第2話 楽譜の戦士達
戦いの果て...。
「凄いな、40近くレベル高い奴に勝てちまった。..にしても何であんなに音域の数値だけ高かったんだ?」
別に元々楽器やってた訳でもねぇし、特段人より体力がある訳でもねぇのに。
「過去のルーツよ!」
「..あ、なに?」
遠くから叫ぶ声、振り向けば小さく影が見える。ここの奴遠くから叫ぶの好きな。
「音域の大きさは過去の経験の過酷さ!
苦労していればしている程高くなる。」
「過去の苦労?
..てことはつまり、過去の俺の暗い人生がプラスになって数値化してるのか。」
マイナスが随分とプラスに変わっているらしい。苦労こそしてないが、まさかこんなところでぼっち生活が役に立つとは。
「で、アンタらは誰だ?」
「アタシはシロフォン、あっちがティンパニ」
「宜しくお願いします。」
銀色の髪を靡かせながら名乗る名前はシロフォン、ティンパニは側近か何かか?
「さっきまでの演奏、全部見ていた。あのゴロツキ共には手を焼いていたんだ、感謝する」
「なんだ、やっぱりアイツ新人潰しだったのか。..見てたなら止めてくれよ」
「見るという事が大切だったのだ。
..お陰で充分にわかった、君の適正が」
「俺の、適正..?」
「ああ。」
シロフォンは右手を差し出し返事を求める。
「君を我が隊へ招待したい。
一緒に来てはくれないか、シンバル」
「隊?」
得体の知れねぇ連中が俺を隊とやらに誘いやがる、利用するつもりならさせねぇぞ
「俺は一人でやる、今回こそ派手に生きるんだ。ギターやらピアノやらをぶっ壊してよ?」
「シンバル、君は..」
「わかってるよ
どうせ〝冴えないシンバルくん〟だって言いたいんだろ?」
「誰がそんな事を言った?
私は君を〝隊へ招待する〟と言ったのだ。」
「…正気か?」
コイツ、何を企んでやがる。俺の音域を使ってなにか企てようとしてやがるな
「断る!
俺は一人でやるんだよ、隊なんざ知るか!」
「そうか。
..ならば仕方ない、文句を言うなよ?」
「なんだよ..?」
腕を構えた先に鍵盤が出現する。言葉でダメなら力ずくでという事だろう。
「ティンパニ!」「‥私もですか⁉︎」
渋々手を構えた小柄な男の前には特殊な形をした太鼓のような打楽器が出現する。
「そういうことかよ、邪魔すんだな?
俺の音域見せてやる..二人まとめてな!」
「演奏..開始だ。」
シロフォン
セッションレベル85
ティンパニ
「奏でろ、シンバル!」
荒野に3種の音が交わる。
木琴の遊び心とティンパニの軽快な打音、それを纏めて覆うようなシンバルの響く叫び。
「おらぁ、おらぁ、おらあっ!!」
「マズいですよこのままじゃあ!」「……」
叩けば叩くほど響きを増すシンバルの音、音壁もセッションも乱れ始めているがシロフォンは冷静にただ音を鳴らしている。
「ティンパニ、見える?」
「…あそこ、穴が開いている。」
「そう、音域に依存するあまり壁を貼る事に無頓着で気付いていない。そこを突くわよ」
「わかりました!」
性能にかまける余りに戦い方を知らない。これがレベル1と熟練者の違いだ。
「あなを広げるように、鋭くつついて..」
槍のように研ぎ澄ました音を穴へ奏でていく。穴は徐々に押し広げられ、壁にヒビを入れる
「もう少し..ティンパニお願い!」
「はいです!」
打音による重たい一撃。
音壁は割れ、筒抜けとなった。
「突破です!」
「よし、一気に音を流し込むぞ」
空いた大きな隙間に音を盛大に奏でる。しかしその音は再び遮断され、シンバルの元へと届く事はなかった。
「何!? どういう事だ!」
「音壁が..再び直ぐに貼られてしまった!」
元々あった隙も綺麗に修正されている。これも音域のなせる技なのか
「おい、どうしたんだ?
音が響かねぇぞ、演奏やめたのか?」
「あいつ...」
煽ってきてはいるが出来事に気付いてはいないらしい。ただ金属の板を叩いているだけだ
「まさかあいつ..叩く回数で音域を変化させられるのか!」
「音域の変化!?
そんな事が可能なのですか!」
「..わからない、でもやってみよう」
「悪いが俺は止まらんぜ!」
一打目、音域展開
「成程、叩くまで音域は無いのか。ならばこれはどうだ?」
「おらっ!」
二打目を打つと同時にこれでもかと鋭利に研いだ音を放つ。
「..やはりか。」
鋭い音は壁を突き抜け、更なる鐘に当たり消滅する。二打目は音域を壁に変える。
「やはり面白いな、シンバル!」
「久しぶりに声聞くな!
..てかなんで声は聞こえるんだ?」
「肉声は能力じゃない、ただの会話なら音壁を通さずともやりとり出来る。」
「へぇ..。
なら何度叩いたら声は聞こえなくなるんだ?」
力任せに金属板を一度二度、加えて三度連続で叩いた。
「さて、どうなる..?」
「試しに打ってみましょう!」
「あ、まてティンパニ!」
打音が衝撃波となって真っ直ぐに飛ぶ。すぐに掻き消えると思っていたが、悠々に壁を破壊し進み続けた。
「音壁を破った!」
「いや、違う。これは...」
割れた音壁の破片が衝撃波を吸収し、細かい刃のようにしてこちらへ飛んでくる。
「直ぐに音壁をっ!」
「わかってる..!」
音壁を作り防御をするも強度が及ばず、直ぐに刃に崩されてしまう。壁を貫いた細やかな刃は容赦なく二人に刺さり、傷を負わせる。
「くっ..!」
「どうしたよ、こんなもんか?
俺を隊に入れるんじゃなかったのかよ。」
完全に見下し状態、相手が膝を落としているのだから無理もない。
「舐めるな..」
「舐めるなだぁ?
負けたクセしてよく言うぜ、エラそうによぉ」
確実に調子に乗っている。
つけ上がりのさばるか、と思い悩むがいつの世も出る杭は打たれるものだ。
「まったく大した腕だなぁ、新人さんよ!」
「あ、何だ?」
「音壁ぶっ壊しちゃあ後ろガラ空きだぞ?」
気配も無しに背後を取った派手な出立ちの男、腕組み高笑いしながら目は強者を示している。
「あれは...!」
「お師匠さん..。」
「ふんっ!」
掌底で顔を砂に打ち付けられ身動きが取れない。足をバタつかせようと手を振るわせようと男の腕はシンバルの顔を離さない。
「…どうだ、来るか?」
「....ふぁい..。」
抗えない強者に対してどう接するべきか、それは誰よりも理解していた。
「おし決まりだ!
皆の者、直ぐに還るぞ。一つ獲得だ!」
「勝手に決めんな!」そう心の中で叫んだ。
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