第3話 魔物
―――アース星暦 ????年 ?の月 ?日―――
side クラウス・エヴァンス
私はクラウス・エヴァンス。ガイア王国のエヴァンス伯爵家の次期当主だ。
先日20歳の誕生日を迎え、祝いが行われた。その際には婚約者であるメアリーも来てくれた。彼女が16を迎える来年、結婚の約束をした。
順風満帆だった我が領内に暗雲が立ち込めた。
魔物が現れた。
遥か昔、今から約500年前に魔女が率いる一団が王都に侵攻した。その際王都は聖騎士団によって魔女の侵攻を食い止られ、聖騎士団は反撃を行い、魔女の居城は陥落した。
その後、散り散りになった魔物を駆除した。魔物が絶滅したのが、今から約400年程前だと言われている。以後魔物の存在が確認されなかった。
人々にとって魔物の存在は遠い記憶の彼方だ。故に人々―――領民たちは大いに恐れた。
私は父に進言した。魔物を駆除すべきだと、そして私が陣頭指揮に立つと。
家臣たちには大いに反対された。次期当主である私に万一があってはならない、と言われ反対された。だが、父だけは賛成をしてくれた。
「本来なら私が行くべきだ。もし、クラウスが言わなければ私自ら動いていた。だが、私よりも先にクラウスが動いた。これは最早私は当主としてクラウスに負けている証である。いつでも後継を譲れると確信したぞ。‥‥‥‥必ず生きて帰ってこい、クラウス」
父は私にそう言った。家臣たちも父の言葉に納得した。
そして私が率いる魔物討伐の部隊は魔物が発見されたエルディム山に向かった。そこには確かに異形の存在―――魔物がいた。
魔物の容姿は二足歩行で体表は緑の様な濁った色をしている。大きさは人よりも小さいが、手には木の棒を持っている。数は8体、それほど多くはないが相手は古の魔物だ。油断は禁物だ。
だが、手をこまねいている訳にはいかない。
「行くぞ! 我に続け!」
私は剣を引き抜き、斬りかかる。すると、部隊も続き、魔物の斬りかかる。
一体、また一体と倒していく。だが、こちらも一人、また一人と倒れていく。
魔物の力はこちらの想定以上だった。討伐部隊に選んだ者達は我が領内でも選りすぐりの精鋭だ。それを万全を期して50人集めたというのに、8体の魔物との戦いで、既に20人程が戦闘不能となっている。
だが、それでも誰一人諦めず、魔物に剣を突き立てる。
皆の奮闘の結果残り4体まで減らすことが出来た。こちらは30人程、数的優位には立っている。しかし、気を抜くことなど出来はしない。一体ずつ確実に仕留めて行くしかない。
魔物の動きが変わった。これまでは漫然と兵たちと戦っていたのに、狙いを絞ってきた。そう、私を目掛けて攻撃を仕掛けてきたのだ。兵たちも魔物の行動に気づき、私の前に立ち、守ろうとしてくれた。だが、これまでの攻勢から守勢に回ったことで、魔物の攻撃に押し込まれる形に成った。そして、私に魔物の牙が突き立てられんとしていた。だが、
「お逃げください、クラウス様!! グゥッ!!」
「ペール!」
私を庇って、従者のペールが傷を負った。
「貴様!!」
ペールを傷つけた魔物に私は剣を振るう。怒りに身を任せた一撃だった。だが、魔物の表皮は硬く仕留めるには至らなかった。
「クラウス、様、ここは私、が食い止めます。だから、御下がり、ください」
「馬鹿者が!! そんな状態で何ができる!!」
「なに、盾くらい、には、なります」
「っ! 出来るか、そんな事!!」
背後の従者が私に逃げろと言う。
「貴方様は貴族です。平民である私など、お見捨てになってください!」
「うるさい、黙っていろ!」
従者の声を切り捨てた。
今の私の行動は貴族の行動としては可笑しなことだろう。王都の貴族たちであれば、平民を足蹴にしてでも貴族である自身を守るだろう。貴族に代わりはいないが、平民なら代わりがいくらでもいる、と言って憚らない。
だが、私は父上から教えられた、『平民無くして貴族無し』と。平民がいるから貴族がいるのだ。世界に貴族しかいなければ、皆平民と同じだ。支えてくれる者を守る者、それが本来の貴族足り得る、と。私も父の言葉に同意する。私が貴族でいられるのは平民である彼らがいるからだ。故に、私は彼らを守る。普段私を支えてくれる彼らを私が救うのだ。それが私の貴族としての在り方だ。
私は剣を振るい戦った。だが、魔物は硬い外皮に傷を付けるが、倒すことは出来ない。反撃とばかりに魔物は木の棒を振り上げ、私目掛けて振り下ろす。
「グアッ!!」
剣で木の棒を防いだが、あまりに力が強く、衝撃が体に走る。体格では私の方が大きいというのに、力では魔物の方が上だ。
体に走る衝撃で、私の動きが鈍る。だからといって魔物は追撃の手を緩めない。
「ぐっ!!」
手に、体に、全身に衝撃が走る。だが、倒れる訳にはいかない。私はクラウス・エヴァンス、エヴァンス家次期当主だ。貴族として生まれ、生きてきた以上、平民の前で無様な姿は晒せない。
私は渾身の力で剣を振り下ろす。だが‥‥‥‥剣は天高く弾き飛ばされた。
「な!?」
弾き飛ばされた剣に手を伸ばす。だが、剣は遥か高くに飛んで行き、届かない。だが、突如上空に何かが現れた。
人、か? それとも魔物か? 空から落ちてくる何かは、私の手放した剣を掴んだ。そして、空から落ちながら、回転し、魔物の頭上から剣を振り下ろす。
「グギャア!?」
上空から振り下ろされた剣は魔物を斬り裂いた。
side out
扉をくぐったら、そこは‥‥‥‥明るかった。
命の灯を感じた。自然に、空に、大気に、生命の息吹を感じた。だが、何か不穏なものを感じた。これは、何かイヤな気がする。
そして、今も何か変な感じがする。なぜなら‥‥‥‥空に浮かんでいるからだ。
うお!? なんだ、この状況!?
自分が空に居て、地に向かって落ちて行っているのは分かった。どうにかしないといけない。幸い、自分が落ちている方向が向かって体勢を整えればいい、というのは分かる。
体の向きを変え、地に落ちる体勢を考えた。そんな最中、目の前に何かが飛んできたので、咄嗟に手に取ってしまった。それは、剣だった。
記憶にある中にはないシロモノだった。だが、何となく使い方は分かる。たぶんこれは叩くとか斬るとか、そういう用途で使うものだろう、と思った。
下に目を向けると、剣はたぶん茶色の髪の方のかな、手には何も持っていないが、相対している緑色の方には武器を持っている。それに、どうにも嫌な気配がするのは緑色の方からだ。ならば、これを使わせてもらおう。幸い、使い方も何となく分かるし。
俺は緑色の方に落ちるように体勢を調整する。そして、丁度地に落ちる瞬間、剣を振り下ろす。
「グギャア!?」
緑色の頭が斬り落とされ、体の動きが止まる。
フューチャー・バトン あさまえいじ @asama-eiji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。フューチャー・バトンの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます