第23話バディ様
無意識に皆が立ち上がり、パジェロが前に出た。
「おやおや、そんな盛りのついた顔で迎えられるとは、まだまだですな。さて、蜜事は何でしょう?返答如何では騒ぎになり、どちらが不利になるか、聡明なるオデッセイ様なら御理解頂けますでしょう」
ビリビリとした威嚇を、感じだ。
昼間とは、全く違う。
こういう人は、部屋の空気と、そこにいる人の表情で察するのかもしれない。
と言うよりも、分かってた?
そうでなければ勝手に扉を開けないし、こんな顔をしない。
「ここで嬢様が、喚くのも1つの手ですがね」
パジェロが、体を震えながらも答えた。
「私を相手にですか?奇策ですね。誰が信じます。この宮殿で私に逆らえるものなどそうおりませぬ」
「一投にはなるさ」
「ほう。ですが、簡単に握り潰し、要らぬ罪を擦り付けることも容易きこと。さすれば、あなた方だけでなくオーリュウン家もどうなるか、ご理解出来ましょう」
「さあ、それはどうだろうな。嬢様が宮殿に自分から上がっているなら、悪事のためと思うかもしれんが、宮殿に上がったのは嬢様の意志では無い。それも、ひと月もたっていない嬢様に何が出来る。しかも、俺達の話は運良く皆のいい噂になっている。もしかしたら、一投どころではないかもな」
ニヤリとクーペ様が笑った。
「面白い。ますます禁秘だと白状したもの」
「それ以上はやめておけ。お互い本当に潰したいのなら、とっくに動いているだろう。それなのにこんな探り合いをしているのは、何処かで折り合いをつけようとしている証拠だ」
若い男性の声がした。
扉の外で様子を聞いていたのだろう。
ふう、とクーペ様が仕方なさそうにため息をついた。
「もう少し楽しみたかったのですが、まあ、致し方ありませんね。さすがバディ様ですね。よう、見ておられる」
やはりバディ様か。
その人はゆっくりと部屋に入ってきた。
この国の第1王子。確か、歳は21歳。
初めて見た。
黒い髪に、鋭い黒い瞳。
噂通りの、怖そうな顔!
凛々しくて素敵は素敵だが、近寄り難い雰囲気を持っている。
「何を隠している」
私を真っ直ぐ見つめ歩いてきた。
自然に皆が避けていく。
はっきりいって、怖いです。
「あ、あの・・・」
ポケットに入っているものを言っている。
「オデッセイ。私は、手助けをしたい。君に危害を、そして傷つけるつもりは毛頭ない」
私の目の前に来ると、とても優しい目で微笑んだ。
心配しているのが何故かわかった。
この状況下で断れる口のうまさがあるなら教えて欲しい。
何故バディ様がここで出てくるかも、
何故全てを手に取られているかも、
何故クーペ様があれほどに嬉しそうにパジェロを見ているかも、
全部納得いかない。
1歩下がってしまった。
それが己の無意識ながらも、いいえ、無意識こそが、奥底に潜む 本当の気持ち。
「オデッセイ?」
何故それ程に不安な顔をするのかも分からない。
この人が、敵か味方かも分からない。
立場で言えば逆らうべきでもないのも理解している。
「貴方様は、何故ここにいるのですか?」
だから、正直な気持ちが口に出た。
「・・・さっきも言ったな。私は君の手助けをしたいと。君が中庭で花を見ている時に声をかけようと思っていたら、様子がおかしかった。暫く見ていると、ノア殿が現れ、食入るように見ていた。もしやノア殿が好きで・・・婚約解消をとても辛い気持ちでいるのだろうかと・・・」
「それは、全くありません!」
初めから、そんな恋心なんて微塵も持ってない。惹かれる要素は、お金だけだもの。
「それなら良かった。だが、見ていてそうでないのがわかった。昨夜から召使いと部屋で何か話しているのだろう?そして、今日も。何かあると思い心配してきたのだ。・・・オデッセイ、私を信じて欲しい」
優しい声で手を出した。
「嬢様、渡してください」
パジェロの声がした。
「・・・分かったわ・・・」
何か考えがあるのだろう。
仕方なくポケットから袋を出し、バディ様の手の上に乗せた。
安堵した顔で頷き、
「久しぶりだな、オデッセイ」
衝撃的な一言を私には向けた。
そして、渡した袋と一緒に手を握ってきた。
んんん???
久しぶり???
私は初対面と思っています。そりゃ、式典などで遠くで見た事はあるが、久しぶりと声をかけて頂くほど、 親しくないでし、あなたは第1王子。
雲の上の人だ。そんなおいそれと接点が、子爵の私なんかとある筈がない。
まず会ったら覚えている。
「・・・どなたかとお間違いでは・・・」
あ、あれ?
凄く・・・悲しそうな顔になってます。
「・・・覚えてないのか?」
「・・・え・・・と・・・」
覚えてません!
と、ここでハッキリ言える相手なら答えるが、相手が相手だ。
それも、人違いではなく、本当に私なのだろう。
身辺調査はをされてここに上がる事が出来たのだろうから、間違うはずは無いが・・・。
どうしよう・・・全く覚えがない・・・。
つい下を向いてしまった。
嫌な空気と沈黙が流れた。
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