第50話 残念な知らせ(幸也)

 火曜日の午後。お昼時も終わり、店も暇でのんびりとした時間を過ごしている。


 明日は休みで、片桐先生と美術館デートの予定だ。


 しかし、明日の予定をデートと呼んで良いのだろうか? 偽装の恋人同士になる為の練習みたいなものだしな。


「こんにちは」


 そんなことを考えていると、当の片桐先生が目の前に現れた。


「あっ、片桐先生、いらっしゃい」

「すみません、今日は食べて行けないんですが、少しお話が……」


 いつも明るい片桐先生が、今日はなぜか暗い表情をしている。


「いえ、全然お構いなく。話ってなんです?」

「あの……明日の件なんです」


 明日……美術館デートの件か。


「実は学校でトラブルがあって、明日は行けなくなってしまったんです」

「ええっ、そうなんですか……」

「私が顧問をしている美術部内でちょっとトラブルが起きてしまって。今日も今から生徒の家に行くんですよ」


 片桐先生の表情からして、かなり深刻な事態みたいだな。


「明日もトラブルは解決できそうに無いんですか?」

「そうですね、昨日の様子だと多分……。当日にドタキャンになるぐらいなら、今日の内からキャンセルしておいた方が良いかと思いまして」

「明日の状況次第で当日にキャンセルでも……」


 言葉の途中で、あまりしつこく言うのも失礼かなと気付いた。


「先生が迷惑でなければ……」

「私はそうさせて貰えれば嬉しいですけど、店長さんに迷惑かと思って……」

「いや、迷惑なんて、全然大丈夫ですよ。駄目なら駄目で仕方ないし、もし行けるのなら、行きましょうよ」

「ありがとうございます!」


 片桐先生は嬉しそうに頭を下げた。


「じゃあ、お言葉に甘えてそうさせて頂きます」

「ええ、是非そうしてください」

「今から生徒の家に行くのが不安だったんですが、なんだか元気が出てきました」


 先生がいつもの明るい表情に戻った。


「それは良かった」

「じゃあ、今から行って来ます!」

「はい、頑張ってくださいね」


 挨拶して駅に向かう片桐先生を、俺は店の前に出て見送った。


 店に戻って、ふとさっきの先生との会話を思い返す。俺は自分で思っていた以上に、明日を楽しみにしていたんだなと気付いた。どうでも良ければ、キャンセルの話が出た時点で同意していただろう。


「明日、行けるのかな……」


 だが残念なことに、翌日の午前中、片桐先生から美術館デートのキャンセルの電話が入った。

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