第20話 シナリオ検討会議(1)(春菜)
金曜の夜。今日は茜ちゃんが「スイッチ」のバイトが終わり次第、家に来て泊っていくことになっている。今日の夜、商店街を紹介するショートムービーのシナリオ検討会議をする予定なのだ。私は茜ちゃんに見られて恥ずかしくないように、バイトが終わってから1Kの狭い我が家を片付けていた。
午後九時半、茜ちゃんがやって来た。
「春菜さん、お疲れ様です。マスターから余り物のスイーツの差し入れ貰ってきましたよ」
茜ちゃんは部屋に入ると、嬉しそうにスイーツの入った箱を顔の横に掲げた。
「お疲れー。珍しくマスターも気が利くね。作戦会議の前にシャワー浴びる? 私はもう先に済ませたんだけど」
「あっ、良いんですか? 汗かいちゃったんで、その方が嬉しいです」
茜ちゃんがシャワーを終え、薄いピンクのスウェット姿で出て来てから、検討会議は始まった。
「あの、検討を始める前にお願いがあるんですけど……」
私が座卓の上に小説のアイデアを書き出す時に使うノートを広げると、茜ちゃんがそう言ってきた。
「改まってどうしたの? 今はアイデア出し合う段階だから、遠慮せずなんでも言ってよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
茜ちゃんのお願いとは、高校の美術の先生が幸也さんを好きなので、それを応援することとなった。仲を取り持つ手段として、先生にオブジェのデザインを担当してもらい、幸也さんと繋がりを作る。後はショートムービーの中でも、二人を絡めて何か出来ないかとの話だった。
「ダメンズたこ焼き屋店長と真面目一筋女教師の恋物語。題して『教師が真面目で何が悪い!』」
私が想像していた通りだ! 私凄い!
「何ですか、それ?」
「あっ、いや何でも無いです」
しかし、あの話が正解だったとはね……。
「まあ、今回の企画で二人の仲を後押しするのは良いんだけどね……あまり他人の恋愛にお節介焼くのもどうかと思うな……」
キューピットになろうと張り切っている茜ちゃんには残酷かも知れないけど、一言言わなきゃと思った。
「でも、春菜さん恋愛の相談に乗ってくれるって言ってたじゃないですか」
「それは茜ちゃん本人の恋愛ってことよ。それにこれだってちゃんとしたアドバイスよ。なんでも肯定するだけじゃないからね」
「でも……」
下を向いてシュンとする茜ちゃんを見ていると、可哀想になってきた。そんな茜ちゃんを見ていられずに、私は甘いなと思いつつも、なんとか力になって上げようと思い始めている。
「分かった。シナリオの中でなんとか考えてみるよ」
「ホントに!」
茜ちゃんが嬉しそうに顔を上げる。こんなの反則過ぎるよ。茜ちゃんの笑顔をみたら、男女を問わず、誰でも力になってあげたいと考えてしまうわ。
「でも約束して。もし上手く行かないと思ったら、絶対に無理強いせず諦めるって」
「うん、約束する。あー春菜さん優しい。大好き!」
茜ちゃんが私に抱き付いてくる。普段は大人っぽいのに、こういう仕草はホント無邪気な子供みたいだ。
「オブジェの伝説に登場する二人が、現代に甦る設定はどう?」
「甦る?」
「そう、昔、愛し合いながらも結ばれなかった二人が、現代に甦って、この商店街で運命の再会を果たすの。その役を先生と幸也さんに演じて貰えば良いんじゃない? あくまで役柄で伝説の恋人を演じてもらうんだけど、それが本当の恋心に発展するかも知れないでしょ? 山口百恵と三浦友和みたいに」
「それ良いですね! あっ、でも山口百恵って誰です?」
「いや、知らなきゃ良いです」
知らないか……もしかして、知ってる私がおばさんなの? いや、そんな訳ないよね!
「じゃあ、後はショートムービーのストーリーと配役を決めようか」
「はい、クラスの友達に頼んで、結構人数集まりましたよ」
その後、私達は検討会議を進めた。
深夜一時。大まかな段どりも固まり、明日は二人とも朝から「スイッチ」のバイトが入っているので寝ることになった。私は布団派なので、座卓を片付け、お客様用と自分のと二組並べて敷いた。
「なんだか修学旅行みたいで楽しいですね」
「もうそんな昔のこと忘れちゃったわ。明日も仕事だから寝るよ」
「はーい」
私は灯りを消して、布団にもぐり込んだ。
「ねえ、春菜さん。寝ました?」
「んー?」
茜ちゃんは慣れない布団で緊張しているのか、眠れないようで私に話し掛けてきた。
「春菜さんの学生の頃の話を聞かせてくださいよ」
「えー、私の学生の頃の話なんて、面白いことなんて何もないよ」
「彼氏は居ました?」
茜ちゃんは私の言葉を無視して質問してくる。
「彼氏? うーん、じゃあ答えるから、茜ちゃんも私の質問に答えてよ。交代交代ね」
「良いですよ。じゃあ、春菜さんからお願いします」
なんか本当に修学旅行みたいなノリになってきたな。でも、茜ちゃんの話が聞ける良いチャンスだ。ここはノッテみるべきね。
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