蛇足、というか別枠?スズ・マギカの日常その2
「プレゼント、何がいいかな…?」
「あー、お小遣いは貰っているが、今から何かを買いに行くのは難しいな。」
ファスに頼めば花の一つでも見繕ってもらえるとは思うが、無薬無毒病の暴走を引き起こしたリチの後処理で忙しいと言っていた。彼女たちに頼むのは迷惑極まりないだろう。
「別に子供なんだから、裏庭の綺麗な花とかでいいんじゃないか?」
「気ニ障ル言イ方デスネ。シカシ、名案デハアル。実ニ腹立タシイ。」
クロムの言い方が気に食わないという様子でありながら、他にアイデアも思いつかないためにひとまず、花探しを始めた。数日前に裏庭で遊んだ時に、綺麗な花をいくつか見かけたのでそれを取りに行くことにする。
「けっこう登ることになるけど、ゴルディア大丈夫?」
「エエ、私ハ太陽光発電モデキマスカラ。」
しかし、裏庭全体がレンドの結界内というわけではない。うかつに外に出れば過保護なレンドが飛んできて(文字通りの意味で)何をしているだとか、どこへ行く気だとかと問い詰められるだろう。スズは魔力を持ってはいるが魔術の勉強をしたわけではなく、結界の境目を判断することができない。
クロムの目だけが頼りだ。
「クロム、何してんの?」
「なんかあったときのために、気に目印をつけてるんだ。ファスが見たら怒るかもな…」
立ち並ぶ大木に引っかき傷をつけながら山を登っていく。大人の足で見ればたいしてつらい道ではない山だが、並の子供なら
しばらく歩いていると、崖際に一輪の花が咲いているのが見える。形状だけを見れば、バラと百合を混ぜ合わせたかのような花であり、群生地なのかアジサイのように咲き誇っている。
血のような赤もあれば、水に流され薄まったような桃色。色を奪われた白色など様々だ。
「あの白いのがいい!!クロム、手を貸して」
「スズがとるのか!?危ないからやめておけよ。」
「黒猫ノ言ウ通リデス。危険スギル。私ガ代ワリニトッテキマスヨ。白イノガ二本デスネ?」
クロムが浮遊魔術を唱えれば簡単に取りに行けるだろうが、主人に似て過保護なクロムたちはそれを許さない。プロペラを器用に動かして向かい側の花へと接近する。他の花を傷つけないように慎重に二本摘み取るとスズの元へと戻って手渡した。
「お母さんとお父さん、喜ぶかな?」
「どうだろうな。だが、二人はすでに起きてるみたいだぜ。今日は診療所を午後から開けるって言ってるし、昼飯の準備中だから渡すにはいいタイミングかもな」
何らかの魔術で家の状態を覗いているクロムが伝える。うきうきした様子で三人が家に戻ると、普段着の上から地味なエプロンを着たシルヴァがキッチンに立っており、テーブルでは白衣姿のレンドがコーヒーを啜っていた。
「あら、おかえりスズ。夕方まで遊んでくるんじゃなかったの?」
「スズ……?後ろに何持ってるんだ?」
わざわざ弁当を持って行ったにもかかわらず、すぐに帰ってきたスズを見て不思議そうな顔をする。目ざといレンドには隠している花までバレてしまった。
「えと、二人って何か記念日なんでしょ?これ、プレゼント!!」
突き出した花をそれぞれが受け取るが、思い当たる節がないと言わんばかりに首を傾げていた。プレゼントをもらったことは喜んでいるようだが、受け取る理由がわからず立ち尽くしていた。
だんだんと三人の表情に焦りが見え始める。とくに、クロムとゴルディアは自分たちが早とちりをしていたのではと思い始めた。そして、まさしくその通りである。
「えっと…俺とシルヴァの誕生日は六月だし、お前も十一月だよな。特に記念日ってことはないが…。」
「クロム…?ゴルディア…?」
油の切れた機械のようにゆっくりとした動きで二人を振り返る。彼らもスズに見つめられて気まずそうに目を逸らした。
「お父さんとお母さん、昨日チューしてたんじゃないの?」
「「ブフッ!!」」
二人そろって噴き出してしまう。すでに鉄仮面をつけているシルヴァの表情はわからないが、レンドは茹で蛸のように真っ赤になって恥ずかしがっていた。
「いや、おまえ、アレだよ!!おま…。え?あの!!」
「あのね、昨日私たちはキスなんてしてないわよ。私の肩にゴミがついているのを取ってくれただけ。」
慌てふためくレンドと、冷静に昨日の出来事を語るシルヴァ。
確かに言われてみれば、ゴルディアが見せてくれた写真は二人が接近しているだけであり、見ようによってはキスをしている風ではあるが、そうでは無いと言われれば、そう見えてしまう程度の物だった。
「じゃあ、ただの勘違い?」
「そう…だな。だが、コレはありがたく受け取っておく。綺麗な花だな。」
「あとでこの花用に保全機械を作っておかなくちゃね。」
……To be continued?
作中蛇足
スズが寝静まった夜更け。
またもシルヴァとレンドは、家のリビングで二人話し込んでいた。クロムが寝ており、ゴルディアも夜間充電中であることは確認済みだ。
「ねえ、レンド。貴方私にキスできるの?」
「は…!?きゅ、急に何を言い出す…。え、されたいのか…?」
コーヒーカップを落とすほどに慌てるレンドを見てくすくすと笑う。カップそのものはレンドの魔術で修復したが、よほど動揺しているのかちぐはぐに接合されてしまっていた。
「なんとなく聞いてみただけよ。気にしないで。」
「ああ、そうか。まったく、急に何を言い出すかと思えば…。まぁ、していいならしたいがな。」
意趣返しのつもりか、意地悪な顔をしてシルヴァに言い放ち、そのまま書庫へと逃げていった。あとに残されたシルヴァが目をパチパチさせながら唇を抑えて悶えていたことは言うまでもない。
……To be continued
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