第13話宮殿の妖精

「僕達の為に、わざわざ逢いに来てくれたんじゃないか?」

違う声も聞こえた。

急に身体が強ばり動けなかった。

「見た事ない顔だね。ああ、新しく入った妖精か。さすがに宮殿の妖精だな。綺麗だな」

前にやってくると、にこやかに微笑んだ。

「・・・!」

声も出なかった。

2度しか会っていないが、忘れるはずがない、私の苦い思い出だ。

謝らなきゃ、それだけが浮かび、息が苦しい中何とか呼吸をした。

「なんて名前かな?」

楽しそうに笑いながら聞いてきた。


・・・?


言っている意味が理解できなかった。


名前?


そんなに化粧や髪型で分からないものなのだろうか?

それとも似ているだけで別人なるのだろうか?

「ノア、怖がってる。きちんと自己紹介しないと、捕まるかもよ」

名前を聞いてやはり間違いない。

「それは困るな。ここでは妖精は大事な存在だからね」

肩をすくめ、わざと困ったふうに言うと大袈裟に頭を下げた。

「初めまして。私は、デニール侯爵家の長男ノアと申します。少し前に婚約解消したばかりの寂しい男です。慰めてくれると嬉しいですね」


知っているわ、そんな事。


ズキリと胸が傷んだ。解消の相手は私のことを言っているのに、本当に気づいていないのだろうか?


それとも嫌がさらせ?


「よく言うよ。爵位の低い女と婚約して解消して楽しんでるんだろ?全く趣味が悪いよ、お前は。さて、私はそんな意地悪じゃないよ。ユラ伯爵家の次男マグナと言います。まあ、ぼくはちゃんとした婚約者がいるからね」


わざと低い爵位の女と婚約?

解消している?


マグナの言う言葉がとても気になった。仲がいいのは雰囲気で分かり、嘘をついている様子はない。

胸の動機に一気に身体が寒くなった。

つまり、いつもこんな卑劣な手を使って人の心を弄んでいるんだ。

私の家族も、私も、必死になっているのに、それを嘲笑うように遊んでいただけ。

どんなに頑張っても意味の無い、無駄な事だと分かっていてて、美味しい餌をまき、釣って、捨てる。


それも、何度も。


「人聞きの悪い言い方だなあ。妖精が眉間に皺を寄せちゃったじゃないか。世知辛い世の中なんだよ。少し考えれば分かるだろ?その程度の爵位のヤツらが、私と本気で婚約できると思ってるのか、てね。でも別に手を出すわけじゃないんだから問題ないだろ。私はこういう綺麗な人が好きなんだ」

にっこりと私を見て微笑んだ。

本当に私と気づいていないんだ。

その程度の爵位。こうもはっきり目の前で言われると、湧きあがってくる感情が身体を支配していく。


ふざけんな!

こっちは必死だったのに!!


「いい手を使うよ。婚約の手続きと解消の手続きでここに来れるもんな。妖精に会えるし」

「選りすぐり美女ばかりだかね。馬鹿な低俗貴族をからかうのは楽しいよ。いいストレス解消だ」

「それはわかるよ。社交界の時に、声をかけたくて、ウロウロする姿は、見ものだからね」

「だろ?特に婚約をちらつかせたらすぐ顔に出るからね。私の家と繋がりをもてるって、そんな夢を見る。破談になった時の顔、ゾクゾクする。こういうのは本物の貴族じゃないと出来ない遊びだよ。ねえ、君もそう思うだろ?」

「・・・よく分かりせん」

声が震えないように一生懸命に我慢した。

そのからかった相手が目の前にいるって気づいてないでしょうね。

「なかなか面白いよ。君もやって見るといい。特別な遊びさ。ところで名前はなんて言うのかな?」


緊張した。


名前を言ったらさすがに思い出すだろう。だって、解消したのはほんのひと月前の話だ。

でも、嘘の名前は言えない。

ぐっと手に力が入る。

「・・・オデッセイです」

つい声が小さくなる。

「可愛い名前だね。オデッセイか、オデッセイ、何処かで聞いた名前のような」

ノア様がブツブツと考える仕草をするのを見て、今度こそ思い出すかもしれないと不安になった。

「口説き文句のような言い方だな。私は先に行くよ。君と違って私は婚約者がいるからね。その辺の兵達に誤解されて変な噂でもたったらたまらないからね」

「気を利かせてくれて、ありがとう。私も少ししたら行くよ。妖精と、長く2人で喋ってると、注意受けるからね」

「ほどほどにな」

そう言うと、マグナは去っていった。

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