第26話思い出しません

お昼になり、昨日と同じ第2執務室に呼ばれ、昼食をとっています。まだ、この部屋で食べれるのだから、まし、と考えよう。

これが王族の食堂だったら、いたたまれない。

と言っても、目の前に豪華に並んでいる食事も、目の前の人が恐れ多くて、食べれない。

「どうした?冷めるぞ」

「・・・はい」

私が食べないと、すぐに声をかけてくる。

でも、食べれない。

「そうだな。召使いがいたら食べづらいな。クーペ以外は下がれ」

思いついたように、待機している召使いに声をかけた。


いや、違います・・・。あなたです・・・。


召使い皆が下がり、逆に静かになり、とても居心地悪くなった。

フォークとナイフを握りしめ、とりあえず料理をつつき、あえて小さく小さく切り時間を潰し、口に入れる。

小さすぎてか、緊張か分からないが味なんてしない。

「オデッセイ様。何かお声をかけて差しあげてください。小心者の方ゆえ、女性に気の利いた事が思いつかないのでございます」


いや・・・私もです・・・。


バディ様の後ろに控えるクーペ様が、優しそうに声をかけてきた。

見るとバディ様が少し顔をが赤くなったように見えた。

話と言っても聞きたい事しかない。

「・・・昨日は大変失礼を致しました。バディ様と面識があった事を失念しておりました。その・・・」

「失念ではないだろ。覚えてないんだろ」

少し苛立ち気味に言われ、睨まれた。


うっ・・・。当たってます。


「・・・申し訳ありません・・・。仰るように記憶がなく・・・」

「本当に覚えてないのか?」

念を押されましても、覚えてないんだってば!

そんな、不貞腐れたような顔されても、記憶にないもん!

「・・・申し訳ありません・・・」

むっとされた。

「その喋り方もやめろ」

「バディ様、お辞めない。子供が駄々をこねているようにしか聞こえません。オデッセイ様が困惑されてます。記憶にないというのであれば、教えてさしてあげれば宜しいのです。そのような物言いですと、嫌われますよ」

クーペ様に叱咤され、しかめっ面になった。

「初めて会ったのはオデッセイが、小等部の頃だ。俺が視察で招かれ、校舎を案内してくれだろ」

どうだ、思いだしたろ?という顔をされました。


が!


すみません、全く記憶にありません。

視察?私が小等部?歳的にバディ様が、中等部か高等部の頃?王家の人の視察?


てか、私そんなの関わった???

んんん??????


私の顔を見て、バディ様はまた、むっとされた。

「覚えてないのか?」

しつこいなあ。覚えてたら、こんな顔してないし。

「・・・申し訳ありません」

「では、中等部の頃や高等部の頃に何度か声をかけたのも覚えてないのか?」


いやあ。さっぱり。


「お1人でした?他にどなたかと御一緒でしたか?」

「学友がいたが・・・。そこまで・・・覚えがないのか・・・」

何故かとても悲しそうです。

そんな事言われても、確かに小等部の時に国立学園の中等部の方、高等部の方が視察に来られました。

学園の案内は学園で成績優秀な方か、上級貴族の方が相手をすると決まっていたから、私なんか・・・?


あれ?


そういえば、途中からなんか案内変わって、と言われ変わった時があったけど・・・その時の事?


この人だった?


あまり喋らない人だなあ、と言う記憶と背が高くて顔はあまり見てない。

それに、中等部の時には国立学園の高等部の方が視察に来られましたが、すれ違ったら挨拶するでしょ?

いちいち覚えてない。

「・・・」

「・・・」

お互いが沈黙になり気まずい空気が流れた。

「わかった。もういい」

だから、なんでそんな事不貞腐れた顔するんですか。私が悪いみたいじゃないですか。

はあ、とクーペ様が大きくため息をつかれた。

「バディ様。もう少し大人になりませんと、全く話に花が咲きません。これでは、貴方様の印象は全くもってよくありません」

「しかし、花が咲くところがないではないか」


いやあ、咲かなくてもいいです。


「いいえ。ここは、にこやかに、ではこれからお互いの事を知り合えばいいのでは、とか仰ったらいいのです。そうではありませんか、オデッセイ様」


へ?


私は別に知り合わなくてもいいのですが、とは・・・勿論言えない。

では、私が大人になるべきなのですね。

「仰る通りです。今のお話でしたら、学園での出来事しかありません。先日の事もありますので、ここは、腹を据え、お互いを知るべきかと存じます」

にっこりと微笑んだ。

あれ?何故か2人とも顔をひきつらせている。

「俺に対して、その言い方。パジェロとかいう、男だけでなく、君も十分肝が座ってる」

「噂ではなかったと言うわけですね。豪気な方ですね」


何故?なんか、違う方向にとらえてる??


「では、食事の後に昨夜の報告でもしよう。冷めてしまったが食べよう、オデッセイ」

とても、優しそうに微笑んだバディ様に、肩の力が抜けた。

「ありがとうございます。頂きます」

「その言い方ではない。俺が知っているオデッセイは、この俺に、さあ食べましょう、と元気に言ってくれたがな」

「・・・はい・・・?」


そ、そんな事言った!?


いや、まてまて。私が覚えてないのをいいことに適当に言っているのかもしれない。カマかけて遊んでいるのかもしれない。

いや?ここまきて遊ぶ必要があるのだろうか。

「・・・ご冗談を」

「いや、俺にサンドイッチをくれた」

その言葉で思い出した。

「あ!」

「やっと思い出したか」

嬉しそうにバディ様が私をみたが、苦笑いしか出来なかった。

「・・・自分がお腹が空いてて食べたくて買ったんです。視察の方を途中から案内を頼まれて、一緒に食べたな・・・と言うだけで、それがまさかバディ様だとは・・・その・・・」

また、むっとされた。

「誰だが分かってなかったのか」

「・・・仰る通りです・・・」

「まあ、いい。だが、あの時のオデッセイの会話は俺には楽しかった。思い出せないならそれでもいい。さっきの言い方でわかった。オデッセイは変わってないな」

懐かしそうに言うが、


さっきの??

どれ??


なんだか楽しそうにされているので、まあいいか、と思い、冷めた料理を頂きました。

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