ショートなストーリー

餅月黒兎

第1話 夢のようなゲーム

「子供にゲーム機を買い与えてから毎日遊んでばかり……勉強や苦手なことは全然やらなくなって困っているんです」


 小さな研究所に押しかけてきた隣の奥さんが愚痴を始める。


 ここの研究所は小さいが、天才的な博士が住んでいた。この奥さんも博士に悩みを打ち明けることで、博士に何とかしてもらおうという魂胆だった。


「……なるほど。何とかなるかもしれない。やってみましょう」


 と、博士は何やら思いついたように机の上に機械のパーツを並べた。


「完成したらお渡しします。これを使えばすぐに悩みはなくなるでしょう」


 数日後、隣の奥さんの家へ博士が訪ねてきた。


「こんにちは奥さん。約束の品を持ってきましたよ」


 奥さんは手渡された発明品をジロジロと見ながら聞いた。


「これは……ゲーム機ですか? ゲームをやめさせたいと言うのに、ゲームをさせるおつもり?」


「大丈夫。これは夢のようなゲーム機ですよ。きっと悩みを解決してくれます」


 博士は自信たっぷりに言うと研究所へと戻っていった。


「子供は喜ぶかもしれないけれど……大丈夫かしら」


 奥さんも手渡された発明品を片手に部屋へと戻った。しかし二週間程経つ頃、カンカンに怒った奥さんが発明品を持って博士につきかえしに来た。


「何が夢のようなゲーム機ですか。確かに子供は夢中になって遊びましたが、ゲームをする時間は全然減りません。私に失敗作を渡したのですね?」


「いいえ、そんなことはありません。きっと悩みは解決しているはずです」


 無言でにらみ返してくる奥さんへ向けて博士は話を続けた。


「ところで……今日は学校で算数の小テストがあったそうですね」


「ええ、うちの子供も算数の小テストの結果を持って帰ってきましたわ」


「以前、算数が苦手とお伺いしましたが……失礼ながら点数はいかがでしたか?」


「それが不思議なことに、そこまで悪い点ではありませんでした」


 その結果を聞くと、博士はうれしそうにうなずいた。


「やはり発明品は正常に動いていたようです」


「言っている意味がわかりません。いったいどういうことなんです?」


 博士の言葉を理解できない奥さんに向けて、博士は微笑みながら言った。


「あの発明品は、ゲームを通じて勉強ができるようになるのです。このゲームで遊べば遊ぶほど勉強をしていることになるので、奥さんの悩みも解決しているのです」


「なるほど、ゲームが勉強になっているなんて。これは素晴らしい発明品だわ。それならば、もうしばらくの間お借りしていてもよろしいかしら?」


「ええ、どうぞ」


 奥さんはよろこんで発明品を大事に持って家へと帰っていった。


 博士は奥さんが家に入ったのを確認すると、誰のもいない部屋の中で声を上げた。


「もう出てきて大丈夫ですよ」


 博士の声を合図に隣の部屋から出てきたのは奥さんの子供だった。


「ありがとう博士。こんなに上手くいくとは思わなかったよ」


「なあに、私は大したことはしていませんよ」


「ママより先に、博士に相談にきてよかった。これで安心してゲームをずっと遊べるよ」


 博士は奥さんより先に、子供からの相談を受けていた。


 相談を受けた博士は、「勉強のできるゲーム機」を発明したように見せかけ、子供が小テストの結果を少しだけ良くする事で、奥さんにゲーム機の性能を信じこませたのだ。

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