物語の終末或いは、始まり?

「被告人、Dr.ウランを無罪とする」


 特例で行われた最高裁判にて、裁判長が驚愕の判決を下した。

 普通ならば有り得ない。むしろ、今すぐ死刑を執行しても許されるほどの大罪を犯してきている。証拠も証人も十分であり、明らかに無罪はおかしい。


「魔術の反応がない……!?スズさん、放射線は?」

「ううん。何かをしているわけじゃない…」


 裁判長は正気だ。魔術も機械も封じられた裁判所内では、Dr.ウラン無力のはずであり、洗脳系の魔術を使った訳では無いだろう。


「まだ、判決よ読み上げ途中である。静粛に……。」

「ちょっと待ってください。先日のカザ・フォーリア氏殺人事件や悪魔召喚までしているんですよ!?無罪なんて…」

「これは、超法規的措置であり、国防省からの特例である。今後、彼の研究の管理を国家単位で行うことで、実刑とする。」


 それは、彼の功績を認めるということ。Dr.ウランのしてきた悪事を揉み消すことに等しい。


「なら、お父さんとお母さんを殺したことは!?それだけじゃない、たくさんの人を傷つけてきた!!」

「それについては、レンド・マギカとシルヴァ・マギカがDr.ウランの殺害を企み、反撃を受けたと見ている。現場の状況からして、そう判断出来るだろう。」


 一番端の男が言った。それに肯定するように一堂が頷いたかと思うと、逆端に座った女が手を挙げる。


「彼が診療した患者達は、彼がにも失敗してしまったということですよね。どんな医者にも失敗は有り得る。」

「うむ、そのとおり。ユーリ君、理解出来るだろう?兄弟子亡き今、真に守るべき者が誰かわからない訳では無いだろう?」


 真っ黒の司法服を羽織った男女が一斉にスズの目を見つめる。ユーリが言葉を間違えれば、彼女は死ぬ。


「……わかりました。国の為に…」


 Dr.ウランは国に匿われ、ユーリは別な任務へと当たることになった。簡単に言えば、左遷である。

 スズ・マギカは孤児となり、市民権を得ていないため日本国に居住出来ない。特例で元々もいたマードレ王国へと送還されることになったが、口封じを兼ねていることは言うまでもない。


「まもなく、ペガサス便出発です!!」

「行け、スズ・マギカ」


 髭を生やした男が、スズの荷物をほおり投げて馬車の中へと投げ込む。背中に翼の生えた馬の上には飄々とした表情の男が乗っている。彼が御者のようだ。


 馬車の中には、長身で鍔の広い帽子を被った女と、単なる荷物にしては大きすぎるバッグ。業者からほど近いところにはアノニマスマスクを嵌めた不気味な男が座っていた。


 忌々しげに馬車を睨んだかと思うと、髭面の男は逃げるようにどこかへ走り去って行く。

 スズが座る場所に悩んでいると、不気味な男は手招きをする。一瞬悩むと御者が彼の隣の席を手で指し示した。


「隣、失礼します。」

「ああ、構わない」


 ペガサスが飛び立ち日本を飛び出す。

 1年経たぬほどしか住んでいない土地ではあるが、それなりに思い出深い場所であり、えも言えぬ涙が溢れてきた。

 両親の死体もDr.ウランが持って行ったようでユーリ曰く見つからなかったらしい。本人や国に問いつめてみたが、のらりくらりと躱すばかりでまともに取り合ってくれなかった。


 空をかけて行くとあっという間にマードレ王国の制空権までやってきた。何となく眺めていた帽子女の荷物がモゾモゾと動き始める。


「ん?」

「そろそろ、いいか?」


 いつの間にか御者が馬車の中に入ってきており、ペガサスの背には彼を模した人形が乗せられている。


人造人間ホムンクルス!?」

「その通り、よくわかったなスズ。」


 間違えるはずがない。

 その傲慢な声は、どことなく愛情に満ちた口調は、まさしく、Dr.マギカことレンド・マギカだった。


 隣の男も仮面を外しており、その顔は大好きな母の姿がある。鉄仮面と同じような魔道具アーティファクトのようであり、性別までも変えてしまうようだ。


 ここまで来ると、帽子女の正体も分かり始めてくる。


「スズちゃん。無事でよかったわ!!」

「こんな方法を取ってしまってすみません。」


 帽子を脱いだファスと彼女のバックの中から顔だけを出したリチである。


「ごめんな、スズ。Dr.ウランは国の中枢まで入り込んでいたからな。俺たちが死なない限り追ってくるだろうと思って、死んだふりをしたんだ。」

「ごめんなさいね。寂しい思いをさせてしまったわ。」


 シルヴァに抱きしめられる。骨が軋むほど、痛みを感じるほど強く抱きしめられたが、それでも足りないと思うほど、強く強く、抱きしめ返す。


「言ったろ、魔術と機械に不可能はない。俺とシルヴァが組めばどんな奴が相手だろうが勝てるさ。」

「もう、離れ離れにならない?」

「当たり前だ。」


「もう、私の事置いていかない?」

「一生そばに居る」

「お母さんも?」

「ええ、もちろん」

「ファスも?」

「当たり前じゃない」

「リチも?」

「はい、迷惑かけてしまうかもしれないですけどね。」


 寂しさでは流せなかった涙が、滝のように溢れて止まらなくなる。


「さぁ、次の患者を診にいこう。俺たちは医者だからな。」


 花のような笑顔の少女が、空を駆けていった。


……TheEND

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天才魔術師と冷酷科学者が娘と暮らす話 平光翠 @hiramitumidori

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