反撃!!謎の石の種明かし

 破損したゴルディアに近づき、中身を分解する。メモリや中央制御装置など、コアとなる部分が無事であればいくらでも復元できるのだ。しかし、ゴルディアに使用しているパーツは超高圧の電流に耐えられるように設計しているわけではない。


「お母さん…。」

「復元は…出来ないわね。」


 焼けこげた部品を見てゴルディアの完全な死を悟った。単なる雷撃ではなく、太陽光を集めることで発電と発熱を同時に行った特別な雷を放射したのだ。いくらシルヴァであっても直撃すればただでは済まないだろう。


「こうやって失敗を利用するしかない…。まったくもっていやになるよ……。」

「うるさいわね。何が失敗よ。アンタはこのDr.シンスが必ず叩き潰すわ!!」


 Dr.ウランに向けた指先から灼熱の光線が放たれる。さっきの雷ではなく単なる熱を帯びた球体であるため、絶縁魔術で防ぐことは出来ない。

 地面に触れた瞬間、マグマが噴き出したかのように地面が溶けた。


「うらやましいよ。そうやって何もかもを成功させてしまうのだから。」

「当たり前よ。私たちは失敗しちゃいけないの。患者の命がかかってるんだから!!」


 パワードスーツの背面からロケットのように無数の球体が放たれる。一つ一つは子供の握りこぶし程度の大きさであるが、ゴルディアの遺志を継ぐようにその場で浮かんでいた。

 それぞれの距離が着いたり離れたりするたびに、パチリパチリと音が鳴る。


「『静電気』って知ってるかしら?電荷をもった物体同士が擦り合わさることで生じる微量の電気のことを指すのだけれど。まぁ、喰らってみれば早いかしら?」

「電気なら絶縁すればいいだけだ。今度はお前の娘に流し込んでやる!!」


「それはどうかしら」と不敵に笑うと、球体と彼女の指先が一瞬触れあう。両者に流れた電気が逃げ出そうと球体の中で暴れまわり、また別な球体へと伝わった。

 瞬く間に球体から球体へと流れる電気は、中心に佇むDr.ウランを閉じ込める。


「天然の電気柵よ。」


 吸収と放電を繰り返しており、たとえ絶縁魔術によって電気の流れを変えられても、奪われた電荷を球体が奪い返すために電気の柵は終わらない。そして、真の狙いは閉じ込めることだけではなかった。


「あ、熱い!!」

「一つの球体が放電と蓄電を繰り返しているからね。当然熱がこもるわよ。」


 逃げ出そうにもゆらゆらと揺れる球体に近づけば、それだけで火傷してしまいそうな高熱だ。


「絶対に逃がさないわよ。アンタはここで止める!!」


 パワードスーツの腕に備え付けられたパネルを操作して、はるか天高く『宇宙』に存在している衛星の座標をDr.ウランの頭上に合せた。


「スズ、いいこと教えてあげる。お母さんが戦わないのはね、お父さんに花を持たせるって意味もあるけど、それ以上にやりすぎちゃうのよ。」


 可愛らしくクスリと笑って、腕のボタンを押した。

 天から降り注ぐ裁きともいえるレーザービームが閉じ込められたDr.ウランめがけて照射される。ただの熱光線などではなく、存在そのものを消し飛ばしてしまうようなビームである。


 普通なら確実に仕留めたという状況でありながら、Dr.シンスの表情は硬いままだった。目が眩むような光線の中で、その男は悠然と立っていたからだ。


「あり得ない。どんな手品を使ったというの…?」


 魔術では観測できていない宇宙という領域から降り注ぐ光線を、どうやって回避できるというのだろうか?


「……この鉱石は、『放射線』という特殊な電磁波のようなものを放出する。僕の名前からとってウランと名付けたよ。そして、これが。」


 それは、シルヴァとレンドが長らく追い求めてきた、科学と魔術の融合であり、その最終到着点とも呼ぶべきものだった。ただの石ころと侮るなかれ。高圧に圧縮された魔力は生物の組織にゆがみを与え、崩壊の象徴ともいえる『核分裂』を引き起こす。


「僕は生まれつき、放射線を自在に操ることができる。そのかわりに、魔術も、科学も、何もかもが失敗してしまう。奇病『放射能レディエイション症候群シンドローム』を患っているんだ。」


 シルヴァですら聞いたことのない病気。それもそのはず、無薬無毒病と同じで、Dr.ウランただ一人のみがこの病気を患っているのだ。


「この鉱石のエネルギーは莫大だ。人間が扱える魔力なんかよりよほど純度の高いエネルギーを有している。ウランの力があれば科学の犠牲も、魔術から零れ落ちる人間もいなくなる。全人類、いや、全生物が幸福へと駆け上れる!!」


 彼の言う通り、ウランが持つエネルギーは強力であり、クロム、シルヴァという連戦でありながら、怪しげな発光は弱まる兆しを見せず、絶えず光り輝いたままである。

 シルヴァに隠れて進めていた発電所計画は、Dr.ウランが暗躍しており、そのカギとなるのは彼の持つ新鉱石『ウラニウム』だった。


「たしかに、それだけのエネルギーがあれば、増え続ける電力消費も解消できるわね。魔術一強と言われた時代も終わるかもしれないわ。」


 だが、彼女の脳内を支配するのは、総合病院での惨状だ。

 ウランが放出するエネルギーに耐えきれず、体内の組織が崩壊したのだろう。それはきっと、Dr.ウランの意図しない結果であったのかもしれない。だが、到底許されることではない。


「悪いけど、電気で負けるわけにはいかないのよ!!」

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