第5話 弦の楽団
『トウチャク〜トウチャク〜。
ギターの船〜ギターの船〜』
黙っていたらすんなりと着いた。猶予を持たせる訳でなく、直接甲板に列車を横付けだ
「…何者だ。」
「お久しぶりですギター様方、アナタ達の船にお客サンを連れてきまシタ!」
「客? 呼んだ覚えは無いが。」
「他の楽団の回し者か?」
肩を合わせて同時に話す二人組。一人が長髪の長身、もう一人が金髪の幼い青年。二人の周囲には船員と思われる乗組員がわんさかと並んでいる。
「随分と多いな」
「そうか?
アンタんとこもこんなもんだったぜ。」
皆が肩に弦の楽器を担いでいる。中には見慣れない形状のものもあるが、そんな部分は知った事じゃない。
「船長どいつだ?」
「…私だ」
長髪の男が名乗り出た。雰囲気から察してはいたが、かなりの圧を放っている。
「用件は言わなくてもわかってるよな、この船は今日沈むんだ。」
「いい度胸じゃん。やる?」
金髪の男が煽るように長髪を誘う。
「ドラムの奴..厄介者を寄越してくれたな..」
背中合わせで楽器に手を掛ける。
「おい、どっちが船長だよ?」
「ギターだよ、俺は副船長。
悪いけど俺ら専らセッションなんだわ」
二対一体、二つの音色が船を支える。
「ベース、チューニングは済んでいるか?」
「もちっしょ!」
船長達が構えると同時に、乗組員も楽器に手を掛ける。多対一、それは二人に限らず船全体を相手取る暴力のようなもの。
「こりゃアンタんとこより酷いな。」
「当たり前だ、一緒にするな」
こちらも背中合わせで相対する。海賊のやり方といえばやり方だが、ここは空の上。場所を選べといっても効かないだろう。
「存分に戦え、シンバル。こちら側は私がすべて片付ける。」
「正気か? 随分な量だぞ」
「見誤るな、私はドラム船副船長だ。」
その他大勢が束になって掛かろうと、打楽器の副官には及ばない。
「そうかよ、ありがてぇ..!」
多対一の同時戦、卑怯や姑息といった手法は最早言うだけ無駄というやつだ。
「雑魚共、一歩たりとも踏み込むな。
打の音の元に跪かせてやろう」
「「音壁展開!!」」
両者の背中を隔てるように壁が重なり合う。船の甲板は既に、戦場と化した。
「ビートを響かすぜ!」
ベースが弦を掻き鳴らす。弾けるような音が周囲に展開され、鋭い衝撃を創る。
「音はしっかり調節しろ、柔軟にな。」
次いでギターの音を加える。雑な鋭い男を整え滑らかに、より鋭利な音に仕上げる。
「何大人しく見てんだよ、お前ヤバいぜ?
俺たちの後が完成したらよ。」
「..どうなるってんだよ?」
「終わりだな」
鋭利な音は剣の形を模し、鎧の巨人となりてシンバルの音域を切り刻む。
「何だこれ?」
「音階変化だ。」
音域の中で段階を分けて音を使い分ける事で、イメージした音を具現化する。基本はベースが素材を、ギターがそれを形創る。
「今お前のいる範囲は、巨人兵が彷徨いている。また敵が一人増えた訳だが、どうだ?」
「気分良く見えるか?
..だが甘ぇよ、俺はドラムに勝ってんだぜ」
シンバルを叩く。巨人兵の周囲に小さな壁が出現し、鋭い針を突出させる。針は鎧を貫通し巨人兵を串刺しにする。
「何だよあれ、どういうこったよ!?」
「音壁変化か、シンバル如きが良く腕を振る」
「バカ言え〝シンバルだから〟腕を使うんだ」
過去の戦歴はダテじゃない。
「すげぇなギター、アイツ強ぇぜ。」
「中々やるようだな。だがあっちはどうだ?
..副船長が聞いて呆れる」
壁の向こう側、もう一つの多対一。
「ビブラフォン!」
「バンジョー!」「くっ..!」
柔らかな音が天井を作り、重力を妨げる。弦楽器バンジョーの浮力の効いた音壁によりシロフォンの音は殆ど封殺されていた。
「エレクトーン!」「シロフォン!」
強力な攻撃音をなんとか防ぎながら、ビブラフォンの重力で負荷を掛ける。しかし重力はまるで掛からず守りも体力に頼った間に合わせ、このままでは時間の問題だ。
「なんだお前、弱いな!」
「..誰にモノを言っている駄楽器が、数の利にかまけて敵を煽るな。...恥を知れ」
「あぁ? 打楽器はお前ぇだろ!
虫の息のクセにいきがってんじゃねぇよ!」
「随分とクチの悪い船員だな、長の底が知れる。...さぞ力の無いデクなのだろうな」
彼女の軽はずみな一言は、前乗組員を憤慨させた。満ちた怒りは緒を切って、そのまま音に乗り返還される。
「船長の侮辱は許さん、耳潰してやる..!!」
「..激昂か、まるで信者だな。うちの船長なら笑って許しているだろうに、耳を潰す?
楽器とは思えん言葉だな、神経を疑う。」
最早シロフォンでは返せない怒りの戦慄、高く大きく激しく響く、思いを載せた部下達の親愛なる一撃。
「仕方ない、奥の手を使うか..」
「グロッケンシュピール!」
打の守は形を変え、新たな音へ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます