不審!?黒猫VS魔術師
「どんな手を使って俺の魔術を防いだ!?答えろ!!」
クロムはあくまで使い魔であるが、魔力量や扱う魔術などを総合的に判断して、波の魔術師たちと比較したとき、数段上に位置している。Dr.マギカの使い魔である以上当然のことであるが…。
つまり、彼の魔術を無力化できるというのは並大抵の魔術師では不可能なことであり、魔術師になったばかりでは、たとえ偶然にしても不可能だろう。あくまで魔術は起きうる奇跡を起こす程度でしかなく、世界の断りを根本から覆すようなことはできない。
「たとえお前がどれだけすごい魔術師だとしても、そんな簡単に俺の言霊を破れるわけがないんだよ。どんなトリックを使った?ただの魔術封じじゃねえだろう…?」
「わからないなら、わからないでいいよ。どうせ誰も理解してくれないから。」
フードの下で馬鹿にしたような笑い声が響く。普通ならくぐもって聞き取りにくいはずだが、何らかの魔術によって拡声しているらしい。
「不気味だ。あれだけ魔術を連発しといて、得意魔術がわからねえ。むしろヘタクソすぎる。」
魔術師だけではないが、たいてい人には得手不得手というものがある。植物などの生命操作に長けているファスは、レンドが好んで使う大量の魔術媒体を利用する儀式魔術や、反対に自信の魔力と魔術紙だけで詠唱する瞬間魔術が苦手だ。だが、植物を媒体とさせた変化魔術で彼女の右に出る者はいない。
少し話は脱線するが、シルヴァは機械工学や電気技術に精通しているが、自然科学や化学、生物学には疎い。たいして、薬の効かない薬屋こと、リチ・ドルグは脳科学や生理学といった分野にめっぽう強いのだ。
そういった得意分野の偏りは化け猫であるクロムも抱えている。空中を素早くかけたり、身体能力を強化したり、亜空間に自分の体を転送して疑似瞬間移動を行ったりと、機動力に優れた魔術をよく使っている。というのは、レンドからの命令や患者運びなどを任されるため自然と得意になったのだ。
その魔術師の得意とする魔術を見破れれば、ある程度の思考パターンを予測して動くことができるが、ほとんどの攻撃を不発、もしくは見当違いの方向に放っている姿を見ると、得意とする魔術が見受けられないのだ。
「クソ戦いにくいな。構造が単純だから、魔術を吸収できるのはありがてぇが…。」
使い魔の弱点は、人間と違って大量の魔力を持てないことだ。体の大きさや身体に流れる血液量の多さは、大量の魔力に直結する。規格外に大きな
しかし、フードの男が放つ魔術はどれもこれも出来損ないであり、魔術の打消しを防ぐために掛けるプロテクトがあまりにも単純なのだ。魔力の塊である魔術は、しっかり吸収出来れるなら、使い魔にとって最高のご馳走ともいえる。
一度吸収してしまえば、その魔力はクロムのものとなり、トラップとすることもできないだろう。フード男には根本的に魔術師としての才能がなかった。
「猫牙の魔術。代償は我が魔力、我が牙、我が体毛。願いは一つ、とびかかれ!!」
不可視の真空波が男のローブを切り裂き、かすかにうめき声をあげた。血が染み出すローブからは細い腕が見え隠れしており、声音とは裏腹に女のようだ。
さらに続けて裂傷は放たれ、彼の背後から襲来してふくらはぎに深い切り傷を付けた。
衝撃と痛みにもだえ苦しむ中で、ダメ押しとばかりに火の粉が舞い散る。不審者を生け捕りにしようと手を抜いていたが、Dr.マギカなら死なない限り治せると楽観視して全力で叩き潰すつもりだった。
「せいぜい死ぬなよ。それとも降参しておとなしく捕まるか?」
異質で不気味な魔力からDr.ウランではないかとにらんでおり、絶対に逃がさないためにと万全を尽くしている。もし万が一利用されただけの底辺魔術師だったとしても、傷を治して魔術の手ほどきでもしてやれば気が済むだろうと思っているのだ。
「あーあ。Dr.マギカは使い魔も強いのか…。それって、とっても
おかしな声で笑い出したかと思うと、ローブの下から奇妙な色合いの石を取り出した。くすんだ茶色の石くれでありながら、薄緑色に発光している。倒れた姿勢のまま天高くかざしたかと思うと、太陽の光を受けて一層濃い緑色へと反射して思わず目が眩んだ。
「いまさら何をするつもりだ!!」
クロムは男の頭上に魔術を編み込むと、肥大化して投影した自身の腕によって石くれごと抑え込んだ。ように思われた……。
魔術によって作り出した前足は、ガラス細工を叩いたかのように結晶となって崩れていき、壊れた魔術の中心で襟もとをただした男が立っている。魔術を無効化ではなく、結晶のように破壊するだなんて聞いたことがない。
「言霊の時と同じってわけか…?」
「そうだよ。やっぱりDr.マギカの使い魔だけあって賢いね。」
穏やかな表情であり、口元は笑っている。しかし、フードから見える目元は完全にクロムを見下しており、同じ人間の顔つきとは思えない。
「お前、Dr.ウランの知り合いかとも思ったが、全然ちげーな。あいつのことを知っている奴は、白衣と来ているとき以外は『レンド』って呼ぶんだよ。残念だな。お前、あいつの眼中にないみたいだぜ?」
「その程度の強がりで何ができる?」
思い切り蹴り上げられ、軽い体躯はサッカーボールのようにはねて吹っ飛んでいく。少し煽っただけで激昂し、こうして逃げるためのスキができた。
痛む体に無理を通しながら亜空間を突き進みレンドのもとへと向かう。
しかし、あの謎の石の力によって魔術が破壊され亜空間から引きずり出された。いくつもの魔術を詠唱するものの全て石によって破壊される。対して、Dr.ウランの魔術は壊れないところを見ると、ただの魔道具ではなさそうだ。
「
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