第2話 「罪溢れる世界へようこそ」

そこは真っ赤な世界だった

空には不気味な生き血をすするコウモリと、血肉を喰らう真っ黒な鴉・・

まさに魔界とでも云うにふさわしい世界か


その中で、朽ちた塔があった


辺りは朽ちて残骸だらけで、とうの昔から見捨てられた廃塔だった

様子が伺われた

そんな場所に誰も来るはずはないだろう


何故ならその世界は、現実世界ではなく、異世界なのだ

その世界では古くから争いが絶えなかったのだから


隙を見せたら殺される・・そんな世界

そんな殺伐した今、その古の塔の門の前にある「少女」が居た



?「ここね・・ジョーカーが言ってた禁忌の塔・・」

少女は風にたなびく髪を手で押さえながら言った



?「本当にここに、何でも願いを叶える竜の力が眠っているというのかしら?でも、王都やギルドを再建するにはデマだとしても、

 ここしかもぅ頼れない・・」


?「やるしかないんだ・・取り戻さなきゃ・・私の名前を・・」


この世界では下位の者には、名前など必要ない 

何しろこの世界では強者、つまりこの世界に君臨する「王」達のルールは

絶対で魔物も魔虫も闊歩する、力や権力が全てな世界だからだ


元々は、各国の王都を苦しめて魔物達も、人間で名前もあったらしい

だが、人間を辞め、堕落し、契約し、交わり、魔物や魔虫に堕ちた人間には、もはや人の時の名など必要ない


あるとしてもそれは、魔虫や魔物達を分類した時に名付けられた名だけ・・

だけど・・私は・・。


名前を失った「私」には、何も出来る事が無い・・


少女は、決意を秘めて、一歩を踏み出した


重い、錆びた音で、塔の扉がゆっくりと開かれる


?「・・んっ?なんだろう・・この空気・・」

なんだか入った瞬間、誰かの優しさに包まれた気がしたのだ


奥へと歩いてみる

何故だろう?幾千年と経過したかに見える塔なのに、中の空気はひどく澄んでいた


奥の広場へ出た

その広場はやっぱりそれなりに広くて、でも、ところどころ、大規模な闘いがあったんだろう・・酷く廃れて穴が開いていた


少し広場の広さや周りの景色に気を取られている時、階上から視線を感じてそれを見やるが、耳を立てても暫く待っても

気配は無い・・少女はゴクリと唾を飲み、階上に続く螺旋階段を上ろうとしたときだった


?「・・ん?・・ここは・・もしかして」


少女は魔力を持っていないが、天性の「本質を見抜く瞳」を持っていた

試しに、そのなけなしの自分の力に頼ってみる

すると、壊れた残骸のはるか向こうに、何か大きな温かい光が見える


ただ・・


?「駄目ね。・・今の私じゃ、奥に何があるかまで見えない・・本当にここに、竜の力なんて眠ってるのかしら・・」


?「ジョーカー(道化)にいっぱいくわされたかも・・はぁ・・なけなしの対価を払ったのに・・って・・」


?「うぐぅっ!?・・」 


その時だった。少女の頭の中に、光が襲った

脳裏に次々と不確かな映像が逆流してくる


?「目覚めよ・・・」


?「な、なに・・っ、これ?」 これは・・もしかして、さっき見た、神殿の奥の部屋?それに・・これは


?「・・・強さとはなんだ?・・かのものよ・・何の力を欲す・・」


?「私は・・」


?「今は名も無き少女よ・・我と願わくば、契約せしか・・?我が望み叶えたるや、力を与えたらん・・欲するか・・?」


?「力・・?怖い力なんて、もういらない・・私が願うのは・・誰かを守れる力」


?「我は大いなる破壊の力を秘めし、古の竜たらん・・願うは破壊の力よ・・契約不履行・・悲しみの間に、又浸ろう」


?「待って!・・アナタの記憶が、私の中に流れ込んできたの・・アナタは私に似てる・・全てを奪われ、理不尽な迫害を受けた者・・」


?「人の情けなどいらぬ・・最後の力も、もはやこれで尽きるだろう・・力を欲さぬ か弱き人間は去れ!」


?「そうね・・確かに私は弱いけど・・でもあなたも同じよ・・好きな人を守れなかった落ちこぼれ」


?「・・我を愚弄するか娘・・」


?「違うわ・・私も同じ・・だから・・やりなおしたいの・・自分の全てを」


?「・・・・ほぅ・・主の記憶・・面白い。フハハハハ、慟哭せし血塗られた人生よ・・何が望みかあいわかった」


?「・・ただし、今は名を無くした少女よ・・名も無き者とは残念ながら契約はできぬ・・」


?「・・そんな・・ここまで来ても・・誰も私は救えない・・助けてくれないの?」


?「名前には生きた魔力が詰まっている・・契約には必須だ・・だが」


