第21話 シナリオ検討会議(2)(春菜)
「私に初めて彼氏が出来たのは、高校二年の時ね」
「高校に入ってからなんですね!」
「そう。モテる方じゃなかったし、好きになった人は居たけど告白する勇気もなかったしね」
「どちらから告白したんです? 出会いは?」
「まあ、まあ、落ち着いてよ。順番に話すから」
ホント、恋愛に興味深々なのね。茜ちゃんがその気になれば、すぐにでも彼氏が出来ると思うのに。
「別にドラマチックな出会いが有った訳じゃないのよ。
私本を読むのが好きだから、高二の一学期に図書委員になってね。彼も同じ図書委員だった訳。月に一回ぐらい放課後のカウンター係が回って来てね。彼と一緒に図書室で夕方まで過ごすの。
まあ、学校の図書室に放課後来る人なんて滅多に居ないから、最初に入った時なんて、二人でずっと雑談して過ごしたわ。
彼も本をよく読む人で、好きな本の話で盛り上がったりしてね。で、委員会じゃ無い時も話をするようになって自然とって感じね」
「どちらかが告白したんですか?」
「告白ねえ……あーどうだったかなあ……クラスでも仲が良いねって言われるようになって、じゃあ、付き合おっか、て感じだったなあ。結局最後まで『好きだ』って言われなかったような……」
今から思うとよく分からん交際だったよね。
「そんな付き合い方もあるんですね。デートとかしなかったんですか?」
「デートもしたよ。でもなんかこう、うーん、どんどん好きになっていくって感じも無く、三年になってクラスが変わったら自然消滅してしまったのよ」
「じゃあ、その……なんにも無かったんですか?」
「なんにもって……」
茜ちゃんの言い方が面白くて、苦笑した。ストレートな言葉に出来ないけど、聞いてみたいのね。
「なんにも無かったよ。少し手を繋いだだけかな」
「そうなんですか……じゃあ、もっと好きになって付き合った人は?」
「待ってよ。次は茜ちゃんの番でしょ」
「えー私は付き合ったこと無いですよ」
「それは前にも聞いたし、分かってるわ。私が聞きたいのは、茜ちゃんの初恋話よ」
「私の初恋!」
茜ちゃんは、驚いて声を上げる。
「さすがに初恋はしてるでしょ。それを教えてよ」
「初恋か……」
「何歳の時なの?」
「小学校五年生の時ですね」
茜ちゃんは恥ずかしいのか、照れたように小さな声で呟く。
「五年生? 結構遅いのね」
「遅いですかね?」
「あっ、いや全然、人それぞれだから、全然問題ないよ」
今までも付き合った人は居ないし、茜ちゃんは奥手なのかも知れない。気にしていると悪いので、私はフォローを入れた。
「小学生ぐらいのモテる男の子って、スポーツ万能な子とか? それとも頭が良いとか、クラスで目立つ存在だったとか?」
「いや、特に目立つ訳じゃなく普通の子でした。運動はむしろ苦手で、だからこそ好きになったんです」
「ええっ、運動音痴が好きなの?」
「あっ、そういう訳じゃないんですよ。その子を初めて意識したのは放課後の校庭なんです……」
おっ、これは良いエピソードの予感。注意して聞かなきゃ。
「その子は五年生になっても逆上がりが出来なかったんですよ」
「ええっ、五年生で?」
「そうなんですよね。本人も出来ないのが恥ずかしいと思ったんでしょうか、いつも放課後に練習していたんです。他の男子に馬鹿にされながら」
「それってイジメられてたの?」
「うーん、イジメと言えばイジメなんでしょうが、その子の態度がそう見せなかったんですよね。どんなにからかわれても相手にせず、一生懸命練習してた。でも逆上がりは出来ないんですよ。
そのうちからかう男の子達が居なくなっても続けていて、その一心不乱に頑張る姿がカッコイイと思っちゃたんですよね」
「そうか。それで恋しちゃったんだ」
「話し掛ける勇気がなくて、ずっと遠くからみていただけなんですよ。そのうちその子が転校してしまって、それっ切り。私が唯一好きになった人ですね」
かー淡い恋よね。良い話聞けたわ。
「もしさ、その男の子が今目の前に表われたらどうする?」
「えっ、どうするって?」
「ああ、聞き方が悪かったかな。その子のこと今でも好きなの?」
「あーどうなのかな? 自分でもよく分かりませんよ。もう結構昔の話ですしね」
「でも特別な存在でしょ?」
「そうですね。特別ですね」
「じゃあ、また会えたら恋しちゃうんじゃないの?」
しつこいようだが、小説のネタとして聞いておきたかった。
「うーん、昔と変わって無ければ、そうなるかも知れませんね」
茜ちゃんは少し考えて、ちゃんと真面目に返答してくれた。
「しつこく聞いてごめんね。でも良い話が聞けたわ」
「もしかして小説の参考にするんですか? ならお役に立てて嬉しいですよ」
「ありがとう。小説家デビューしたら、お礼するね」
いつか茜ちゃんをモデルにした小説を書きたい。魅力的なヒロインの、面白い作品になる筈よ。
「じゃあ、次は春菜さんの番ですよ。もっと熱い恋をした話を聞かせてくださいよ」
「熱い恋ねえ。そんな話があったかなあ……。そう大学時代にね……」
こうして私達二人は深夜まで話し込んで、次の日は寝不足で仕事をしてしまいましたとさ。
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