第18話 花園

 


こうなったら、花係をするしかない。断れるわけが無いもの。


第2執務室。


3階の奥の部屋で、王族しか使わない部屋だ。

はああああ、とため息をつきながら、仕方なく花園に向かった。

花園はこの広大な庭の東の方にある。

まあ、見たかったからいいか、と自分に言い聞かせながら、

何故私なんだろう??

と言う疑問は勿論消えない。

花園に辿り着くまでも距離があるが、見事な宮殿の庭だった。

ゆっくり見たかったが、言われた仕事を終わらせないと、遅い、とか言われても恐ろしい。

花園の横には大きなガラス張りの温室もあった。

花には興味はないが、どんな風になっているかは興味がある。


見たいなあ。


私の好きな花、と言われたんだから、温室でもいいはず。

温室の入り口が何処だろう、とウロウロしていると花園にノア様が見えた。


勿論、行くしかない!


急いで花園に入り側に行こうとしたら、

「何をお探しですか?」

すぐに近くにいた園丁に、にこやかに声をかけられた。


ですよね・・・。


この格好ということは、宮殿に上がった召使いです。


扱いが違いますよね・・・。


「あ、あの、第2執務室の花替えを頼まれまして・・・」

園丁で見えなくなったが、すぐそこにいる。


ちょっと、邪魔なんだけどな。


「そ、それは!どの花がいいですか!!」

急な変貌に、ああ・・・、と頭が痛くなりそうだった。

でも、そこで閃いた。

「見て見ないと分からないので、色々見てみようかと思ってます」

「是非!宮殿にしか咲かない花が沢山あります。例えば、このバラですね。トゲが無いのは当たり間ですが」


当たり前なの?


「花びらの大きさが違うんです!大きさが色々あり見てください!!なんと神秘的なんでしょう!!」

「・・・そうですね・・・」

コレのコレがね、と熱い説明が始まり、聞くふりをしながらノア様に近づいて行った。


すみません、花に興味はありません。


「では、この2色のバラが今回は出されるですね。やっと買えますね」

ノア様が嬉しそうに答えた。


よし、聞こえる。


「どなたかにプレゼントですか?いいですね。ノア様もやっと身を固める気になりましたか?」

「いやいや私の方が愛想つかれているんですよ。女性と話しをするのが苦手ですからね」

他愛のない話だ。

しかし、愛想つかれる、とよく言うわ。昨日私に話しかけた感じはとても慣れていた。

「では、これを差し上げましょう。明日お帰りでしたね。屋敷までは持つでしょう」

「いつもありがとう。では、ここにいるオデッセイ殿に差し上げようかな」

振り向き、にこやかに微笑んだ。

「・・・恐れ多いです・・・」

色取りどりの花を持ち、近づいてきた。

気を使うように園丁は離れていった。

「オデッセイ殿。見違えて分からなかった」

昨日とは打って変わった揶揄の響きがあった。

「あら、やっと思い出されたのですか?私はわざとされたと思いましたが」

もう関係ないのだからしおらしくする必要は無い。

顔を上げ睨みつけた。

「分かる訳がないだろう。あんなに貧相な娘がまさか、ここに、それも、これ程までに化けて現れると誰が思う?」

さすがに聞かれないように小さい声でいってきた。

優しそう微笑みながらも、馬鹿にした言い方に見下した目。

「そう思ってくださるなら光栄です。あなたに見る目がなかった、節穴だった、と言わせてるんですものね」

顔つきが変わった。

「どんな手を使った。純情そうな顔して、安い女だったという事だろ。女は股を開けば、簡単に男を手玉に取れるしな」


ふざけた事を!


「そんな簡単にここに入れるなら、皆様苦労しないでしょうね。あなたがそんな下品な事しか考えれない低俗だったとは。解消して下さって良かったですわ」

ノア様の頬がひきつる。

「子爵の分際で何様だ。生きてる価値を得るためには、我々の下で庇護を得るしかないんだ。それをまるで己の意思で存在してると思っているとは、愚かだなものだ」

こういう風に思って婚約していたんだ。

「お前の所はかなり金に困っていたな。思い出したよ。私との婚約の義に初めてあんな、みすぼらしい格好を見たよ。笑いをこらえるのに必死だった」

怒りが込み上げてくる。

「宮殿に拾えてもらえる顔があったのは、運が良かったな。確かに、この顔であらわれたら、気に入ったよ。少しは遊んであげても良かった」

私の顔を値踏みするように、近づいてきた。

どんと押した。


気持ち悪い。


「おやおや、妖精に似つかわしくない態度だね。まあ、中身が貧乏な子爵だからね。ここならあの家を救ってくれる男は見つかるだろうね。だが子爵は子爵だ。我々のおこぼれで生活するしかないがな」


こんな言葉を聞くなんて・・・!!


人間として最低だ!!


「じゃあね、せいぜい上手くやりなさい。その顔なら簡単に探せるんじゃないか?股を開けばな」

くくっと楽しそうに笑いながら去っていった。

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