矜持!!医者と患者のプライド

 電気というのは、シルヴァにとって最後の砦なのだ。

 魔力を持たない彼女がレンドと添い遂げるには、彼に匹敵する技術が必要だった。無論、レンドはそんなことを気にするような男ではない。それでも、レンドの隣にふさわしいのは、科学者であるシルヴァだ。

 世界一を誇る電気技術を持ち、ありとあらゆる機械を発明する。天才発明家。


「私が、一番じゃなくなったら、アイツは一緒に落ちてくるような奴なのよ。だから絶対ブレちゃいけないの。失敗を失敗とも思わないような奴に負けてられないわよ!!」

「立ち上がるか…。放射線量はとっくに致死レベルなんだがな。」


 パワードスーツを咄嗟に改造して、彼女の体をむしばむ前に放射線を分解しているのだ。当然、機械には相当の負荷がかかっており、いつぶっ壊れてしまってもおかしくはない。

 さらにいえば、放射線は簡単に分解できるようなものではなく、あくまでシルヴァと彼女の後ろにいるスズの体内に届かないようにしているだけであり、空中の放射線濃度は変わっていない。


 すでに球体が織り成す電気柵は破壊されている。これ以上どんな機械を操作してもウランの力で壊されてしまうだろう。


「終わりにしよう。」


 Dr.ウランの持つ石が一層強く光り輝き高圧のエネルギーが圧縮され始めた。


「死ね。人類の幸福のために。」

「ダメェェェ!!!!」


 シルヴァの光線を真似るように石から圧縮されたかエネルギーの熱光線が放たれる。しかし、寸前でスズが叫んだことにより照準が狂って明後日の方向へと飛んでいった。


「なんだそのガキは!?」

「あらあら、ずいぶん特徴が崩れているわよ?」


 Dr.ウラン自身の視界を塞いでしまうようなまばゆい光のせいで、高速移動して背後に回っているシルヴァに気づくのが遅れた。慌てて放射線を操りシルヴァのタイ組織を破壊するも一歩及ばなかった。

 右腕のパワードスーツが崩壊し、青黒くなった細腕があらわになるも、躊躇いなく拳を振りかぶった。


 情けない悲鳴と共に思い切り後ろへと吹き飛ぶ。思わず、輝くウランを手放してしまった。


「あ、ぼ、僕の奇跡の象徴が…。」

「こんなくだらない力が奇跡だと?わらわせるな。俺の魔術の方がよっぽど奇跡的だ。」


 転がる石ころを踏み潰して現れたのは、Dr.マギカだった。


「クロムの反応がないから来てみれば、なんだコレは?つまり、お前が敵ということでいいんだな?お前を叩きつぶせば、患者が救われるってことだよな!?」

「Dr.マギカ…!!」


 現れた男は、薄汚れた白衣を身にまとい、傲岸な目つきと苛立ったような口元を隠すことも無く、跡形もなくなった家の惨状を眺めていた。

 傷だらけのシルヴァと、みじんも動かないゴルディア、胴体を失って吐き捨てられているクロムを見て、大体の状況を理解したようで、一瞬で魔術を編み上げて倒れている男に振りかざした。


「お前がやったことは非常によくない。いくら失敗を積み重ねていても許されないことだ。俺は患者のためなら平気で人殺しができるというのは良く知っているだろう?散々嗅ぎまわってくれたんだからな。つまりだ。一応言っておくと、お前を殺すのに罪悪感は抱かない。」


 続けざまに火炎の魔術。火だるまになって庭を転げまわるDr.ウランを見下ろす。逃げるためか、はたまた反撃か。Dr.マギカに伸ばされた腕は地面から生えた針によって穿たれる。


「こんなトラップを造っていたのか、シルヴァ…。」

「あなたの検知魔術でもわからなかったでしょ?」


 さらに空中から見えない杭が打ち込まれDr.ウランの体が串刺しになる。魔術で治そうにも放射能レディエイション症候群シンドロームが邪魔をして魔術を発動させられないのだ。

 それだけではない。魔術の天才、Dr.マギカを前にして誰が正確に魔術を扱えるというのだろうか。


「魔術が反応しないことがそんなに不思議か?奇跡の力なんて簡単になくなるに決まっているだろう。」

「どうして、邪魔をする。僕の研究が進めば、全人類が幸福になるんだぞ!!」


 魔術師はウランの力でより強力な魔術が扱えるようになる。科学者はエネルギー問題を解決し、どれだけ出力の高い機械でも操作できるようになるだろう。宇宙も深海も、今まで以上に研究が進み、魔術も化学もより良い発展が起きることは目に見えている。


 それでも彼らが止めるのは…


「その裏で誰かが泣くのなら、その石の力がお前の奇病によって成り立っているのなら、俺たちは認めない。いくら都合のいい病でも、病気は病気だ。それを治すのが医者の仕事だ。」


 自分勝手と言えばそれまでだろう。だが、事実、Dr.ウランは今までまともに魔術を使ったことがない。魔術としての才能が決して高いとは言えないが、魅せるだけ魅せられて、呆気なく奪われるなんて耐えがたいことだった。


「ダメだダメだダメだ!!人類は幸福になる義務がある。生物はその先へと昇華しなくてはならない!!」

「分かり合えないというのならそれでも構わないさ。お前を治すだけだ。」

「私たちは医者よ。相手が病である限り、立ち向かってやるわ。」


 スズの前に立ちふさがる偉大な二人の医者を、彼女はただ尊敬のまなざしで見ていた。

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