第4話 捨て楽器、マイナー列車。

 揺れる電車、よく見るとしっかりと線路の上を走っている。空の上を走っていても、やはりガタンゴトンという音はするようだ。


「..で、何しについてきた?」

横並びの席に共に座るシロフォンの奇怪な行動は、何か目的のある行動なのか。


「監視と...護衛だ!

ドラム様が負ける筈は無い。そしてお前が、優れた楽器の筈は..無い。」


「…そうかよ、仕返しとかすんなよ」

機会を伺って不意打ちを仕掛けてくるやもしれない。そんな気の抜けない同行であれば激しく御免被りたいものだ。


「それにしても...ガラガラだな、無人か?

他に乗客がいてもいいようなものだが。」

他の車両は知らないが、乗り込んだ場所の乗客は皆無。二人の他には誰もいない。


「空いてる方がいいだろ。それにあんまり聞いてなかったけど、車掌が何か忠告してたぜ」

発車する直前に口頭で言っていた。

僅かな記憶から絞り出し思い出す、それはとても単純で尚且つとても〝不自然〟な事。


「え〜っと確か..車内では席を立つなとかどうとか、わざわざ客にそんな注意するか?」


「隣の車両の様子を見てくる。」


「あ、おい..」

席を立ち、連結部の扉を開ける。


「何処いくんだよ?」「隣だ。」

通路を通り、別の車両に移動する。一瞬車掌のマヌケな顔が頭に浮かんだが、直ぐに掻き消し知らないフリをした。


「..誰もいないな、元々客が少ないのか?」


「普通そう考えると思うけどな」

満員電車に文句を付けるのはわかるが、快適な空いた電車に不満を持つのは無意味だ。


「次の車両に行ってみるか?」


「いいだろ別に、ここ座ろうぜ。」

空いている席を指差して着席を誘導する。しかし納得のいっていない様子のシロフォン。


「隣に車両に行くぞ」


「やめとけって、今思い出したけど車掌が席を立つなとか言ってたぜ?」


「知るか、あんなヌケサク。」

信用ならない奴の話など聞かない。彼女は余りにも長くドラムの元に居過ぎたようだ。


『そのトーリ! ヤメタ方がいいデスヨ!』


「..なんだ?」「いつぞやのヌケサクだろ。」

アナウンスが突然車内に響き、威嚇するように二人を忠告する。


「なんで他に客がいないんだ!」


『サァ、何故でショウ?

それはワカリマせんガ、そのママ動き続けたらドーナルか、教えて差し上げマショ。』


「うお..」「な、なんだこれは!」

身体が硬直し動けない。自由が効かず、操られるように席に飛ばされ着席させられる。


「ん..なんだ?」「過去の、残像か。」


連結部から、車両に男が入ってくる。

酔っているのか騒ぎ立て、小躍りしながら賑やかに喚き散らしてふざけている。


「かつて此処に乗車した者なのか?

こんなものを見せてどうするつもりだ。」


「…なんか来たぞ。」

男が踊る背後、黒いモヤが浮かび徐々に大きく拡がる。やがてそれは人型になり、踊る男を睨み付ける。


「知ってる顔か?」


「いや、知らん。見た事も無い」

痩せ型の黒い男は暫く相手を睨み付け、その後腕に生やした鋭い金属の鉤爪で背後から男を貫いた。


「おいおい..。」「殺したのか?」

血を流し、倒れたのを確認すると男は消えた。

彼は一体何者なのだろうか。


『アレは〝音割れ〟デス。』


「音割れ?」


「..聞いた事がある。音を奏でる前に壊れてしまった者、奏でられる居場所を失った者、楽器や演奏者の成れの果てだ。」

花形の傘下に降る訳でもなく、ソロでの演奏が際立つ訳でも無いマイナーな楽器達は音を奏でる事が少なくなり、やがて演奏されなくなった楽器は形を崩し傷みきって自我を失う。列車に居るのは、楽器の怨念ともいえる。


「完全に壊して浄化する事は..」


『ムリです。彼らは音を忘れた存在、奏でて見せたトコロで聞く耳はアリマセン。』


「ただ見境なく突き刺すだけって事か..。」

実体の無い者を相手にしても仕方ない

これだけでも、席を立たない理由が出来た。


「理解出来たか?

次の車両に行くなんてまた言わないよな」


「..ああ、静かにしていよう。

船に着く前に傷付くのは御免だ」

刺された男は今どうしているのだろうか。考える事すらも、音を失う要因となりそうだ。


「名も無き音には興味は無ぇさ。」






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