第20話勝手に花係にされました

ほっとしたのもつかの間だった。部屋を出て少しして、前からまた、あの人が、にこやかにやってきた。

「オデッセイ様」

「・・・クーペ様」

まるで見計らった様に現れた。

「終わられましたか?」

「はい」

私の返事に何故か怪訝そうにした。

「失礼ですが、話に花はさきませんでしたか?」

そうか、バディ様が部屋にいると思っているのだ。

「部屋にはどなたもおられませんでした」

「そう・・・ですか・・・」

少し考えるような仕草をされ、私を見た。

「では、明日もお願い致します」


は???


「申し訳ありませんがそれは出来ません。ここは王族の方、もしくはそれに近い高貴な方が使用される場所。私のような新参者がお仕えするなど、おこがましい限りでございます。今回は、クーペ様がお忙しいとの事で急遽私がさせていただいた迄の事。本来なら、相応しい方がされるべきです。その方にお願いしてください。貴重な体験ありがとうございました」

頭を下げた。

失礼なのは重々承知だ。本来ならこんな一方的に喋るべきではない。

でも、関わりたくない。

「なるほど。話通りの生真面目な方だ」

急に嫌な威圧的な言い方に変わった。

話通り?

ここに来てあの3人以外とまともに話なんてしていない。

誰に聞いたのだろう?

ざわざわと嫌な気持ちになる。

「ここに上がられた令嬢は虎視眈々と、己に相応しい殿方を狙っているものです。何せ、狭き門をくぐり、選び抜かれた。言うなれば、何処までも高み望める相手を探せるのです。あなたもそうでは無いのでか?」

さぐる言葉と瞳と、表情。


なんだろう・・?


言葉もその言い方も卑下し、嫌な感じなのに、目がとても楽しそう?というか・・・試されてる?

「この機会を逃すのは得策ではないのもお分かりでしょう?」

真っ直ぐに射抜くように見つめてきた。


その通りだ。


この人の言う言葉も、そこに潜む想いも、当てはまっている。

私も玉の輿にのりたいと、邪念をもって上がってきた。


間違いない。


でも、間違いなんだ。


この方には変な誤魔化しは効かない。

「仰る通りです。私も良い方を探しています。ですが私は分をわきまえているつもりです。高みでも私に合う方がいいのです。恐らくここにおられる方は私には、望みすぎです」

「おやおや、謙遜な方ですね」

「いえそのような事はありません。クーペ様が仰られた、己に相応しい相手、と言う意味を理解しているだけでございます。それに私は、話に花を咲かせるほどの知識の引き出しを持ち合わせておりません。もうひとつ・・・年頃の方とあまり会話が得意ではありません。その・・・、言い方がハッキリしているようで・・・気分を害されるのではないかと・・・」

家族からも、学園の友人からも、注意された。

自分ではそんなつもりは無いが、どうも冷徹な言い方で、はっきりと言ってしまうようだ。

「それは丁度いい。あの執務室をよく使用されている方も、女性に苦手で疎い方でしてね。話し相手を探していた所なんです。それも、己で己の引き出しを理解している方は、往々にして、逆き方なのです。では、問題ありませんね。明日もお願いします。時間は・・・、そう、2時にお願いします。ロックスター殿には連絡をしておきますので」


へ!?

今の流れでなぜそうなるの??


有無言わさない言葉と、持っている威圧に返事が出来なかった。

「あと私の名を呼ぶ時は、さん、ですからね。まあ、いずれは呼び捨てなるのでしょうけど。」

ほっほほと楽しそうに笑うと踵を返し颯爽と去って言った。

「あ、あの、私返事してません・・・けど・・・」

とっくに聞こえないところまで歩いていったクーペ様の背中を見ながら、呟いた。


なんか・・・初めから決めてた・・・的な・・・?私の話聞く気ないな・・・的な・・・?


とりあえずあの人に逆らっちゃダメなんだよね、とため息が出てしまった。

ごそりとポケットに手を入れる。

とりあえず、部屋に帰ろう。

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