第10話緊張した

はふうううううう。


と部屋に帰るとソファに寝転んだ。

「お嬢様、はしたないですよ。ほら、スカートの裾がめくれてますよ」

アイが苦笑いしながら直してくれた。

「だってえ、緊張しっ放しだったんだもの。だって陛下だよ!遠くで手を振ってるのしか見た事ない人が、目の前で、精進せよ、とか言うんだよ!!・・・あ・・・クラクラしてきた・・・」

まだ、緊張で動悸が激しいし、体が震えている。

朝早く、身支度専用の召使い達がやってきて、化粧やらしてくれた。これは毎朝してくれるらしいのだけど、これも慣れていないのでここから疲れていた。

何がなんだか分からないまま、貴族の謁見の間に連れていかれ、オロオロしている間に任命式があった。何となく並んでいる順番と、昨日教えて貰った外見を思い出しながら、誰がどれなのかチラチラ見て確認した。

王族は皆綺麗で、本の世界のようだった。

途中緊張しすぎて意識が飛んでしまうことがあった。


でも、とりあえず無事終わってやれやれです。


昨日は昼食や夕食を部屋で食べたけど、基本は食堂に行って食べることになる。

今日は任命式の為、部屋で朝食たべ、昼食からは食堂に行く事になる。

ちらりと時計を見ると、11時。

昼食は12時から14時の間で食べることになっていて、体調管理の為、正当な理由がない限り食堂で食べなきゃ行けない。

「残念です。オデッセイ様の任命式を見たかったです」

残念そうにミラージュがつぶやいた。

「そう?精神的に疲れるだけだよ。お偉いさんばっかりいて、これ夢じゃないか、て思ってくらいなのに」

「そうかもしれませんが、別人かと思うほど綺麗ですよ、オデッセイ様。その召使いの服もとてもお似合いです」

ミラージュがため息混じりに言ってくれたから少し安心した。

とりあえず、外見は繕えている、という事だね。

「まあ、確かにこの服は可愛いと思うよ」

「私もです!この服凄く可愛いし、凄く生地がいいし、凄く着やすいし、凄く高そうなんです!!」

アイが王宮のメイドが着る服を嬉しそうに触りながら言ったが、思い出したように、私の服を触りだした。

「あ、でも、オデッセイ様の方が凄く生地もいいし、可愛いし、似合ってます。それに髪型と化粧で、そんなに綺麗なられるとは、もう、びっくりです!!屋敷にいた頃は、お転婆でよく怪我していましたものね」



うるさい。それ今いらないし。


「アイ・・・袖引っ張らないでよ・・・綺麗になった、というのは嬉しいけどね」

「だってえ、この王宮の召使いの服、凄くサラサラでしっとりで、触りたいんです!けど、オデッセイ様の方が服より綺麗ですよ!」

目を輝かせ、さわさわと私が来ている服を触ってくる。


だから、何よそのつけ加え的な言い方。


「まあ、分かるよ。その気持ち。この服私のドレスよりもいい生地使ってる。それも、何十着も用意してくれてて、私の持ってきたドレスよりも数があるもの。やることがよくわかんないよ、王族?王家?まあ、どっちでもいいけど、お金持ってると使うとこが違うね」

「ですね!オーリュウン家と全然違います!!あ、別にオーリュウン家が貧乏という訳じゃないですよ、宮殿が別格なんです」

素直に言っているは分かるが、苦笑いが出た。

「アイ、おやめなさい。お嬢様が困っていますよ。それに、そんなにはしゃぐのははしたないですよ」

ミラージュがアイの手を引き私から離した。

「お嬢様、そろそろお迎えが来ますよ。お直ししないといけませんので座ってください」

「・・・お腹がなんか空いてないよ・・・」


このまま寝たい。


「お嬢様」

ミラージュが少し苛立ち気味に言ってきたからしぶしぶ起き上がり、化粧室に向かった。

ちなみにパジェロは部屋の外で待機というか、見張りをしている。男性は部屋には入れないので、不貞腐れながら待ってる。


でも、これは重要な仕事です。


上の階にいる来賓のお客様が、たまーにだけど降りてきて、いけないことをする人がいるんだって。勿論宮殿の見張りの人が沢山いるけど、どうにかかいくぐってそんな不届きな事をしようする人を阻止しする為の役割も担ってる。

もし、2人でお話がしたいのであれば、申請書類を提出し、女性の方が承諾すれば、殿方の部屋や、談話室で話をすることになる。

そこから回数を重ね、どうするのかを決めていく。

かなり、女性は厳格に護られている。遊びで子供ができたなんて洒落にならないし、宮殿の品位が問われる。

だから、女性が承諾しない限り、絶対に2人きりになることはない。

今度は、ゆっくりと自分で考えて、相手の方と喋る機会がもてる。


頑張らないと。


とは言うものの、早くここに慣れる方が先決だな。

ミラージュに化粧を直して貰いながら、鏡に映る自分見て、確かに綺麗になったな、と思うが、嬉しいような、余計疲れるような、複雑な気分だった。

「オデッセイ様、お迎えが来ましたよ」

アイが声を掛けてきた。

「ありがとう」

「お嬢様終わりました」

ミラージュがすっと離れる。

「ありがとう」

「本当に皆さんお綺麗ですよね。あ、勿論オデッセイ様が1番綺麗ですよ」

鏡越しににっこり笑うアイに、なんだかなあ、と思った。

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