第31話信じろ

声のした方を見ると、腕を縛られ、頬に殴られたあとがみえ口から血を出していた。

「パジェロ!」

「本気で一人で来るとは思ってない。私が気づかないとでも思っていたのか?まあ、ある意味賭けで手紙を渡したんだ。だが、この男が店の近くにいたのを見て、確信したよ。お前が持っている。その、低脳で浅はかな脳みそで何か企んでいるんだろうと」

私を上から見下げ、勝ち誇った声で笑いだした。

「滑稽だ。本当に面白い。大人しくしていれば宮殿の妖精と歌われる誰もが羨む存在でいれたのに、のこのことここまでやってきて、私に勝てる算段があるとでも思っているのか?軽々しく足を突っ込むからこんな事になるんだ。女はただ、股を広げ待ってればいいんだ」

座ると、私の顎を持ち上げたのを、払いのけた。

気持ち悪かった。

触られ事も、笑う声も、全部が、寒気を感じ虫酸が走る。

「あなたは女を馬鹿にして楽しんでいたんじゃない、女に興味がないんだわ!!何故パジェロが私の召使いだと、気づいたの!?会わせていないわ。あなたの好みだったから調べたんでしょう!!だって、ここにいる男は皆似たような顔つきだわ。そうよ!!思い出したわ!!あなたが連れきた召使いも、グッ!!」

お腹を思い切り蹴られた。

「やめろ!!嬢様!!」

息が止まるかと思う程の衝撃と、鋭い痛みが腹部を襲った。


大丈夫だよ、パジェロ。そんな心配そうな顔しないで。


パジェロと目が合い、頷くと、少し安心したようだった。

「崇高な気持ちだ。女の様な卑しく、嫉妬深い醜い気持ちがない、清らかな、神から与えられた数少ない思いだ。そんな醜い女を罰して何が悪い。気づかせてやっているのだ。自分が愛され、価値があると勘違いする馬鹿な金の亡者が!」

ゲホッゲホッと何度も咳をし、呼吸を落ち着かせた。

金の亡者。そこは否定は出来ない。

「よく・・・言うわ・・・、ゲホッ・・・あなただって・・・金儲けのためにやってるじゃない」

「私が?勘違いも甚だしい。この国のやり方がおかしいのだ。出荷する花を何故庶民と貴族が同じくして買わねばならない。我々は上級貴族だ。特別扱いされて当然なのだ。お前らのような庶民と同じ低俗貴族とは違う。バディ様がおかしいのだ。王族でありながら庶民と仲良くしようとする!生まれてから交わりことの無い、あんなに庶民とだ!!」

吐き捨てるように言った。

また、それか。その奢った物言い、本当に腹が立つ。

偶然生まれただけの爵位なのに、まるで選ばれているかのような、勘違いする。

でも、ほっとした気持ちもあった。

バディ様は優しい気持ちをお持ちの人なんだ、と。

「だったら私は低俗爵位でよかったわ。あなたの気持ちも、あなたの考えも全く分からない!分かりたくもないわ!!」

「同感だ。分かり合えるわけがないだろう。卑しい人間どもが。さて、このお喋りはいつまで続けたらいい。これは逃げる為の時間稼ぎか?」

からかうように笑いながら、頬を叩かれた。

「もうやめろ!」

パジェロが悲痛な声を上げ、私を心配そうに見てくる。

何故かとても気持ちが落ち着く。

そしてノア様の気持ちが手に取るようにわかる。

「なんだその目は!生きて帰れると思っているのか!?」

思っていない。

本当なら闇夜に隠れてパジェロにはここに火をつけ、目立つように指示してあった。

他に味方はいない。ミラージュとアイには元々の手紙の内容を教えていない。

だから、火の手が上がれば、誰かが来ると計算していた。

どこまでバディ様が見張りを置いてくれているのかわからない。

ただ、あんなに堂々とノア様が私を中にい引き入れ、パジェロも捕まっているということは、片付けられているか、門番のように金でどうにかしているのかもしれない。

どうせ死ぬなら、最後まで足掻いて、こいつを、この男に言い返したい。


今この人は自分が優位な立場なはずなのに、不安になっている。


「宮殿の妖精と1度楽しんでみたいと思っていたんだ。女には興味がないが、お前の嫌がる顔を考えるだけで興奮する。何人もの男の前で、それもお前の召使いがいる前で組み敷くのも一興だな」

「やめろ!!嬢様!!」

下品極まりない。

私を押し倒し胸元を破った。

けれど、その瞳に不安が蠢くのが見える。

人間の直感、第六感は大事だ。確実な安心は、それは紛うことなき後ろめたさがない時にしか、ありえない。

少しでも己に汚れがあれば、絶対は、ない。

そう思うと、なんだかおかしかった。

首元に埋めたノア様の体が震えた。

「どうして聞かないの?あの種はどうしたのか、と」

「聞いてどうする。その価値が分かりもしない者が拾っても、それを聞いても、理解できないだろう。お前達は確かにここに辿り着いた。そこは認めてやろう。だが、結果はこれだ。それに、誰が信じるこんなことを」

確かにその通りだ。私1人では全く意味が分からなかったし、たかが子爵の娘。誰も信じないでしょう。

「そうね。種の価値がわかるものが扱うことに意義がある、とあなたは言いたい。つまり、その種の価値も分からない庶民が拾ってもゴミにしか思えない。この種は稀有なるもの。だから私はこの種を持つに1番相応しい人に渡したわ」

怪訝そうにノア様は、私から離れ見つめた。

「どういう意味だ」

「言ったでしょ?最も相応しい方に渡したわ」

何故こうなったかなんてわからない。

何故あの人が私を見ていたかなんか分からない。

何故あの人が自分を信じろと言ったのかもをわからない。


でも、


「バディ様よ!!」


信じろとあの人言った!!

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