にそうするべきなんだろうか。
「でも直人君は香取さんのことが好きだからそれは出来ないか……」
「いや、確かにそうだけど、今は俺の気持ちより香取さんの気持ちが大事だよ。もし香取さんが喜ぶのなら斉藤と上手くいく方が良い」
ただ、斉藤は委員長のことが好きなんだと思う。いろいろ問題も多いな。
「まず斉藤が香取さんのことをどう思ってるのか聞いてみるよ。美術部では酷いこと言ってたけど、苛ついてただけで本心とは思えないんだ。斉藤の香取さんへの気持ちが肯定的なら、それを伝えたら喜ぶんじゃないかな」
手探り状態だけど、香取さんの為に出来ることはしないと……。
「そうだね、それが良いかもね。で、斉藤君の家を知ってるの? 美術部は木曜まで活動が無いよ。木曜も斉藤君が来るか分からないし」
「そうか……斉藤の家は知らないな……。二人は知らないの?」
「斉藤の家なんて知ってる筈ないだろ」
確かにそうだろうな。
「木崎君なら知ってるかもよ。サッカー部は午後から部活だから、もう来てるんじゃない」
「そうか、木崎なら知ってるよな」
木崎はクラスメイトで、いつも委員長達のグループに居る男子だ。
「俺、木崎に聞いてみる」
「僕達も一緒に行くよ」
「ありがとう。でも、俺がやらかしたんだから一人で行って来るよ」
二人は相談するように顔を見合わせた。
「じゃあ、なにか問題があったら言ってくれよ」
無言だったが意思の疎通が出来たみたいで、芳樹が代表してそう答えた。
「ありがとう。そうするよ」
俺はベンチから立ち上がり、部室棟に向かって歩き出した。
まだ練習開始前だったが、サッカー部の部室前には数人の部員がたむろしていて、その中に木崎も居た。
「木崎、話があるんだけど、ちょっと良いか?」
「おお、若宮……もう柔道部は練習終わったんだろ? まだ帰らないのか?」
俺はサッカー部の部員たちから少し離れた場所に木崎を呼び、話し出した。
「ちょっと用があってさ、斉藤の家を知ってたら教えて欲しいんだ」
「斉藤の家? 俺は知らないな」
「ええっ、でも木崎は斉藤と仲が良いだろ?」
木崎と斉藤はクラス内で見る限りは、いつも同じグループ内に居る。当然家も知っていると思っていた。
「いや、仲が良い訳じゃないよ。学校以外で会ったことも無いしな」
「そうなんだ!」
「お前らにどう見えてるか分からないけど、あいつ結構浮いてるんだぜ。空気読めない発言も多いし、イラってくることも多いよ」
「いや、いつも一緒に居るじゃないか」
「増田や香取がフォローしているからさ。二人が居ないところでは、誰も絡んで行ってないよ」
凄く意外だった。外から見れば、みんな仲が良いのかと思っていたから。
「そう言えば、綾田町で『斉藤の家はどこですか?』って聞けば誰でも知ってるって自慢してたな。そういうとこだぞって突っ込みたかったよ」
木崎は思い出して笑う。
綾田町なら自転車で行ける範囲か。確か駅からバスでも行けたな。
「分かったありがとう」
「斉藤に何の用だよ」
「い、いや、ちょっと野暮用だよ」
用を聞かれて、ギクッとした。それを知られる訳にはいかない。
「昨日から斉藤と増田と香取がグループラインに出て来ないんだよな。なんか有ったのか?」
「そのグループラインのことは俺には分からないよ」
「まあ、そうか……」
俺はそのグループには入っていないので、木崎も納得してくれたようだ。
「じゃあ、ありがとう」
俺はその場を離れ、駅に向かった。
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