第3話 「死刑広場にて」
寒い日だった
それはとても寒い日だった
今日も広場で群衆が集まり、誰かの首が切り落とされる
これが今のフランスのごくありきたりな日常だった
「おい、何か言い残す事はないか・・?」
「や、やめてくれ・・仕方なかったんだよ、なぁ・・おまえらだってわかるだろ?こんな事、やめてくれ」
「それが最後の言葉か?へへ、諦めろよ。腹が減ったからってパンや金を盗んだ罪人には変わりねぇ
おまえさんは、やっちゃいけない罪を犯しちまったんだ・・どうなっかはわかんだろ?・・へへ。」
そういって、役人らしき男は、乱暴に盗人と呼ばれたその男をギロチンに繋いで、唾を吐きかけた
「せいぜい派手に泣き叫んで死んでくれや・・ほら、よく見て見ろよ?観衆がこんなにもおまえの死を願って
やってるんだぜ?最後くらいは、いい見世物になって誰かの役に立って死ねばいいさ」
「くっ・・何故まじめに生きる者は搾取され続けなければいけないんだ・・裏切られ、我が子達にも
何もしてやれず・・すまん・・」 そういって男は声にならぬ嗚咽を吐いた
「チッ、うるせえ奴だ・・おい、処刑するぞ・・やれ!」
その時だった・・
「待って下さい」 低く声を発して、群衆の中から、手を上げる銀髪の青年がいた・・
その青年は、黒い服に身を包んでいた
「誰だ貴様!俺を誰だと思って意見して・・ひっ」
「すまないね・・少々心苦しくて・・僭越ながら、これから死に逝くその者に
私が替わって敬意を払いたいのだが・・私が引き継いでもいいかな・・」
途端に、その場の誰もが一時押し黙った
が、すぐその後にどよどよと騒めく
「おい、もしかして、あの服と髪色は」
「あぁ・・有名な貴族の処刑一家だぜ。恐ろしく腕の立つ断罪人・・おっかねぇ」
「殺した人間は千もいくって噂だぜ。悪魔すら殺したっていう伝説すらあるほどだ・・まさに、シャルルの悪魔」
「あれが・・黒の断罪者か・・若いわね」
「どんな死刑を魅せてくれるのかしら・・楽しみですわ」
群衆の民の中には、死刑は一種の見世物になっていたからか、貴族がお忍びで見物しにきていた
といっても、当時の民にとっても、極限の自分たちのストレスを晴らす為の見世物にも成り果てていたのだが
「サ、サンソン家が来るとは聞いていないぞ?どういう事だ」
「悪いね・・今日は非番だったのだが、これから死にいく者に、最高の死をせめて送りたくなったんだ」
「そうはいわれましても、今日は俺らの担当でして」
「頼めるかな・・・それとも、」
「「ボク」じゃ不服かな?」
「め、滅相も無い!?処刑人として名高い貴殿の様な方なら、むしろ光栄というもの・・クッ、それではこちらへ」
「オイッ良かったなぁ・・誉れ高い処刑人にやってもらえておまえも光栄だろう」
そういってその男は、眼下の罪人に嘲笑と侮蔑を込めた言葉を放つ
「死に誉れなど必要ないよ・・それに、このギロチンの刃も、元は綺麗に罪を穿つ為に、ボクが考案したもの」
「ねぇ、キミはどんな罪で此処にいるの?」
「あ、あんたは・・一体」
そう咎人が口を開く横にシャルルは跪き、耳元で誰にも聞こえぬ様な声で、何かを囁いた
その途端・・処刑されるであろう咎人は、最後にこういった
「ありがとう」
ーザンッー 重い重低音があっけなく落ちる
こうして、日常に潜む非日常の式は幕を閉じた
2「街中~」
シャルルは毅然とした振る舞いで血を洗い流し、広場の刑場を後にしていた
ギロチンにしてからか、血飛沫の後始末はだいぶ労力がかからなくなった
が、
「ふぅ・・」
溜め息をゆっくりと吐くシャルル
「黒の断罪者・・か。やはりボクは民達の中では、ただの異端の存在・・なんだかな」
そこでシャルルは感慨に耽る・・そう、かつてシャルルが皆と同じ様に、学校に通わせて貰っていた頃に遡る
「ボクはあまりおしゃべりが上手ではなくて、陰気な方だからもあったけど、この処刑人の家柄のせいで皆から嫌われていたん
だっけ・・それに慣れて強くなれるまで・・ぼくはずっと泣き虫だったからなぁ・・」
それに、今でも、家族の中でもボクだけが異端児扱い・・
まぁそうだよね・・罪を清めるために由緒ある誉れ高い王家から、類い希なる名誉ある仕事として
処刑人・・つまり断罪の任務を与えられた
なのに、今でもボクは、処刑に対しては否定の考えを持っているから
常にきっと、この言い難い感傷は、後悔としてボクを責め立てるんだろう
きっとそれも、断罪人が負わなければならない定め・・でも・・・それでもボクは・・
出来る事なら死刑はなくなって欲しいと願ってる
おかしいよね・・処刑人であればいいのに、裁く側のボクこそが、救われたがっている
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