蛇足、というか別枠?スズ・マギカの日常

 クロムの鳴き声に目を覚まし、ベッドの上で起き上がる。自分を挟み込むようにシルヴァとレンドが眠っており、どうやらシルヴァに抱きしめられていたらしい。

 ベッドわきの棚に設置された時計は9時を少し過ぎたころを示している。空腹に耐えかねた黒猫がわざわざおこしに来たようだ。普段ならば、六時ごろに起きたシルヴァがご飯をあげているのだが今日は起きれなかったというわけだ。


「お母さんの事、寝かせてあげてね」

「言われなくてもわかってるよ。昨日はレンドと忙しそうにしてたからな。それより、裏庭に遊びに行くんだろ?早く行こうぜ。」


 クロムとゴルディアを連れて裏庭に行くというのは、レンド達も知っている。事実、リビングのテーブルには包みに入ったバスケットが置かれており、シルヴァが昼食として用意してくれたものだ。


「あの女、俺の鳴き声に気づかねーで、スズの弁当作ってからまた寝やがったんだよ。ま、一番悪いのはレンドだからな。そこまで責める気はねぇが…」

「ダッタラ、余計ナコトヲ言ワナクテ良カッタデショウ。」


 パネルに怒った顔文字を表示しながらゴルディアがやってくる。クレーンゲームのような二本のアームでがっちりと尻尾を掴みながら不満を口にした。


「イデデ…。お前は乱暴なんだよ。すくらっぷ?にしてやろうか!?」


 普段シルヴァと喧嘩した際に言われている言葉だ。クロムも機械に詳しい訳ではなく、言葉の意味は分からないが機械に対しては相当の罵倒らしいので使っている。


「使イ魔風情ガ吠エルナ。猫チャン?」


 野良猫の写真を何枚もパネルに表示しながらクロムを煽ると、ただでさえ吊り上がった猫目は化けのこのように変化して甲高い声をあげた。


「クロム、お母さんたちが起きるから大きい声出さないで。ゴルディアも、クロムはお腹空いてるんだから少しは怒る気持ちもあるに決まってる。ほんとうは、私がご飯をあげればよかったんだけどね」

「ちげーよ。たしかに飼い主って意味ならスズかもしれないが、俺の御主人はレンドだぜ?餌やりは本来アイツの仕事だ」

「猫ニシテハマトモナコト言ウナ。」


 せっかくスズが仲裁してるにもかかわらず、「ばかにしてんのか」とやいのやいのと騒ぎ始める。プロペラの接合部と、黒猫の首根っこを掴んで外まで連れていくと、裏庭まで向かっていく。

 すでにバックの中に弁当も入れており、これ以上家の中で騒がれると久々にゆっくり寝ている二人を起こしてしまいそうで、慌てて出てきたのだ。ちなみに、すでにレンドは起きており、寝ているシルヴァのために防音魔術を仕掛けていることをスズたちは知らない。


「わりぃスズ。騒がしくしちまったな。」

「私モ謝リマス。私ラシクナイコトヲシテシマッタ…。」


 否、普段からクロムに対しては突っかかる性格であり、日常茶飯事であった。が、お互い妙に喧嘩腰であるなとも思った。理由を尋ねてみるが、二人とも気まずそうにそっぽを向くだけで答えようとしない。


「いやぁそれがよ…。」

「昨日ノ夜、マスタートDr.マギカガ接吻ヲシテイルノヲ見タノデス。」


 接吻。キス。チュー。

 呼び方は様々だが、いつも冷静で喧嘩ばかりの彼らがキスをしている?あまりにあり得ない状況に思わず目が眩んだ。すかさずクロムが受け止めてくれるが、にわかに信じ切れない。


「レンドが、シルヴァの頬に…その…アレしてたらしい。」

「マジ?ほんとなの…?」

「写真モ撮ッテアリマス」


 ゴルディアのパネルに映し出されたのは、淡い色合いのタートルネックを着たシルヴァと、くたびれた白衣を纏ったレンドが向き合っている写真だった。影になって見えないが、いつもの距離感とは明らかに違う程に接近している。


「ほんとにキスしたのかな…。あの二人が…?」


 スズとて子供ではあるが、二人が愛し合った結果自分が生まれたというのは知っている。(もちろん、具体的に何をしたかは知らないが。)

 医者という立場上互いに甘い顔が出来ないだけで、そもそも二人は夫婦だ。キスの一つや二つしてもおかしくないだろう。もっとも、スズは知らないが、彼女は二人の子供ではないため、愛し合うことなんてなかったのだが…。


「お父さんもお母さんも、私にチューしてくれることは何回かあったけど、二人でしてるのは初めて見た…。もしかして、何かの記念日なんじゃ?」

「あー、あり得るのか?」

「私タチハ、スズガ生マレテカラ作ラレテマスカラネ。二人ノ記念日ナノカモシレマセン。」


 クロムは、もともと生きている猫であり、レンドの使い魔ではなかった。ゴルディアも、頻繁にアップデートと称して改造されているため、シルヴァの記録が不確かな時期が存在する。

 たとえば、二人の結婚記念日だとすれば、三人(一人と一匹と一体)が知らないのも当然だろう。


「裏庭に綺麗な花があったよね。アレ、取りに行こう!!」

「ああ、プレゼントとしては名案だな」

「スズガヤリタイノナラ、私タチハ協力シマスヨ。タダシ、危険ナコトハシナイヨウニ!!」


 こうして、予期せず二話構成になってしまったが、次回は裏庭での冒険をお届けする予定である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る