第4話  記憶

(キミは偽救世主だろ?ふふ、キミには誰も救えなんかしない)


昔の、思い出したくもない悲劇が、誰かの声となって、ボクを又こうして苦しめる・・。


(思い出したくなんて・・そう、思い出したくなんてないんだ・・今更このボクなんかに・・何もできやしないのに)


神に祈りたかったのは・・・ボクの方だったんだから



そう、、色々あったんだ・・。ボクは、楽しい記憶も振り返る

そんなに楽しい人生ではないけど、だからこそ光る思い出・・。


悩んでいた時にボクを救ってくれた、いつかの貴族の女の子・・デュ、バリーと言ったかな?

あの子はただ何度かだけしか話せず、ボクも学園を辞めたからもぅ会えなくなったけど

こんなボクを見つめては、いつも堂々とした態度で、いつも接して笑わせてくれたっけ・・

そう、ボクが初めての罪を犯し、死にかけた時も、あの人を亡くした時も、ただ傍に居てくれて、飴玉をよくくれてたっけ?


そう思い出に馳せながら、井戸の水で顔を勢いよく洗う


・・・そう、ボクの家は代々続く、有名な家柄・・シャルルサンソン家 別名 悪魔の処刑貴族


ボクは幼い頃にはもぅ、家族からスパルタで処刑場を見せられ、いつか処刑人になる為だけに生まれてきた存在だと教えられた


「死にいく罪人に、せめて高貴な死を!」


それが、呪われた家訓の様に、ボクを当時は追い詰めていったっけ?


でも・・ボクが当主になるのは突然で、思いの他時間はかからなかった

それについてはずっと悩んでいる

処刑人になるべきだったのか、それとも名誉ある職を放棄して、同じ咎人として自分も死刑台に上るべきか

どちらにせよ、今、ボクはここにいて、生きてる


正直、人を殺しておいて富を得れる事には、罪の意識が重責となっているけれど。今のボクにはやるしかないんだ

お慕いする、ルイ16世の為にも


そうしてボクは、街を静かに、歩幅を早めながら歩く

もともと街中をボクが歩くだけでも、人に畏れられてしまうから


・・・そして、ようやくボクの憩いのBARに辿り着いた

そこは誰も知らない、秘密のカフェBARで、一般の人は入れない

入れるのは、特殊な人物じゃなきゃ、入れない仕様になっている


ボクは、疲れた心が踊るのを感じながら、開店前の洒落たポーチに立つ

ボクはそこで、秘密の合い言葉を言う


「名誉ある死を 罪の香りには恍惚の薔薇を 我が抱くは永久の繁栄 我が罪を清めよ 

我が魂を持って祖国と愛に忠する事を誓う 自由と平和を・・黒猫のレディ」


多分、はたからみたら奇妙な光景なのだろうけど、別に不思議じゃないんだ


この頃でも、各国のスパイや、宗教戦争もまだ盛んで、密告をさける為に、国民や神官、貴族達でも色々な

秘密の派閥を持っていたから・・。その為に、絶対に誓いを裏切らない番兵が常駐して、合い言葉を選別し、

秘密の部屋に案内したりする。中には、禁止されてり悪魔儀式のミサをやったりね・・。


ただ、厄介なのは、ボクは小心者で、常に先を読んでしまう偏屈な人間だったから。

絶対の秘密を守る番人も、この店の名にあつらえて準備している。何故なら

貧しい階級の平民達は、僅かのお金で裏切ったり、利権で時には貴族さえ裏切り者がでるから、それを読んでの事だった


「ニャァ~ァァ」 


店の垣根の下から、黒猫がするりと出てきた



「やぁ、小さな黒猫レディ・・相変わらず綺麗で可愛い声だね。アンリだよ、元気してた?」



そういって、ボクは黒猫を柔らかく撫で回す



「ミャァァ~~ォ?」するとお返しに可愛くとぼけた猫撫で声で、ボクの懐に飛び込む



そう、世間では、不吉な黒猫と思われて迫害されるこの子が、このcafe、「黒猫レディ」の看板娘



「マスターはいるかい?今日は皆もいるのかな?今日はどっちから入れば良いのかな?」



そう、どっちからっていうのは、別にこの目の前にある店だけを指しているんじゃなく、

裏手にも、さびれた民家がある。元々はそこもBARだったらしいけど潰れて、今は見るに堪えない廃墟にしか見えない

だけど、そこから秘密のBARへの抜け道を、黒猫レディのマスターが隠してあるんだ

今目の前にあったBARは通常営業で使う・・そしてもう一つは・・・

ボクは黒猫のレディに案内されながら、廃墟に辺りを確認してから入る

複雑なやりとりだけど仕方ないのさ

何故ならボクにはもう一つの顔と、癒やしがそこにはあったから・・



黒猫の首輪から鍵を貰い、階下へ降りる

ある程度下ると、古びた看板があった

「Bloody Mary」

不謹慎だけど、多分ここに入るボクも含め、訪れる人や使用人も全て訳ありの人達だ

なんとなくここへくると、ちょっとだけ自分を忘れられる憩いの場だ

ボクは、少しだけ胸を高鳴らせて、秘密の楽園へと足を踏み入れたのだった

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偽救世主の断罪者~イミテーション・メサイア 手児奈 @tekonyas-tekona

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