蛇足2:Dr.マギカとDr.シンスによる無毒無薬病への考察
無薬無毒病。
一切の薬毒に耐性を持ち、どんな手段であっても彼をむしばむことは出来ない。にもかかわらず、理性のタガが外れてしまえば猛毒を巻き散らす害獣となり果てる。魔術でも科学でもその原因を解明することは出来ず、現段階で発症が確認されているのはリチ・ドルグ一人だけ。
「奇妙なんて言葉では片づけられないわ。」
「驚きなのは、リチは魔力を持っていることだな。無薬無毒病が原因かはわからないが、どうやら気づいていないようだし、使いこなせるわけでもないらしい。」
だが、奇妙さで言えば、レンドの機械音痴もである。
何度教わっても電源ボタンとリセットボタンを間違えるほどのポンコツぶり。彼自身物覚えはいい方ではあるし、事実膨大な量の魔術式を暗記している。呪いとも呼べるほどに機械操作が苦手なのだ。
「魔力を、毒薬処理に使っていて、私たち魔力のない人間と同じようになってるってことかしら…。けど、魔術を使えるわけじゃないのにそんな真似できるの?」
「どう…だろうな。魔術に関しては俺も知らないことはたくさんある。そもそも魔力って何なのかと聞かれれば答えられないしな。」
「はぁ…。魔力とか魔術って、奇跡奇跡と持ち上げるには、あまりにも現実的過ぎるから忘れがちだけど、あやふやで不確定で疑わしいのよね。やっぱり好きになれないわ」
仮面のおかげで嫌悪感を表した表情は見えないが、それでも魔術師兼医師として活動しているレンドの心を傷つけた。
「そんな顔しないでよ。魔術も魔術師も嫌いだけど、貴方のことは信用しているわ。…一応、旦那だし」
「シルヴァ……」
そっぽを向いているが、鉄仮面でも隠し切れぬほどに頬を赤らめている。思わず愛おしさを感じるも、素直じゃないレンドはそれを口にすることは出来なかった。
わざとらしく咳払いをして、前話の女のカルテとファスが診断した
「科学者としての見解を聞かせてほしい。」
わざわざスズを先に寝かせてシルヴァと二人きりの時間を作ったのは、甘ったるいラブコメディを見せるためではない。白衣を着たままでいることからもわかる通り、まだ『Dr.マギカ』の時間だ。
「無薬無毒病は本当にどんな薬物も効果がないのか試してみたけれど、彼が作れるすべての薬物は効果がなかったわね。私は化学までは範囲外だからわからないけど、医師として言うなら、体質というより何かしらの力が働いている痕跡があるわね。それがあなたの言う魔力の動きって奴なんじゃない」
「やっぱりか……。生まれつきの奇病らしいが、幸いファスと出会うまでは爆発しなかったらしい。その点についてはどう考える?」
一瞬思案するも、何か思いついたのか「あくまで仮説だけど」と前置きをして話し始めた。
「ファスが原因とは考えられないかしら?彼女がリチに何かをしたというわけではなくて、ファスがいることによって暴走が引き起こされているとか…。事実、
「なるほど、リチが魔力を持っているのではなく、ファスの魔力に当てられて爆発が起きているというわけか…。あり得ないというのは簡単だが、いつも『魔術に不可能はない』という俺では否定しきれないか」
自尊心が崩れることで暴走してしまうリチの奇病。そのトリガーとなるのが、ファスの前だけであるのなら?そしてブレーキが務まるのがファスだけならば?
「愛の力ねぇ…。ファスはああいったが、俺にはわからんな。」
「本当にそうかしらね。貴方もスズが私たちの子供になってから変わってきたわよ。それも一種の愛なんじゃないかしら。」
なんだか雰囲気よくまとまってしまったが、本来話す予定だった無薬無毒病への対策も、Dr.ウランに関することも話せないままだった。
「私もう寝るわよ。あしたはスズがお弁当持って裏庭に行くって言ってるから」
「そうか…。ああ、白衣脱ぐのか…?」
寝支度を整えるためには当然白衣は脱いでしまう。この状態で診療所から家に戻れば、医者の時間はおしまいであり、スズの母親となる。それは、レンドにも言えること。
「寝るんだから、白衣脱ぐのは当たり前でしょ。アンタみたいに白衣に魔術掛けてるわけじゃないし、そもそも私本職は医者じゃないんだから。あんたも、その激ニガコーヒー飲んでないで寝なさいよ。」
「ああ、なら…。その…、お前たちの寝室に行ってもいいか?」
恥ずかしがり屋という性格に加えて、白衣を着ているせいでDr.マギカという医者とレンドという男の切り替えがうまくいかないのだ。
「一緒に寝たいならそう言いなさいよ。めったに来ないけど、アンタの枕も一応置いてあるんだから。そもそも、旦那で稼ぎ頭で大黒柱なのはアンタなのよ?診療所も家も、貴方が建てたんだから好きにしたらいいじゃない。」
「ああ、そう、そうだよな。うん。一緒に寝よう。うん。」
「いや、私じゃなくてスズに言ってあげなさいよ。喜ぶわよ?」
鉄仮面の副作用か、それとも単なる性格か。鈍く、レンドの真意に気づかないシルヴァを置いて、夜は進んでいった。
……To be continued
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