第2話 素晴らしい薬
小さな研究所で、博士は新たに作り出した薬の実験をしていた。
博士のそばには様々な動物の入ったケージがあり、少し離れたところには積み木のブロックや、オモチャのミニカー、広告のチラシなどが散らばっている。
博士は机の上にあるビンをとり、入った水色の液体をゴクリと一口飲むと、にわとりの入ったケージを開け、ケージの外ににわとりを出した。
「さぁ、広告のチラシをとってきておくれ」
にわとりはあたりを見回し、少し離れたところにある広告のチラシを見つけてとってきてみせた。
「よしよし、次はキミの番だ」
博士は先ほど同じようにネズミの入ったケージを開け、ネズミをケージの外に出した。
「積み木のブロックをここまで運んでおくれ」
博士の言葉に反応したネズミは、積み木のブロックを見つけると、その一つを押して博士のもとへ運んできた。
「ようやくうまくいったぞ。体への副作用も出ていないようだし、実験は成功だ。」
博士が満足そうに、にわとりとネズミをケージに戻そうとしたその時、研究室に忍び込んでいた男が、博士の首筋に冷たい刃物を突き付けた。
「おっと、動かないでくださいよ。もちろん、大声を出すのもいけません」
「これは物騒だな。いったい私に何の用だ?」
「おれはしがない泥棒でしてね。金目の物がないかと忍び込んでみれば大当たりだ。博士は素晴らしい薬を開発なさったようだ」
「この薬はまだ改良の余地あるのだ。やめておいた方がいい」
「ウソをつかなくてもいいですよ。おれも先ほどの実験を見ていましたからね」
泥棒は博士が机の上に置いていた薬のビンを素早く奪うと、あっという間に飲み干してしまった。
「これで博士はおれの命令に歯向かえなくなったはずだ。さぁ博士、しばらく黙ったまま、そこから一歩も動かないでください」
泥棒の声をきいた博士は口をつむぎ、その場に硬直した。
「やはり薬の効果は本物じゃあないか。よし、次はもっと大きな仕事をするぞ」
そう言い残して泥棒は研究所を立ち去って行った。
それから数時間後、今度は警察が博士の研究所へとやってきた。
「数時間前に街の銀行で強盗が捕まりましてね。銀行に入る前に、博士の研究所でも強盗を働いたようで、お話を伺いにきました」
「ご苦労様です。それでは何を話せばよいでしょうか」
「妙な強盗でしてね。大きな袋を持ち込んできたかと思うと、銀行にある金をありったけ袋につめろ、と窓口の女性に話しかけたそうでして」
「なるほど、その後はどうなりましたか?」
「窓口の女性も、最初は何かの冗談かと思ったそうですが、あまりにもしつこく同じ話をするので、銀行強盗として通報したようです」
警官は手帳にあるメモを見ながら説明を続けた。
「そして、銀行強盗に入る前に、博士の研究所で薬を飲んだと自供しましてね。それが何だったのかをお伺いにきました。もちろん、被害状況の確認も兼ねてです」
「そうでしたか。確かに彼は私が発明した薬を飲みました」
「いったいどんな薬だったのですか?」
「話した人の言葉を理解させる薬です。様々な動物と言葉でコミュニケーションが取れる夢のような薬ですが、同じ言葉を話す人間には当然効果はありません」
博士は泥棒の言動から、薬の効果を勘違いしていることに気付き、泥棒の命令通りに行動することで、勘違いをそのまま信じこませたのだ。
結果、泥棒は薬の効果を誤認したまま銀行強盗にいき、そして捕まったのだろう。
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