竜「名も無き主よ・・我が願いの成就、並びにお主の名の代わりに、命を差し出せ」


?「いいわ・・私の命なんていらない・・私の願いを叶えるのなら、どんな犠牲もいとわない!」


竜「フハハハ流石!罪に彩られた人間の正に業・・宿命よな・・少女よ。それこそ竜を従わす王者の娘にふさわしい」


竜「面白い事を思いついた・・我を呼び起こしても、もはやこのまま契約を結ばねば我も滅びるだけ」


竜「おまえはどんな犠牲も厭わぬといったな?ならば代償代価の呪で、契約を果たさん」


?「代償代価?・・それは」


竜「その名の通り・・主の身体全てに我が魔力は収まらん・・そして、名の魔力も無くしたならさもあらん」


竜「ならば、魔力の半分と、お主にとって、一番の手痛い代償を貰わねばならぬ・・わかるな?」


?「ま、、まさか」


竜「古の破壊の力・・契約せしか?少女よ」


?「待って!・・あぁ・意識が・・竜の身体も消え・・」


竜「時間は有限なのだ・・・契約せしか?」


?「わかったわ・・・その条件を飲むから・・私に力を頂戴」


竜「よくぞ誇り高き契約をここに示した!・・汝の命、全魔力・・想い、そして対価を持って、新生な王の位を今此処に契約の証として

 捧げ給わん」


竜「さぁ・・処女の血を!」


?「なっ!・・なんでそこまで知ってんの!・・声大きい・・もぅ、エロ禁止」


そう言って、少女は

自分の太もも・・陰部になるべく近い場所の皮膚をナイフで切る・・

魔力の無い少女はわかっていたのだ


通常の手首や他の部位よりも、魔力の高い、そして汚れた魔力と、破瓜をしていない純潔の場所に近い場所から

の血であればあるほど、魔力の還元率や、契約時の交換には打って付けな事に・・

ただ・・少女はさすがに古のドラゴンが相手でも、

自分の秘部を切るのは嫌だ!


切るのに少々手間取ったが・・思いの外深く腿(もも)の肉を

切ってしまった


ごぷっ・・と短い音がたった気がして、魔力に魅入られた鮮やかな血が、地面にしたたり落ちる


見ると、自分の足下には、変わった見たことも無い魔方陣が形成されていた

と、突如、塔が地震を起こす


竜「契約完了だ・・最後におまえの記憶を貰う・・新生として主よおまえは生まれ変わるのだからな」



?「契約・・本当に完了するの?・・・記憶まで無くしちゃうんだ」


竜「当然だ・・名前も全てを失った魔力の対価だ・・避けられぬ・・・最後に、少女よ」


?「何?」


竜「理として、我が眉間に誓いの剣を打ち立てよ・・それにてこの契約は完了する」


竜「我は元々は竜では無い醜い怪物だ・・誰も我を救ってはくれない醜い化け物だった・・だが、最後は華々しく散りたい」


?「わかったわ・・それしか・・方法がないのだものね?」


竜「あぁ・・・助かる・・清らかで、地獄の炎に運命を魅入られた姫よ・・さらばだ」

そういって竜は目を閉じる


?「ありがとう・・記憶を失っても・・私も、アナタが護りたかった人も、きっとアナタを忘れたりなんかしない・・」

そういって、振りかぶった、魔力を秘めた短刀で竜の額を割った


ーーーーーーーー声にならない、死の咆哮が空へ還るーーーーー


そして、竜は姿を醜い化け物へと姿を変え、絶命していく・・その刹那


少女「ありがとう・・・誇りある竜よ・・安らかにお休みなさい」

そういって、醜くなった顔に、優しいキスを少女は施した


竜「おぉ・・・おぉ・・・懐かしい・・・礼をいう・・有難う・・少女(とも)よ」

そういって、最後には救われたかの様に、その名も無き伝説の怪物の姿は、少女の前から消え去った


ーー契約ーーー完了ーーーー「YOU Are KING」


魔方陣は消え、又地鳴りが起きる・・・塔が割れんばかりのその地震の中、塔のはるか最上階へと続く螺旋階段が

綺麗な虹色の光に包まれる


そして、遙か上の方で、大規模な魔方陣が展開していた・・。


少女は彼方上の階段へ向かおうと手を伸ばすが、自分の視界ごと光に包まれ・・頭の中が、記憶が光の中に温かく溶けていく

感触を覚えて、虹の階段の手摺りに身体がぶつかる・・


少女「あぁ・・これで契約完了して・・弱い自分は死ねるんだ・・」


少女「上の光・・一体何が・・あぁそうか・・「代償」だ・・ようやく、私の代わりの救世主がやって来る」


ー救世主様・・・どうか私を・・・この世界の未来を・・守ってー

少女の願いはあっという間に光に包まれて、気が遠くなるのを感じた・・。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る